-43:flucht-
「リース、一体……」
「分からないが、どちらかが戦争したいって事だろ」
爆発音が2人の後ろから聞こえてきていた。
人々はパニックになり、一斉に流れ始める。後ろの方にいたために何とか被害の無かった2人であったが、人の流れに押し潰されそうになる。爆発前とは違った意味で沢山の声がそこに溢れていた。
とりあえず、その場を何とか離れようと、2人は進んで行った。
―43:flucht
離れていたところにいたのが功を奏し、早くに2人は落ち着いて歩く事が出来た。離れていたところでも人々は泣き止んでいなかったり、事件について話していたり、町中がパニックに包まれている。大通りは特にそういった事が多く、煩わしくなったリースは裏の道を進んで行った。ルーナは離れるわけにもいかず、それについて行ったのだった。
ざわざわとした人々の声は裏通りにまで聞こえてきていた。
「大丈夫かな……」
「爆発の事か」
ルーナはリース後ろで視線を落とす。そして、自然と歩みが遅くなってしまう。
「俺はそれもあるが、この先が心配だな」
「……この、先?」
ルーナがはっとして顔を上げると、リースは角を曲がっていき、姿が見えなくなるところであった。ルーナははぐれてしまわないように、慌てて駆け寄ろうとする。
ルーナが角を曲がろうと道に出た時、ルーナは左側からくる人物に気が付かなかった。
「きゃ」
ルーナもぶつかった相手もお互い、尻餅をつく。自分がリースを追いかけようと必死で周りが見えていなかったのが原因だと思ったルーナは慌てる。
「ごめんなさい! 大丈夫、で……」
尻餅ついている相手に手を伸ばそうとしてルーナは目を見張る。尻餅をついていたのは真っ白な髪の毛を持った人間だった。
固まって動けないでいると、ルーナは背後に人の気配を感じた。リースがまたルーナが何かしでかしたと思い、様子を見に来たのであった。
「お前な」
「リ、リース」
リースはルーナの視線を追って見る。そこにいたのはまだ地面に座り込んだウロストセリア人だった。黒い長袖の服の上に腰くらいまである丈の深緑のマントを羽織っていた。白だったであろうパンツは汚れ、黒いブーツも傷ついていた。髪の毛はぼさぼさになり、顔を覆っていたが、わずかに見える顔は少し幼さを含んでいるように見えた。青年と呼べる年頃だろうとリースは思う。
その青年は頭に手をやり、慌てるとフードを被った。青年はちらりと驚いている2人を見ると、180度方向を変えて、酷く慌てて駆けだした。
しかし、足がもつれたのか、そのまま顔面から倒れ込む。
「あ、あの」
青年は2人の目の前で倒れただけでなく、それからしばらく動かなかった。ルーナは心配になり、その青年によって、少し揺らしてみるが、反応はない。ルーナはリースに助けを求める目で応援を要請した。リースはため息を吐きながら、歩み寄る。
リースは青年を仰向けにする。胸は上下に動いており、とりあえず生きている事ははっきりする。おでこには倒れた時に擦れたのか、擦り傷が出来ている。体のあちこちも土が付いていたり、小さな傷があったりした。
「どうしよう、リース」
「……仕方がない」
ルーナにぶつかり、その後2人の目の前で倒れたとなれば、放って置くわけにはいかなかった。リースはその青年を肩に担ぐ。担いだ時に、青年の胸元からペンダントが現れる。
(……蛇?)
リースの後ろにルーナはついて行き、2人は自分たちが宿泊している宿に向かうのであった。
*****
椅子に腰かけ、ひとり情報屋は息を吐く。遠くから見てはいたが、パニックに飲み込まれた為に酷く疲れていた。起こった事は大体想像が出来る。ウロストセリア帝国について、和平の記念式典がある為にある程度知っておいて良かったと、彼はそう思った。
「ある者にとってはこの事、大変嬉しい機会であるだろうな。上の者は欲深くて困る。なあ、そうは思わないか、ダグライ」
「お偉いさんが考える事なんて俺には分からないよ。でも、こんなの俺たちは望んでいない。何時だってそうだ。先のアルセア・帝国戦争だって、上の者が勝手に始めた」
「まあ、そうだな。何時だって勝手さ。俺らはそれに振り回されているだけ。俺としてはそれも楽しいと思うんだが?」
「楽しいのか?」
何が楽しいのか分からないダグライは不機嫌な声で尋ねる。
「巻き込まれるのも嫌いじゃない。それに、渦中だからこそ見えてくるものもあるだろう。情報屋としてそこは良いと思うけどな」
「ルクスヘルデの考えはよく分からないよ」
「お前もその中にいるだろう。現に、新しい仕事がそうだ。ま、それだけじゃないけどな。……セルトラリアのユースリア、だったか?」
テーブルに広げられた資料に目を向ける。そこには、ユースリアと言う女性の似顔絵と特徴、セルトラリアで何があったのかが記されていた。
「この女性の彼氏さんが関わっていたオッドアイの女性も気になるね」
「黒だな」
「はっきり言うね」
「こういう時は勘に限る。一体誰の命令で動いているのやら。面白くなってきた」
何か知っている口調と楽しさが入り混じった声が出る。
「ルクスヘルデ、お前俺の身体使って何調べていたんだ」
「俺はお前だ。そんな事簡単に知る事が出来るだろう」
しばらく沈黙が支配する。
「おっと、ワリィな。お前はルクスヘルデを受け入れられないんだったな。俺はお前が俺って事も受け入れているぜ。おかげでダグライの情報も俺のものだ」
「……」
「はいはい。さっさと認めればいいのによ、猟奇的なお前をさ。道化師の仕事も楽しいだろう? ……ま、そうだな、俺が調べているのは通称『アルセア』かな」
それは何かと、ダグライは聞き返そうとしたのだが、何か心の中が軽くなる気がして、会話を強制終了させられたことに気が付いた。その部屋は本当の1人の空間になった。




