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Mad Clown  作者: 彼方わた雨
chapter 6 ~過去と過去~
61/95

-61:追う過去1-

ー此処までのあらすじー

ルーナ・スタートルテは両親を殺され、その犯人である狂愛(ハート)道化師(ピエロ)を追うこととなる。

しかし、ともに旅をしてきたリース・グレイがその道化師だったことが、フレバで発覚する。そして、突然の別れとなった。信じていたリースに裏切られ悲しむルーナ。それでもまだ知らぬ事を知る為、ウロストセリア帝国の皇子ファルシュ(リヒト)と共に聖都クリスタスへ行くことを決める。



ー登場人物ー

ルーナ・スタートルテ(ルーナ・K・クリスタス)

育ての親を道化師に殺される。その道化師を追っていた。

さらなる真実を求め、聖都へと向かう。


リース・グレイ(本名不明)

ルーナと共に旅をしていたが、フレバで別れを告げる。


ファルシュ(リヒト・ウロスタリア)

アルセアの隣国、ウロストセリア帝国の皇子。

パワグスタでの一件後行動をともにする。



「フレバから馬で移動した方いがいいと俺は思う。ミュレット・シャッテンが指名手配されているとはいえ、お前がここにいる限り、そいつは見つかることがない。さらに言えば、そいつはもう居ない。だが、皇帝が我慢できるのも時間の問題だ」


 シエーラの家から宿屋に移った後、2人は地図を取り出して、暗くなった部屋の中でお互い立ったまま話をしていた。ファルシュは蝋燭の光がゆらゆら揺れていたのを思い出し、現実か、夢か、それとも幻か。今となっては分からなくなってしまった。


「ここから先はお前が頼りだ」


 何のことだとファルシュは問いかけるが、何か意味ありげに笑うだけで本当の所は全くわからなかった。今思えば、この状況を予知していたのだろうとファルシュは考えている。


「途中には水の都ウォルタスもある。疲れたらそこで休息を取ればいい。まあ半月程度で着くんじゃないか?」


 リースは地図を指さし、ルートをなぞって説明する。フレバから聖都クリスタスへは比較的平らな道が多く、さして足止めを食らうことはないようだった。


「ルートの説明ありがとうございます。ルーナには言わなくてもいいのですか? 俺なんかよりもこの国については詳しいのでは?」

「残念ながら、あいつは箱入りだ。お前の方がよっぽど役に立つ」


 ファルシュは「確かに」と、地図に視線を落として頷く。パワグスタからフレバでの道中、ルーナとリースが旅をする理由を聞いていたファルシュはルーナの身の上も少しばかり知っていた。


「彼女はいったい何なのですか?」

「……金色の瞳。あれは王家の証拠だ」


 ファルシュは意外な返答に地図から目を離し、リースを見た。てっきり、軽くかわされるかと思っていたからだ。

 それに以前、金色の瞳は必ずしも王家の証ではないとリースが言っていたことに反しているのではないかとファルシュは疑問に思う。


「でも、以前は……」

「確かにそう言った。なぜ、生と死の力を王家が持っているかは話したか?」

「いえ」


 リースはその返事を聞くと、ファルシュに椅子に座るよう言い、自身も椅子に身を沈めた。


「この国は生と死を司るといわれる女神アルセアが創ったとされている。国を自らが統治したいと思ったが、女神が地に降り立つことは出来なかった。だから、人、まあ統治者や王に己の力を分け与えた。力がある者には従うだろう?」


 ファルシュは頷き、先を促す。


「つまりは神の力であるんだよ。そして、神につき従い国を導く。故に〈神仕え〉」

「それで、その話がどう……?」


 リースは前に乗り出し、ファルシュじっと見る。そして、口の端を少しつり上げてこう言った。


「神の力、と言ったじゃないか」


 言葉の理解はすぐにはできなかったが、リースのその言葉を聞いてファルシュはぞくりと背筋が凍った。

 頭の中で反芻するとファルシュはだんだん顔をしかめていく。


「神の力は王だけにあるからこそ意味を成すのでは?」

「逆に問おう。神の力が王だけでなく使えるとしたら?」


 蝋燭の光がリースの紅い瞳を照らし、ゆらゆらと揺れている。どこか仄暗いリースの瞳にファルシュは息が詰まりそうだった。


「帝国・アルセア戦争はその発端だな。あの王のお陰で、この国で神の力を戦いに使うだけでなく、神の力を王家以外に持たせようとする動きがある」

「そんな……。では、どうしてルーナは王家の者だと確信が?」

「ユースリア、と言ったか。あの女を見たと思うが、本来神の力だ。そうほいほい様々な人間が使えるわけではない。ユースリアの心は死んでいただろう?」


 ファルシュは2人にフレバ付近で襲われたことを思い出してみる。確かに、ユースリアはその時、感情をいっさい抱いてはいない様子だった。


「ルーナはその様な何かがあるわけじゃない。そして、力の強さだ。かなりの広範囲で力を使えていた」

「しかし、彼女は何も知らないようですが……」


 リースは椅子の背に寄りかかり、ふーっと息を吐いた。


「まあ、それに関しては俺も何も分からない。王族もいろいろ苦労するんだろうよ。どっかの帝国皇子と同じように、な」


 ファルシュは思い当たることがありすぎて苦笑いするしかなかった。

 それにしても、だ。ファルシュはリースが随分といろいろ知っていると感じた。アルセアの人間はこんなことまで知っているのだろうか、と沸き上がる疑問はリースが差し出した小瓶で口から紡がれることはなかった。


「ええと、これは?」

「髪を染める染料だ。フレバで育てている植物から作ったらしい。いつまでもフード被っているわけにもいかないし、馬ならフードが脱げる可能性がでかい」


 蝋燭にかざしてみると中に黒っぽい何かが入っていた。ファルシュが瓶を振ってみるとシャカシャカ音を立てる。


「色はブラウンだ」

「ありがとうございます。さすがですね」


 リースは「普通だろ」と言って地図を丸め始めた。そして、丸め終えた地図をファルシュに渡す。


「じゃあな」

「また明日」


 リースはすたすたと歩いていってしまい、ファルシュは慌ててドアの奥へ姿を消してしまう前に言った。ファルシュが言い終えたのと同じにドアは閉まる。

 その時ファルシュは消えた後ろ姿に不安を感じた。その不安の正体を知ったのは翌朝のことになる。


*****


 ファルシュは鏡に映るブラウンの髪をした姿に違和感を覚えつつ、リースのことを考えていた。

 手の中に収まる小瓶に目を落として、意味もなく手で転がし、その様子を見つめる。何を考えるわけでもなく、ただ。

 そして、ギュッと握りしめ鏡の自分と向き合った。ブラウンと言っても少し黒が混じったような髪色は慣れるまで時間が掛かりそうだとファルシュは再び思う。色を選んだリースにもどうかと問うてみたかった。


「リース、あなたをそんな人だとは思えないんですよ……」


 ファルシュは立ち上がり、小瓶をポケットに入れる。

 自分と同じように信頼を置く者に裏切られた少女をリースの代わりに守らねばとファルシュは思う。その少女に呼ばれ、柔らかな表情を向けたまま、心の中で固く決めた。


「ファルシュ、その髪色も素敵ね」


 泣きはらした後だというのに笑顔を見せるルーナに心が痛くなったファルシュだが、ここで心配していたら彼女の頑張りをむげにするとファルシュも笑顔で応える。


「いいでしょう?」

「ええ」


 ドアをあけ、太陽の光が射す外へと2人は踏み出した。



新章です。お願いいたします。


2017/3

彼方わた雨

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