-52:ラケナリアとブレスレット-
「ああ、何でこんな事になっているんだろう……」
ルーナは今まで一生懸命作っていたブレスレットを握りしめている。立っているのはリースが休んでいる部屋の前。シエーラに背中を押されて勢いで来たのはいいものの、ここまで来て立ち止まってしまったのだ。
(私は別に、リースの事なんて何とも思っていないし……。第一助けてもらって心強いなぁと思って一緒に旅をしているだけだし。何も特別な感情を抱いているわけじゃないのに。シエーラさんが変なこと言ったからこういう風にリースに顔向けできないのであって――)
頭の中を埋め尽くすのはどうでもいいような今のルーナには重要な事であった。
「そうよ、別に何とも思っていないんだから。入って渡すだけ。これは日頃の感謝。それ以上でもそれ以下でもない。そう、感謝よ」
ぶつぶつ唱えてようやく決心がつき、ルーナはドアノブに手をかけた。
―52:ラケナリアとブレスレット
入った瞬間ルーナは拍子抜けした。リースは寝息をたてていたのだ。
「損した気分だわ……」
寝ているのならわざわざ起こす必要もない。ベッドの横に置いておけば気が付いてつけてくれるのではないかとルーナは考えた。握りしめていたブレスレットをそっと置いて、その場を去ろうとしたが、足が止まる。
(リースは果たしてつけてくれるのだろうか)
ルーナの頭に浮かんだ疑問は徐々に体中に広がっていく。リースの事だ、バカバカしい、面倒くさいなど言いかねないとルーナは思った。
さっき置いたばかりのブレスレットを再び手の中に戻し、布団から出ているリースの左腕に視線を送る。寝息は聞こえているが心配になり今度はリースの顔を伺う。瞼は閉じられており、すやすやと眠っていた。
腕につけようと、そっと手を伸ばす。
「……ん」
「……!」
するとタイミング悪く、リースが寝がえりをうつ。今まで狙っていた左腕は反対側に行ってしまった。ルーナは息を整えながらベッドの反対側に向かう。
そして、恐る恐る左手にブレスレットを通し、固く結ぶ。緊張で手が震えてなかなか強く結ぶことが出来ず、最後に少し時間をかけてしまう。
その間はリースの様子を伺ったり、手元を見たりと大忙しだ。
(あと、最後に固く結んで――)
きゅっと結ばれリースの左手につけられた薄紫と赤、白のブレスレットを見て今まで止めていた息を一気に吐き出した。
(これでよしっと――っ!?)
ドアへ向かって歩き出そうとしたが、ルーナは強く手を引っ張られた。
「なんだ。夜這いか?」
「リ、リース!」
引っ張られた勢い余ってリースが寝ていたベッドに倒れ込んでしまい、目の前に上半身を起こしたリースの胸元があり飛び上がる。
逃げようとしたが、その右腕はきっちり捕えられたままだ。
「お、お、起きてっ」
「何をしているかと思ったら……。勝手にこんなもんつけやがって」
「こ、これは……ひ、日頃の感謝のもので! シエーラさんが、教えてくれて。折角作ったのにリース自分からは絶対つけないから……」
リースの左腕に囚われた右腕に意識が行くのと、リースの反応が怖いのとルーナはいろいろな感情が溢れていた。
リースは左腕のブレスレットとルーナを交互に見つめてため息を吐いた。
「……不審な輩かと思った。下手したら俺は殺していたかも知れないぞ。気を付けろ」
「ご、ごめんなさい」
しゅんとなったルーナを見て、リースは腕をパッと離す。そして、改めて左腕につけられたブレスレットを観察した。ところどころ編み方がおかしかったり、ほつれそうになっていたりとルーナの不器用さが伺えた。それを見て笑わずにはいられず、思わず吹き出す。
「……?」
「不細工なブレスレットだな」
「なっ!」
「取れるまでつけておいてやるよ。どうせ、すぐ取れそうだけどな」
「絶対取れないんだから! 馬鹿にしないでよね」
ルーナは笑うリースからぷいと顔を逸らし、むくれた。
「……そう言えば、夜這いって何?」
「……冗談が通じてないのでなくて、意味が通じてなかったのか。何でもない気にするな」
「じゃあ、ファルシュに教えてもらうわ」
「それはやめてやれ」
「なんで?」
ルーナに浮かぶ疑問にリースはいつまでも答えてはくれなかった。
(……なんだかんだでつけてくれて良かった)
長らくお待たせしました……。




