-44:kronprinz-
なんだか柔らかく心地の良い空間に、青年はずっと身体を沈めていたい気持ちになった。その心地よさに流されそうになると、自分はそんな状況下にいられるわけがないと思い直す。
慌てて目を開けるとそこにいたのは、黒色とブロンドの髪の毛を持ったアルセア人だった。
「アルセア人っ!」
青年は起き上がり胸元にあるペンダントに手をかざした。
起き上がったことにルーナは喜びの表情を浮かべたがそれはすぐに固まってしまう事になる。
「我に力を与え、我を助けよ、蛇の刀」
青年が唱えると、ペンダントからは銀色に光る刀が現れる。ルーナはポカンと口を開けたまま動くことが出来なかった。すると、そのルーナに向かって刀が振り下ろされる。
「おい、落ち着けよ」
しかし、いつの間に2人の間に入ったのか、リースはナイフでその一撃を受け止めていた。
「お前を運んでここまで手当てしたのは、俺たちだぞ」
リースがそう言うと、ハッと表情を変え、青年は力を緩めた。そして、ベッドに倒れ込む。突然の事でルーナは全くついて行けずにまだ、口を開けていた。
「おい、アホ面。食事もってこい」
「だ、誰が!」
リースの言葉でようやく開いた口から言葉を出した。ルーナは顔を膨らませながら部屋を出ていく。
リヒトが出した刀はいつの間にか消えており、ベッドに倒れ込んだ青年は右腕を目の上に乗せていて息を吐いていた。
「申し訳ない。命の恩人ともあろう人間に……」
「いや」
短い返事にリヒトはリースの感情がつかめず、どうしたらよいのか困った。そんな時に、ルーナが部屋に入ってくる。リースに言われた事で、早く持ってきて見返してやろうと考えたのだろうか、ルーナは手際よく食事を持ってきた。
温かなスープとパン。そして、いくつかの果物も運ばれた。
腕を少しどけながら、青年はそれを見た。その時丁度ルーナと目が合う。
「起き上がれます?」
優しく微笑まれ、青年はもう一度腕を目元に戻して、静かに起き上がった。行儀よく食事をとり始めた彼の姿を見て、ルーナは一安心した。
「それで、なんでウロストセリアの皇子様がそんな格好で歩き回っていたんだ?」
リースが世間話を始めるように、自然にそう尋ねる。青年の目は大きく見開かれ、ルーナはリースを凝視した。
―44:kronprinz
「何を根拠に」
青年はペンダントを握りしめながらリースを睨み、そう言った。ルーナもリースの言葉を待つ。
「そのペンダント、ウロストセリアのエンブレムがモチーフだ。それにさっき刀に変えていたな。そんな特殊なもの一般人じゃ持てない。そして、そのウルトラマリンの瞳か。会場で見ていたしな」
3人の間に沈黙が訪れる。リースと青年はお互いに相手を見定めるように表情を見ていた。青年はしばらくして息を吐く。
「……その通り。私はウロストセリア帝国第二皇子、リヒト・ウロスタリア」
「えええ!?」
あっさりと、認めた青年、リヒトにルーナはまた驚く。今日はどれだけ驚かされればいいのかとルーナは混乱する。確かに、ウルトラマリンの瞳は覚えていたルーナだが、遠くから見ていた為にはっきりとは覚えていない。はっきりとしないながらもリヒトをじっと見つめると、皇子のそれと同じような気がしてきた。
「あっさり教えていいのか?」
「構いませんよ。あなた方は別に私をどうこうしようとは思っていないのでしょう。特にこの少女については問題なさそうだ」
リヒトが言うとリースも納得したようにうなずいた。相変わらず混乱して、2人を交互に見つめるルーナにはその会話がまるで聞こえてはいなかった。
「何があってこんなところにいる。皇子なら帝国兵に助けを乞えばいいだろう。わざわざ、町に出てきていい事はあるのか」
「その帝国兵に裏切られた、としたら私はどうしたらいいのですかね」
「裏切られた?」
リヒトは座りなおして、自分でもまだ混乱している頭の中を整理しようと話し始める。ステージ上での事、皇子と知りながらも兵国兵が斬り付けてきた事。そして、従者が帝国ですら味方ではないかもしれないという事。
話を聞いていた、リースは顎に手を当てて何かを考えていた。
「私は連れて来た帝国兵の中で、その従者しか信じられない。もう、誰が味方なのか分からない」
リヒトが拳を握りしめ、視線を下に落とした。
「ちょ、ちょっと待って」
そんな雰囲気の中、ルーナは声を発した。今まで黙って聞いていたはずの彼女の発言にリヒトは何事かと目を向ける。
ルーナは何かを言おうとしていたが、言葉を発しようとして、止めたり、何故か戸惑っていたりしていた。リースはルーナが何を言おうとしているのかだいたいの見当はついているのか腕を組んだままルーナをただ見ていた。
「何か?」
はっきり言おうとしないルーナにリヒトは促すようにして言葉を発した。そこでルーナは言う決心がついたのか口を開いた。
「ウ、ウロストセリア帝国のリヒト・ウロスタリア第二皇子はその式典の事件で、亡くなったって聞いているんですが、あなたは、本当に、皇子なのですか?」




