-07:鉱山の町-
アスラエル。
アルセア国の北に位置する隣国、イダラ国との国境の町である。アルセアとイダラの間にあるイアルダ山の麓にあり、鉱山の町としても有名だ。イダラとの国境に位置する事もあり、輸入品も多く市場に出回っている。また、アスラエルを収めているのは、代々フェザリードル家である。
鉱山と異国からの物品で、人々が多く集い、市場は賑わい、華やかな町である。
―07:鉱山の町
隣国、イダラ。
どんな、生き物とでも心を通わせることができる不思議な人種といわれている。人間だけでなく、言葉を持たぬ生き物とでも心が分かるため、各国からもその手が伸びることが多い。
そんな、イダラとの国境、アスラエル。その町は警護がより強化されていなければならない。アルセアでは人身売買の類は禁止されている。しかし、禁止したからといって、即刻、人さらいが減るなど、ありはしなかった。
そのため、アスラエルにはそれなりの騎士団の人間がいて、当然のはずなのだ。
「……階級、桃、か。騎士長が緑止まりとは、どういう事」
騎士団には階級がある。
各地域には騎士長がおり、たいていは上三位階級以上の者が就く。その上には、騎士団長がおり、まとめている。現騎士団長は史上最年少の騎士団長である。若干27歳で騎士団長に上り詰めたのは異例中の異例だ。そして、その階級は騎士たちがつけている騎士団章のガラス玉部分を見れば分かるのだ。葉の様な騎士団章、その葉柄部分にガラス玉が埋められている。
桃色は下から2番目である下二位、緑色は中一位である。その他、最高位の上一位は黒、上二位は紫、一番下の下三位は白である。
「……こんな警備が必要なところなのに何を考えているのだか」
1人呆れながら、騎士団の様子を伺った。その後、とりあえず、町を回る必要があると思いその者はそこから離れた。影は誰にも気が付かれずに立ち去った。
賑わう町中を歩いて少しその雰囲気を楽しもうとしていたが、それを警備していると思われる騎士団員に目がいった。騎士団員の階級は、白。どれを見ていても白である。白が何故1人で警備をしているのか、それを考えるだけで頭が痛くなっていた。
白は一番下の階級ではあるのだが、実際、下三位というよりは見習い、とされた方が一般的である。
見習いの人間が1人で見回りをしなくてはならない状況にあるのか、それとも、わざとそのようにしているのかは分からない。それがどうあれ、考えていることはおかしい。
「ここの騎士団はみんな下の階級なのね」
彼女は手短な店に入り、カウンター席につきながら、その店のマスターに何気なく話しかけた。マスターは苦笑いをすると小さな声で話し始めた。
「あんまりそういう事を言いなさんな、ねぇさん。まぁ、最近聖都は物騒だって聞く。それで、主要なもんはそっちに行っちまったって話だよ。でもなぁ、こんな事大きな声で話してっと騎士からいろいろ言われるのさ。曲がりなりにもここを任された騎士だ、階級なんぞで比べられたくないんだろう。プライドってやつかね」
マスターは渋い顔をしながらそう教えてくれた。相槌を打ちながら話を聞き、それが終わってからコーヒーを一杯注文した。
窓から見える、賑やかな町の様子は何故だか、表面上だけの様な気がしてならなかった。
(……聖都。あいつの考えか)
目の前に出されたコーヒーはいい匂いを漂わせていた。
――聖都、クリスタス。
「ジルファ、最終確認だ」
かちゃりと眼鏡を外し、問いかけた男は筆をおいた。今しがた書き終えた書類を差し出す。そして、ジルファと呼ばれた男が、差し出された書類を受け取り、さっと目を通すと、頷いて出ていった。その素っ気ない態度に、ため息を吐いたが、いつもの事であるために仕方ないと男は思い始めていた。
ゆっくりと椅子から立ち上がり、窓の外を眺めた。
「……いつの間に、あの町は手薄になっていたんだ」
ぽつりとつぶやいた男の、マゼンタの瞳は窓の遠くを眺めていた。
お久しぶりになってしまいました…すいません。
また、かめさん更新ですが、お付き合いください。
2015/2 秋桜空