-64:負う過去2-
長かった、そう思ったのは自然なことだとリースは勝手に考えている。
リースが立っているのは、荒れ果てた村だった。もう地図には存在しない村だ。草がぼうぼうと生え、道の舗装はボロボロで馬車で通ったなら乗り心地は良くないだろう。
風が吹くと廃屋のドアがキィと音を立てて開いたり閉まったりを繰り返す。空っぽの家を通り抜けた風の音は泣いているようにもリースには聞こえる。
リースは周りを一度見渡してから馬を下りた。適当な場所に馬をつなぐと、一点だけを見てすたすたと歩き始める。
着いたのは墓地だった。
墓地だけは何故か綺麗で、墓標が2つ少し離れてたててあった。近くに生える大きな木は緑色が眩しく、色のない村の様子に色を添えていた。
そして、その木の下のは花束を握る、青年が立っていた。騎士団の制服に身を包んでいることが後ろ姿からも分かる。ダークバイオレットの髪の毛がサラサラと風に流されているた。
足音に気が付いたのだろう、青年は振り返る。マゼンタ色の瞳がリースをとらえると、大きく見開かれた。
「お前、は……」
「久し振りですね、兄貴」
リースはマゼンタ色の瞳を見つめて何食わぬ顔で言う。一方言われた方は口をぱくぱくと動かすだけで、声になっていたかった。
「言いたいことがあればどうぞ」
「からかっているのであれば許しはしないぞ。俺を兄貴と呼ぶ事を許しているのはこの世でたった2人だ」
リースは1つの墓地の前まで歩み寄る。騎士団の青年は顔をしかめリースを見ていた。
「ここを綺麗にしていたのはあなたですか?」
「自分の家と師の家でもあるのだから当然だ」
リースはしゃがみこんで墓標に刻まれた文字に触れた。冷たさが手に伝わる。
「『トラン家ここに眠る』」
硝子の繊細な品に触れるかのような、その優しい触れ方にマゼンタ色の瞳は目を離せない。しかし、それと同時に苛立ったのも確かであった。
「いい加減名乗れ」
低い声で騎士団の青年が言うと、リースは立ち上がり、対峙した。
「知っているでしょう? アルセア国騎士団長アズウェル・T・スラクス殿」
「……信じられないから聞いているんだ」
マゼンタ色の瞳を持つ青年、アズウェルは眉間にしわを寄せている。今、アズウェルは混乱しているのだ。久し振りに墓参りに来てみれば、昔の面影のある、会うことは出来ないと思っていた人間がいるのだから。
「あなたの思っている通りですよ、兄貴」
リースはニヤリと笑った。
「本当にリアレス……。リアレス・トランなのか……?」
今まで「リース」と呼ばれていた青年はアズウェルが狼狽えていることを面白いと思いながら見ていた。
自分よりも7歳ほど年上にも関わらず、随分なことだと思い、その様子を見る。同時にこんなことで平静さを失うとは騎士団長ともあろう人がと、この国の騎士団を心配した。
「どうして、お前は13年前に……」
「そうですね。13年前に死にかけました」
「何を知っているんだリアレス」
風が2人の間を吹き抜けている。まるで、それ以上近づかないようにラインを引いているようだった。
「よくもまあキューズなんかの下についていられるものですね。尊敬しますよ」
「話を逸らすな」
「ファスタシア・K・キューズがこのバグライドを終わらせた張本人であっても、ですか?」
アズウェルは言葉を詰まらせる。
「何を、言って──」
「少し、昔話をしましょうか」
リアレスは村を見た。相変わらず酷い有様だったが、それでも自身の故郷であるがために、どうしても愛おしく見えてしまう。
「このバグライドが悪夢の村と化す話を」




