-49:増えるダンギク-
自分自身が一体何をしたのか整理がつかないままだったが、突然無くなった人の温もりにその場を離れる事が先決だと気づかされた。
倒れ込んだリースをファルシュが担いで、倒れる人々を避けながらルーナたちはその場を離れた。フレバが近い事はリースが言っていた為、急いでフレバに向かう事になった。
止血したとはいえ、急ぎだった為にリースの状態が危ぶまれる。そんなリースを担ぐファルシュも左手に怪我を負っていたり、疲労していたりしている。ルーナは心配そうにファルシュを見やる。
「心配しなくていい。何故だか、少し力が戻った。それに、女性に担がせるわけにはいかない」
ファルシュは平気そう言うのだが、ルーナは半分疑ったまま、彼の後姿を見つめた。
(自分でも信じられない。ルーナと目が合ったら自然と力が戻った、なんて)
後ろのルーナの事が気になりながらも、今は何とかリースを手当てしなければとフレバに急いだ。
―49:増えるダンギク
花の町と言うだけあって、近づいて行くと花が増えていった。日も傾き始め、夕日が花の色をオレンジ色へと変えていく。
「ここが、フレバ」
ルーナは息を吐きながら、呟いた。追う者の様子はなく、ファルシュも気が抜ける。近くに腰かける場所があったため、一度そこにリースを下ろす。額に脂汗をかき、苦しそうにしているリースにルーナは胸が痛んだ。左肩に巻かれた包帯は既に、血の色へ染まってきている。真正面からまともに受けた一撃だけに傷は深い。
「……私」
ルーナには自分の事が分かっていなかった。オッドアイの女性が言った、自分の名前。金色になっていたという瞳。ただ一つ分かるのは、リースは自分の所為で傷ついてしまったという事だけだった。
泣き出しそうになるルーナの横顔を見て、ファルシュは何か声をかけようとしたが、その言葉が見つからなかった。結果、見つめる事しか出来ず、歯がゆい思いをすることになってしまう。
「あの」
疲れからか、背後に近づいて来る人にも気が付かず、2人は驚いて振り返った。ウエーブがかった髪の毛が柔らかい雰囲気を感じさせる女性が立っていた。
「その方、怪我を……」
「何者ですか」
心配そうにリースを見つめた女性は、近づいて様子を見ようとする。しかし、ルーナはその道を塞ぎ、女性に鋭い視線を向ける。
「私はフレバで花屋を営む、シエーラです。あなたたちは旅のお方?」
足を止め、背筋をきちんと伸ばし、シエーラと名乗る女性は微笑んだ。ルーナとファルシュはお互いの顔を見合わせ、頷いた。
「私はルーナ、この人はファルシュ。旅をしていて、先ほどちょっと……」
「良かったら私の家に泊っていってください。すぐ近くですから」
ルーナはリースをちらりと見やって、シエーラの申し出を受ける事にした。
町に入ってすぐにシエーラの花屋があった。一階が店舗で花を売っており、二階で暮らしているという。いろとりどりの花が並べられていた。
2人は二階に上がり、シエーラに促された部屋に入った。ベッドに横になったリースの様子を見て、シエーラは顔をしかめた。
「……そんなにひどいですか?」
「え、ええ。私手当てには慣れているの。2人は向かいと隣の二部屋を使っていいから、ここは任せて」
救急箱を持ち、てきぱきと手当てをする準備をしているシエーラにリースを任せ、2人は部屋を出た。部屋を出て右の部屋にファルシュ、向かいの部屋にルーナが入ることになった。
「……まぁ、こんなに血だらけ」
2人が部屋を出ていった事を確認したシエーラはまだ鮮血が流れるリースの左肩を見つめた。ぽたり、ぽたりと落ちる血はたらいに溜まっていく。
「いけない、手当てをするんだったわ」
手際よくシエーラは包帯を巻いていった。




