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Mad Clown  作者: 彼方わた雨
chapter 1 ~はじまり~
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-04:お話はお菓子の後で-

 目の前に運ばれてきたパフェとシフォンケーキ(ホール)。



―04:お話はお菓子(デザート)の後で



 青年。顔の右半分を覆う黒い前髪。その黒い髪の毛は意外と長く、後ろで結んでいる。

 そんな青年の前にあるのは、甘い香りを漂わせているシフォンケーキ。

 眼鏡の奥にある、赤というよりは紅と言った方がよい瞳が輝き、そのケーキを見つめていた。


「……あ、の」

「ああ、食べようか」

「あ、え、はい」


 ルーナは自分を救ってくれた青年と目の前にいる青年は同じ筈なのに疑う。

 いともたやすく3人の男を倒してしまった強い彼は、どうやら甘いものには弱いらしかった。男を倒した時のあの感じは全くない。


「……蜂蜜が入っているな。柔らかくて美味い。なかなか、こんな柔らかさは出ないのだが、よくこの感じを作っているな。シフォンケーキを作るのは大変で、メレンゲを泡立てるのは一苦労だ。それをよくここまで細かく出来るものだ。ふわふわだ。お前も食べるか?」

「あ、はい」


 言われるがまま、一口もらうルーナ。確かに、優しい甘みとふわふわな食感が堪らない。それよりも、青年の変わりようがすごく気になるのだが。

 ルーナは旅の事を聞こうとしていたが、夢中になってシフォンケーキを食べる青年の姿に、邪魔をしてはいけないと思い黙ってパフェを食べた。


「そっちも貰っていいか?」

 青年の目はルーナの持っていたスプーンの上にあるアイスクリームとチョコに釘付けだ。その様子が面白くて、ルーナはゆっくりとそのスプーンを差し出す。

 すると、青年はそのスプーンをぱくっと口に含み、その甘さを堪能していた。


「ああ、パフェも良かったな。チョコレートは少しほろ苦くしてあるな。アイスクリームの甘さとチョコレートのほろ苦さが程よく合っていていいな。アイスクリームもバニラの香りがいい。やはり、ここにはまた来ようか……」

 2人は美味しいスイーツを楽しんだ。



「……旅、ついて来てくれますか?」

 目の前のガラスのカップが空になったところでルーナは言った。

 青年はしばらく黙った。


「私は両親が殺された理由を知りたい。その道化師(ピエロ)を追いたい」


 ルーナは懇願するように言った。彼女の透明な黄緑色の瞳が少し潤む。

 青年はここに来てから何回目かのため息を吐く。


「……分かった。旅、付き合ってやるよ」


「……」

 本人はポカンと口を半開きにして、目をぱちぱちしている。


「ありがとうございます!」

「まあ、俺も旅商人だし、知りながら1人旅に出させるわけにもいかないしな」

「優しいんですね、えっと――」


「リース。リース・グレイだ」


 優しく微笑みながらリースはルーナを見た。


「私はルーナ・スタートルテです!」



 大通りに戻ってきた2人は人だかりを見つける。

 近づいて行くと、そこはルーナが連れ去られようとしていた路地の入口だった。入り口は人で栓がされており、一体何があったのかは全く分からない。


 ルーナはジャンプしてみるが、上からは全く様子がうかがえない。上をあきらめた彼女は野次馬の足と足の隙間に身体を滑り込ませた。

 その様子を見たリースは彼女を止めようとするが、その甲斐なくスルスルと行ってしまう。

(ったく、もう!)


 仕方がなくルーナと同じようにリースもまた足の間をすり抜けていった。20歳にもなってこんな事をしていると思うと泣きたくなるリースだった。

 実際、足の間を進む少女(ルーナ)とそれを追う(リース)という光景に人々は冷やかな目を向ける。主に、リースに。


 足という名の林を抜け、人混みから顔を出したルーナは目を見張った。


 建物の壁に飛び散った、赤。


 地面を濡らしている、赤。


 その赤を、ルーナは知っている。


 奥には布を掛けられた何かがあった。

 警備の騎士がすでに到着していて、観衆の目からそれを遠ざけるために目隠しをしていたのだ。だが、その布からは沢山の血が隠しきれていない。


 布の付近は一段と血が濃い。そこにあるのは亡骸だという事が言わずしても分かる。

 辺りに充満したのは生臭い、血の香り。

 騎士の1人が布に手をかけ、それを確認した。

 ちらりと見えたのは、男。それも、ルーナを連れ去ろうとした男の中の1人だった。


 吐き気がして口元を抑えたルーナの横にいつの間にかリースが来ていて、彼女を静かに見つめていた。その瞳には何の感情も見えず、ただ彼女を見つめているだけだった。

 瞳のその(あか)は林檎の赤よりも、血の赤に似ている、とルーナは思った。


「……行くぞ」


 一言、そして、ルーナをそこから引っ張り出した。



 騎士に促され、人混みは散った。

 しばらくは封鎖されるその道は朝よりもいっそう闇を濃くしていた。


「物騒ねぇ」

「殺されたのは人攫いで有名だったらしいじゃねぇか」

「……それじゃあ、道化師の仕業か?」

「騎士もそう見ているらしいぜ」

「さすが道化師だ」

「あんなのただの殺人鬼じゃない」


 大通りはあの路地での出来事の話が飛び交っていた。

 朝は今日の予定を話し、互いを激励し、昼は今日の仕事の大事な休息の時、夕方は晩御飯の話。そんな平和な会話が、今は道化師の話で持ち切りだ。


「で、どこに行くつもりだったんだ?」

 リースはそんな町の様子を無視して、横を歩くルーナに言った。


「……決まってない」

「しっかりしろよ……」

「リースは? 旅商人でしょ?」

「そうだな――」

 リースは少し悩んでから、ルーナを見て言う。




「アスラエルに行く」






前半はなんだかデートでしたね。


では、次回もよろしくお願いします。

2014/10 秋桜(あきざくら) (くう)

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