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Mad Clown  作者: 彼方わた雨
chapter 5 ~禁忌の花~
59/95

-59:突然のユウゼンギク-


 頭の中がもやもやする。

 ルーナを支配するのはどうしようもない疑いと困惑。


 昨晩のことはフレバの騎士団に任せ、今3人は町の宿屋に身を寄せている。

 シエーラは禁忌の花、ルビーローズという薔薇を育てていたようだった。なぜ禁忌なのかというと、この花は人間の血を栄養とするからだ。別名血色薔薇とも言われる由縁ここである。

 一時期、この花の色が鮮やかで美しいと多くの所から注文を受けていた。そのおかげでフレバも発展し、町は潤っていた。しかし、栽培方法が町以外の人間に露見し、非人道的として、栽培を禁止されたのだ。

 だが、今でも一定の需要はあり、また、その希少価値から高値で売買されていたようだ。

 シエーラはどこで栽培方法知ったのかその薔薇を育て、何も知らない旅人の血を花のために採取していた。


(確かにショックだけど……。でも、今は……)


 ルーナが引っかかっていることはそれではなかった。



―59:突然のユウゼンギク(さようなら)



 コンコン。


 ドアから微かに返事が聞こえ、ルーナはドアを開ける。目の前にいるのは無表情な彼の姿。

 窓辺の席で何かの書類を読んでいる。


「何の用だ」

「ねぇ。リースは昨日の夜、部屋にいたの?」

「ああ」


 リースは資料に落とす視線を変えずに返事をした。

 その態度にルーナは無性に腹が立った。ドアを乱暴に閉めると女性としてははしたなく足音を大きくたてて椅子に座るリースの横に立つ。


「嘘よ」


 リースは資料をめくる手を止めた。


「ねえ、どうして……。どうして……」


 ルーナは高鳴る心臓に手を当てて深呼吸をした。だが、いっこうに収まってはくれないことに焦りを感じる。

 仕方なく、そのまま、リースをじっと見つめた。


道化師(ピエロ)の格好をしていたの?」


 そこでようやくリースはルーナを見た。ルーナに緊張が走る。

 リースはニヤリと笑った。


「やっぱり、気がついていたか」


 リースは資料をまとめると目の前の椅子に座るようにルーナに指示する。大人しく言うとおりに座り、2人は対峙した。


「左手の、私があげたブレスレット……。あれはリース以外つけているなんてあり得ない」

「……やっぱり、外せば良かったか」

「ねえ、どうして、どうしてなの!? 今まで旅をしてきて、ずっと私のことをあざ笑って居たの? 隣にいる(かたき)に気がつかない馬鹿な私をあざ笑っていたんでしょ!?」


 ルーナはつかみかかりそうな勢いで言葉を吐き出す。


「お前の両親を殺した覚えはない。あれこそ道化だ」

「答えになっていない!」

「お前は自分が何者だと思っている? 何となく気がついていると思うがな」


 その質問にルーナが言葉を詰まらせるとリースは面白そうなものを見る表情になった。


「お前はリスターなんて田舎出身じゃない。その瞳、能力……紛れもない王家の人間」

「聞きたくない、知らない……!」

「受け入れてお家に帰んな。スタートルテのことも聖都にいけば全て分かる。お前のことも。俺の言ったことが嘘じゃないってことも分かるし、スタートルテが何で死んだかも分かる」


 ルーナは何となく自分が普通とは違うことを知っていた。最近になり特にあの女の言ったことが頭に残っている。でも、信じられなくて、信じたくなくて、ルーナは現実を受け止められないでいる。


「リースのこと信じていたのに……」

「"リース"は信じてもいい。だが、俺は"リース"じゃない」

「どういうこと……?」

「大体、お前が信じていたのはお前が作り上げたリースだ。本当のリースもそこにはいない。人間は勝手に作り上げた人間を信じ、勝手に裏切られる。面倒くさいな、本当に」


 ルーナが信じていたものは初めから偽りで本当ではなかったという可能性。勝手に信じて、勝手に裏切られるとリースは言ったが、彼女は素直にその言葉を飲み込めなかった。

 リースに言われて確かに思うところはあったが、リースという人間をその行動によってルーナは知ってきたつもりであった。だからこそ、それが偽りだとは思えない。

 しかし、"リース"という人間自体が本人によって作られたものとなれば話は変わってくる。


「あなた、一体何者なの……?」

「俺はお前の育ての親を殺した殺人鬼の道化師だ。これじゃ不満か?」


 リースは椅子の背にもたれかかってルーナを挑発するように見た。リースの右側から当たる光が表情に陰をつけルーナは一瞬怯む。


「な、納得いくわけないじゃない。大体あなた達はどうしてこんなことをしているの?」

「それは俺も答えられない」

「じゃあ、何なら答えるの」


 リースは顎に手を当て数秒間、目を伏せて考えていたが、首を横に振るだけだった。


「何よ……。じゃ、じゃあ、何で私と旅をしたの? 私が王家の人間だって知ってたから? 私の為についてくる必要はなかったじゃないの」


 ルーナが紅い瞳を見て尋ねると今まで余裕そうだったリースの顔が少し歪んだ。その変化に気がついたルーナは不思議に思う。


「……別にお前の為じゃない。都合が良かっただけだ」


 リースはすぐに無表情に戻り、それだけ言って椅子から立ち上がった。

 逃げられると思ったルーナはリースの前に立ちはだかる。


「待ちなさいっ」


 リースはルーナを見下ろし、冷たい瞳を向ける。リースは「そういえば」と呟いた。一歩近づいたリースにルーナの心拍数があがる。

 リースの右腕がルーナ右腕をぐっと掴み、投げ飛ばすかのようにルーナを壁に追いやる。軽く背中をぶつけたルーナは痛みに一瞬目を瞑った。喉元に右腕を捕らえたままのリースの腕があり、ルーナの息が軽く詰まる。次に目を開くと目の前にリースの紅い瞳があり背筋が凍った。

 リースの顔が迫り、ルーナが今度は堅く目を瞑った。気配が近づき、右半分を隠すかのようなリースの前髪がルーナの頬を不気味に撫でる。


「お前はこんな殺人鬼と2人きりで怖くないのか? それとも馬鹿なのか?」


 ルーナは耳元でそう囁かれ、恐怖で体が強ばった。


(そういえば、私、1人で来るべきじゃなかった……!)


 スッと拘束が解いたリースは軽く笑い、へなへなと座り込むルーナをおいて荷物を持つ。



「じゃあな、ルーナ。これでさようなら、だ」



 ひらりと窓から消えたその姿に、何故かルーナの瞳から熱い滴が零れた。



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