-45:verdacht-
「ウ、ウロストセリア帝国のリヒト・ウロスタリア第二皇子はその式典の事件で、亡くなったって聞いているんですが、あなたは、本当に、皇子なのですか?」
―45:verdacht
リヒトは目を見開く。
「……それは本当なのですか?」
「本当です。皇子は亡くなったと、今朝の新聞でも大きく取り上げられていました。でも、あなたは皇子だという。どういうことですか」
ルーナはリヒトに疑いの眼差しを向ける。
リヒトは自分が疑われている以前に、皇子が死んだという事にショックを受けていた。
「死んだのは恐らく、この皇子の影武者だ。現在行方不明とされているのは、従者であるミュレット・シャッテン。そう言えばこいつもウルトラマリンの瞳だったな」
「何故、断言できるの」
「勘と、さっき言ったそいつの持ち物。あの刀は帝国側に伝わるものだ。皇帝家の血族でないと無理だろうな」
リースが黙っていた2人の間に割って入る。あまりにも冷静に言い放ったリースにルーナは関心を通り越して恐ろしいと、少しだけ思ったのだった。
「そして、そのミュレット・シャッテン、現在皇子を殺したテロの犯人として重要参考人されている」
「なっ!」
「そりゃそうだろう。この状況で行方をくらましているのは犯人に他ない。誰も彼が皇子の影であるとは知らないならなおさら」
リヒトは後悔した。自分はミュレットを殺してまで生き延びた。それだけに留まらず、リヒトは命がけで助けてくれたミュレットをテロの犯人にしてしまったのだ。あの時、自分は逃げて本当に良かったのだろうかと。
「今私が出てきても、ミュレットとされて処刑されるか、このまま待っていても帝国兵に消されるかもしれない、か」
リヒトは唇を噛みしめてどうにもできない歯がゆさをどうにかしようとしていた。ミュレットのいわれのない罪は消えそうにはない。
「アルセアで死んだ第二皇子。さて、帝国は堂々とアルセアに宣戦布告出来るというわけだ。そして、アルセアは応戦する他ない。勝った者が認められる」
リースはニヤリと笑う。その表情にルーナはどこかで知った寒気を感じる。
「この事態を嬉しく思っている屑は両国にいる」
「どういう……。ねえ、リース」
恐る恐る尋ねるルーナだったが、リースはその答えをくれそうにはなかった。何とも言い難い雰囲気がその空間に満ちていく。
「この事態、仕組まれていたと言いたいのか」
「そうとしか考えられない。第二皇子が死んだとしても第一皇子がいる。どうせ帝位継承権の無い人間だ。痛くもないだろう。だったら、きっかけを作る事に利用すればいい。適当な大臣でもよこせばいい所をわざわざ第二皇子。そして、帝国兵が皇子を斬りつける事を考えると、最初から記念式典はこの事態の為に利用された。誰が考えたのか、ウロストセリアの人間にもろくでもない奴がいるな」
リヒトの頭の中に、ミュレットの言動が思い出される。式典にどうしても出るのかと言った事、自分が影として式典に出席するという事。さらに、事件を予想していたかの様な準備の良さ。ミュレットは少なからず、帝国側が何かをこの記念式典でする事を予期していたのだ。それとも、何か確信があった出来事があったのだ。リヒトはミュレットに問いただしたいが、それはもう叶わぬ事となってしまっている。
「ミュレットは何か知っている風だった。……何故、言わなかった」
その事を悔しく思ったが、思い起こすと、自分は父である皇帝に初めての命を受けた事で舞い上がっていた。それで、ミュレットの変化も気が付かないでしまっていたのだという事をリヒトは思い知らされる。こんな事で浮かれている様では、駄目だったのだと、リヒトは自分を責めた。
そして、その中でひとつの疑惑が生まれる。
「皇帝が、関わっている」
リヒトはぽつりと呟いた。
「皇帝、って、皇子のお父さんでしょう……?」
「……厄介払いにもなった、と言う事です」
自嘲的な笑みと共に、リヒトはそう言った。
一体何を根拠にそんな事を言っているのか分からないルーナはただ悲しくなるばかりだった。皇帝と皇子、それは親子であるはずなのにどうして、こんな事になっているのだろうと。親は子を愛して当然と思うルーナはそんな事ないと、言おうと思うのだが、リヒトの口調からそれが本当だという事が分かってしまう。
「皇子は、これから、どうするんですか」
苦しそうなリヒトを見ながらルーナは言葉を少しずつ口にした。
「……私に影がいるという事、知っている人がいます。もう、その人しか頼れない」
「それは一体……?」
「レーラー・レイン先生。ウロストセリア帝国大使です」
レーラー・レイン、という名前はルーナも聞いた事があった。記念式典でもその名前は出ていたため、心当たりがあったのだ。
「大使なら、聖都ね……。うん、一緒に行きましょう!」
ルーナは名案だと言わんばかりの表情でそう言った。今までポーカーフェイスだったリースもその表情を崩す。
「何言ってんだよ。これ以上厄介を背負うのか!?」
「皇子を1人聖都に行かせる気? 下手したら本当に戦争になってしまうわ。私も聖都に行きたいし。聖都の方がいろいろ知れると思うの」
ルーナは国王と知り合いで会ったスタートルテ夫妻について、聖都に行けば何かしらの情報が得られると思ったのだ。そして、聖都がある国の東側は、狂愛の道化師が行動を起こしている地域だった。
「……俺としてもあいつらの思い通りになるのは癪だな。それに、」
「それに?」
リースはルーナに言葉を促されてハッとした。
「何でもない」
リースはリヒトに向き合うと、リヒトにこの提案をどうするか、と言う返答を求めるような表情で見つめる。
「よろしくお願いする」
リヒトは頭を下げた。




