-67:追う過去5-
朝日が窓から差し込み、ルーナは目を覚ました。目覚めた部屋が今までとは違い、豪華だったことにここはお城で、自分は姫だったことを再確認する。与えられた部屋は広く、ソファやテーブルがある部屋と寝室に分かれている。3人くらいは簡単に寝られそうなベッドの上で起き上がり、とぼとぼとソファのある部屋にルーナは歩いていった。
寝室ともう1つの部屋は特に扉で仕切られているわけではなく、寝ぼけていてもルーナはぶつかることなくソファに身を沈める。ふとテーブルに目をやると、寝るときまではなかったグラスと水の入ったガラスの入れ物があった。用意がいいとルーナは驚きながら、グラスに水を注ぐ。
「おはようございます。起きましたか?」
ぼーっとしていたルーナは扉をノックした音にも気がつかず、グラスに水を注いでいた。危なくグラスからこぼれそうになった水を見て、慌てて注ぐのをやめる。ルーナは急いでガウンを羽織り、ドレッサーの上にあるヘアブラシで軽く髪の毛を整え、扉の前へ急いだ。
「おはよう、ファ……リヒト……皇子」
いつもの様に挨拶をしたが、リヒトがリヒトで皇子だったことを思い出し、慌てて皇子を付け加える。格好も皇子のようなきちんとした姿で、腰にはペンダントのものとは違う剣もさしていた。どこからどう見ても高貴な人であると伺える。リヒトは笑い、ルーナに挨拶を返した。
リヒトの髪の毛はすっかり元の白色に戻っており、朝目覚めたばかりのルーナには少し眩しい。目をこすると、リヒトは視線を逸らした。
「目覚めたばかりの女性のもとへ来るなど作法がなっていないと思ったが、昨日いろいろありましたから……。身支度が整ったらお話をしてもいいですか?」
「……ええ」
「では、準備が整いましたら内側からノックして下さい」
扉が閉まり、ルーナはふーっと息を吐いた。
リヒトは完全に皇子にしか見えなかったのだ。言葉遣いも丁寧になり、ルーナのこともただの女の子ではないような接し方だった。そこに少し寂しさと、胸の苦しさを感じつつ、ルーナはいつまでも待たせないように急ぎ気味で準備を始める。少しすると昨日部屋を案内したメイドも部屋にきて、身支度を手伝った。
「姫様。昨日トイズ当主様から伝言を預かっております」
薄い黄色の膝下まであるワンピースを着て、髪の毛も結ったルーナの姿を見てメイドは頷く。ひとまず仕事を終えたメイドが部屋を出ようとしたとき、一枚のメモをルーナに渡してきた。メモには王が話に来ると書いており、ルーナに緊張が高まる。
「……国王様がいらっしゃるのかい?」
いつの間にかメイドではなくリヒトが部屋にいた。どうやら、メイドが出てきたところで準備が終わったと告げられ入ってきたようだ。
メモをのぞき込んでいたウルトラマリンの瞳がルーナに向けられる。ルーナはメモをぎゅっと握りしめた。
「え、ええ……。私の事を話してくれるみたいで」
「そうか、話が出来るようで良かった。それが心配で話そうと思っていたんです」
リヒトは安堵の表情を浮かべ扉に視線を送る。
「そろそろ国王様がいらっしゃるようなので、私は行きますね」
リヒトが部屋を出ていこうと扉に向かうが何かに遮られて動きが止まる。リヒトが振り返ると俯きながらリヒトのマントの裾を掴むルーナの姿があった。
「リ、ヒト……皇子……。皇子の都合が悪くなければここに居て下さいませんか……?」
ルーナは1人で話を受け止められそうになかった。何より、王が父親だと確定したのはつい先日。まだ2人きりで話をするのはどうしてもルーナには出来そうになかった。
リヒトはいくらか傍にいたし、旅もした仲だ。ルーナのことも分かっているため、一緒に居てもらった方が安心だと彼女は考えたのだ。
「……居ても大丈夫?」
「む、むしろ居て! 国王様と2人は心臓が持たないわ」
リヒトは緊張しているルーナの気配を感じ、砕けた言葉でルーナに話しかけた。ルーナもつられて、以前話していたように喋る。
「やっぱりルーナに話す時はこんな感じじゃないと慣れないな。2人の時は前のように話しても良い?」
「勿論よ! 私もどうもむず痒いわ。それに、いきなり姫らしくしろって言われても私には無理」
言い切るルーナにリヒトは吹き出した。失礼だとは分かっていたが、リヒトはルーナに背を向け笑う。
「ちょっと……」
「大丈夫、意外と姫らしかったよ」
「意外と、って!」
ルーナはふいと顔を背ける。リヒトはその姿が面白くてまた笑った。
すると、扉をたたく音がして、ルーナはすぐに固まる。王がきたのだと思った瞬間ルーナの表情がかたくなった。
「随分と楽しげに話していたようだね」
「おはようございます。国王様」
「お、おはようございます」
リヒトは慌てず丁寧に挨拶をする。ルーナは反対に言葉を詰まらせながらも礼をした。
「ルーナ、お前にすべて話そうと思って今日は来た」
王はちらりとリヒトを見た。ルーナはその視線の意味が何となく感じられ、慌ててリヒトの前に歩み出る。出ていけと暗に言われているリヒトをこのまま部屋からだしてしまえば、緊張に耐えられないとルーナは必死だ。
「国王様、リヒト、皇子にもこの場に居て欲しいのです。途中からですが、私を守り、ここまで連れてきて下さいました。彼が知っても良いと、私は思います」
はっきりと目を見ていったルーナに王は微笑んだ。そして、ちらりと後ろにいるリヒトに目を向け笑いかける。ルーナから見れば了承した優しい微笑みだったが、リヒトは息を飲み、ぎこちなく笑って返した。
リヒトが後ろでヒヤヒヤしていることはルーナには分からず、許してもらえたことに喜び、安堵して王をソファへと促す。メイド出て行く前に用意した紅茶を王とリヒトの前に出し、ルーナとリヒトも座った。
「さて、どこから話そうか……。そうだな……やはり、アルセア・帝国戦争から話そうか」
王から語られる話にルーナは耳を澄ました。




