-47:花の町は遠い-
「だいぶ歩いたな、明日にはフレバに着くだろう」
リースは地図を見ながらそう言った。
パワグスタから出て数日。荷馬車に乗せてもらったり、自ら歩いたりして、一行は進んでいた。目指すのは花の町、と言われている花を育てている町である。隣の町であるウォルタスは水の町と言われているほど水が豊かな土地で、その影響もあり、フレバは緑に溢れていた。
日が傾き始めていた為に、3人は適当な場所を見つけ、火を起こした。
「最初はどうなるかと思ったが、意外と野宿も慣れた」
取って来た野草を切りながら、鍋に入れるファルシュがにこやかに言う。
「随分と逞しい皇子だな」
感心したような、呆れたような、そんな口調でリース言った。そんなリースの言葉もファルシュは笑顔で受け止めた。
つくづく、皇子は分からない奴だと、リースは思った。
食事をとり、ルーナはさっさと寝てしまうが、男2人は火を見ながらまだ起きていた。
慣れていないと言ったり、何らかの理由で狙われていたりするはずのルーナの寝息を聞くと、2人は本当にそうなのかと疑いたくなる。
「肝が据わっているのか、鈍感なのか」
「俺は後者だと思いますね」
「気が合うな」
ゆらゆら揺れる火を見ながら時間が少しずつ流れていく。
「彼女が狙われる理由、見当はついていないんですか?」
ファルシュは気持ちよさそうに眠るルーナの顔を見てリースに尋ねた。ファルシュの目から見ても何の害もなさそうな、追われる理由なんて持っていないように見える。そんな彼女は一体何を背負っているのだろうかと、不思議に思うのだ。
「俺に聞くな。本人も分かっていない事を俺が知るわけない」
リースは淡々といつものように答えた。
「それもそうですね。では、お先におやすみなさい」
ファルシュは諦めてその場に横になった。
赤い炎を見つめる、紅い瞳はゆらゆらと揺れる炎をただじっと見つめていた。炎の熱さをその瞳に移す事無く。
静かな夜は更けていく。
「ファルシュ、起きろ」
ファルシュが目覚めたのは、リースの緊迫した抑えた声で呼びかけられた時だった。パッと目を開け、ファルシュは気が付く。周りに何者かがいて、敵意を向けている事に。
ゆっくりと起き上がったファルシュはリースの側に寄る。
「何者が」
「……お前狙いではないな」
リースはため息を吐いて、ルーナを揺り起こす。叫び出してしまうかと思ったファルシュであったが、それを通り越して、ルーナは声もなく震えていた。
突き刺さるような、異様な雰囲気に3人は緊張する。何とかそんな場所から逃げようと、動き始める。しかし、敵は近づいて来る事無く、一定の距離を保ってついて来ている様だった。
「気配を消さずこの距離を保ってついて来るとは、どういう事だ」
ファルシュは気味が悪く、ぽつりと呟く。
「神経すり減らしに来てるな」
リースは舌打ちをして、ルーナを見る。震えて今にも泣きだしそうな小さな少女を見て、周りにいる奴らを心底意地の悪い奴らだとリースは思う。
そう思った時、ルーナがリースの腕をグッと掴む。何かとリースは前を見ると、そこにいたのは金色の髪の毛と桃色の瞳を持った可愛らしい女性だった。
「ユースリア、さん」
震えるルーナの口からその名が紡がれた時、彼女は微かに笑った。光の無いその瞳にルーナは彼女が彼女ではない事を感じ取る。
「お知り合いだったの、ユースリアと」
気配もないままに3人の前に現れたのは左右で色の違う瞳を持った、女性だった。深い闇の様な黒髪に、冷めた瞳。赤色の右目は温かく感じる事が出来ない。
「探したわ、ルーナ・スタートルテ。いや、本当の名前の方が良いかしら?」
キーの高い笑い声が3人の耳に届く。リースはその声が耳障りで仕方がなかった。そんな表情をしている事が面白いのか、オッドアイの女性は口の端を釣り上げた。
「ルーナ・K・クリスタス、さん?」
―47:花の町は遠い
ルーナは何も言えず固まっていた。
「はーい、ぼーっとしないのっ」
一瞬で間合いを詰めて来たオッドアイの女性にリースはナイフを持って斬りつける。しかし、オッドアイの女性は軽々とその攻撃を躱してニヤリと笑う。
ファルシュは聞きたいことが沢山あったのだが、そんな事悠長に話していられないと刀を抜く。ルーナを前後で挟むようにして、相手からの攻撃に備える。
「その様子だと、何にも知らないんだね。ユースリア、あなたも働いて」
ユースリアが瞼を閉じて、ゆっくりとそれを開く。現れた瞳の色にリースは眉を顰める。
「金色の瞳……。どうして王族以外でそんなもの持っている」
「さーね」
ニヤリと笑うとオッドアイの女性がもう一度間合いを詰めてくる、リースは蹴り飛ばそうとするが、その直前、女性は大きく飛び上がり、リースの真上を超えて、ファルシュの正面に着地する。
呆気に取られている暇もなく、正面からナイフを構えて来たユースリアをリースは抑えた。金色に光る瞳がリースにとって不気味でならなかった。
(あの男、ユースリアの力が通用していないのか?)
オッドアイの女性はユースリアと応戦しているリースを見た。
その時、脇からくる刃に気が付きひらりと躱す。しかし、躱すのが少し遅かったのか、右腕に赤い筋が細く入る。
「女性に断りもなしなの?」
「敵に断りはいらない」
オッドアイの女性が血を拭うと腰に下げていた2本の剣を構える。
「邪魔はしばらく入れないで、ダブルデートと行きましょうか? 楽しませて頂戴ね」
猟奇的に微笑んで、そう言った。




