-51:これはフクシア?-
「アロマブレス……?」
手渡されたブレスレットの様な物をルーナはまじまじと見る。何色かの色に染まった糸を編み込んで作っている様だった。アロマという事だけあって、ブレスレットからはほのかに花の良い香りがする。
それを見たファルシュは自分には合わないと思い、あてがわれた部屋で休むと2人をその場に残した。
「素敵でしょう。怪我している彼の為に作りましょうね」
ルーナの手からはブレスレットが落ちそうになった。
―51:これはフクシア?
何と言って良いのかもわからずに口をパクパクするしかないルーナをよそに、シエーラは淡々と準備を整えていた。
(彼って、彼氏……? 彼氏という事は恋人で、私とリースが……? そう見えるの……?)
頭の中でぐるぐると考えが巡り、顔が火照る。ルーナは今まで考えた事もなかった事を突き付けられてどうしたらいいか分からなくなった。
「あら、違った?」
シエーラの様子から悪気があって言ったのではない事はルーナにも分かったが、恋愛に頭が回せるほど余裕がない。オーバーヒートしてしまいそうになるルーナ。シエーラの問いに錆びた機械のようにギギギと首を縦に振った。
「ごめんなさい。でも、きっと喜ぶわ」
机を使えるように、のせてあった花をどかすシエーラ。腕いっぱいに抱えられた花に顔をよせ微笑む姿が可愛らしい。
喜んでもらえるのなら、とルーナはシエーラに作り方を習うのだった。
「気分もすっきりするカーネーションの香りも良いと思うのですが」
「うーん。それよりもリラックスとか安眠できるラベンダーの方が良いと思うわ」
机に2ついすを並べ、香りのついた糸でブレスレットを紡いでいく。花を乾燥させたものが糸の中には織り込まれており、シエーラが考えたものらしい。いろんな色、いろんな香りを試しながら、談笑しながら作っていった。
「お花屋さん素敵ですね。いいんですか私にばっかりかまって」
「いいのよ。ほら、どうせお客さん来てないでしょ?」
並べられて花たちはきらきらとしているのになぜか道を通る人々は見向きもしなかった。フレバには花が沢山あって、人々は見飽きてしまっているのかとルーナは思う。ルーナが尋ねるとそうではないらしい。
「いいえ。フレバの人は花が大好きよ」
「じゃあ、どうし――」
「さ、作りましょう」
シエーラは確かに笑っていたのだが、その目の奥でこれ以上触れるなと言っている様だった。ルーナは聞くことが出来ずに、手元に視線を移して作る事に必死になった。そう、見せた。
ルーナは悪戦苦闘し、3時間かけてようやく1つのブレスレットを作った。ラベンダーの薄い紫色とリースの瞳の色である赤、そして、白を組み合わせた。
「後は彼の腕に結んであげてね。はい、いってらっしゃい」
ニコッと笑いながらルーナを二階へと押すシエーラ。押す力を感じなくなり、後ろを振り返るとニコッと笑ったままのシエーラがいるので、ルーナは退くに引けぬ状態となった。ニコッと笑い返してドキドキとする旨を押さえながら階段を昇って行く事になる。
シエーラに言われた言葉が頭の中に浮かんできて、ルーナの心を振りまわしていた。
「可愛いなー、ルーナちゃん」
くすりと笑いながら緊張している後姿を見送ったシエーラは机を元のように戻していた。すると、ころころとどこからか転がって来たボールが目に映る。店にドアは無く通りに開放的になっているのでたまにこういうことはあった。手に取ってボールを返そうと、通り側に目を向けると、少年3人がこちらを見つめていた。
目が合い、シエーラが歩み寄ると1人の少年が目を輝かせ駆け寄ってこようとする。それを脇にいた他の少年が止める。
「――あいつ、吸血鬼なんだぜ」
少し距離があると言うのに、その部分だけがはっきりとシエーラの耳に届く。駆け寄ってこようとした少年は不気味なものを見るかのようにシエーラを見る。
それを見た瞬間、シエーラはボールを外に投げた。大人げなく力いっぱい投げたボールは少年たちのはるか頭上を通って行った。自分の言った事も忘れ、少年はボールを追いかけて行く。後姿をシエーラはずっと見つめていた。
少年たちが見えなくなると鼻で笑って店の奥へと戻った。
「……せいかーい」
誰に言うでもなく呟いた。その言葉が彼女にとっては面白く、声を殺して笑った。




