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Mad Clown  作者: 彼方わた雨
chapter 4 ~隣国の皇子~
37/95

-37:schicksal-

――記念式典前日


 町はパワグスタ以外からも人が来ており、かなり賑わいを見せていた。それに伴い、騎士の数も多くなっており、騎士団章を付けた人間がちらほら町を歩いている様子が見られた。


「不審な人物はいない? ジルファ」


 厳しくそれを見るマゼンタ色の瞳。胸に付けられた騎士団章は、他の騎士とは少し違っている。尋ねた相手が首を横に振ると、そのまま2人で町を歩いた。



―37:schicksal(シックザール)



「情報屋に行くんじゃなかったのか……」


 ため息を吐いているのはリースだった。2人で情報を得るためにパワグスタの町に出て、情報屋と言われる人間を尋ねようとしていたのだが、町の賑わいに目を引かれたルーナがあちこちの出店を見て回っているのだ。何とか、リースの目の届く範囲にいたため、リースも仕方がなくその様子を見守っていた。


「これ、面白い!」


 ルーナが手にしていたのはお面だった。色遣いが、青に赤、緑、黄色と派手な配色がされており、独特な顔のお面である。そのお面をルーナはリースにあてがってみたくなり、ニヤリと笑ってリースを見つける。


「リース、こ――」


 それだけに夢中になっていたルーナは周りが見えておらず、振り返り駆け寄ろうとした瞬間に人にぶつかる。想定外の事にルーナはよろけて後ろに倒れそうになるが、強い力で支えられた。

 倒れそうなルーナを支えていたのはぶつかったと思われる男だった。ダークバイオレットの髪の毛が少しかかる、芯のあるマゼンタの瞳にルーナは目を奪われた。その男の隣にはグレーの髪の毛の男もいた。


「大丈夫ですか?」


 ルーナは慌てて体勢を立て直すと、恥ずかしさのあまり下を向いてしまった。


「何やってんだ、お前は」


 その一部始終を見ていた、リースもやってきて、ルーナはますます顔が上げられなくなった。


「あなたのお連れさ、ん……」


 ルーナを支えていた男がリースを振り返りながら言ったのだが、その言葉は途中から消え行ってしまいそうになった。マゼンタ色の瞳が開かれ、動揺したのが分かる。その男の表情を見て、リースは少し怪訝そうな顔になった。

 男の声が途中から消えてしまいそうになったのが気になり、ルーナが顔を少し上げて、その様子を伺う。リースの顔を見てルーナも不思議に思う。


「リース?」


 そう言ったルーナを男は一度見て、そして、またリースを見る。その男と一緒にいたグレーの髪の毛の男もその男の対応が不思議だと思っているのか、リースとその男をじっと見る。


「ルーナ、その人たちに言う事があるんじゃないのか」


 リースがその場の沈黙に耐えかねて、ルーナを見る。ルーナは先ほどの失態を思い出して、赤くなりつつ、そのマゼンタ色の瞳を見つめた。


「不注意でした、すいません!」


 ルーナは頭をぺこりと下げ、お面を元に戻して、その2人の男の脇をすり抜けて、リースの隣に行く。


「リース、知り合いなの?」

「俺は知らない」


 困惑している、男を見てリースは頭を軽く下げ、その男と真正面で向き合う。


「迷惑をかけました」

「あ、いや……」


 そのまま歩いて行く2人をマゼンタ色の瞳は人混みで見えなくなるまで見つめていた。


「団長殿、どうしたのですか」

「あ、ああ、その、良く知っていた人に似ていたものだから……」

「確かめなくていいのですか?」


 男の表情が硬くなる。



「いや、そいつ、もう、この世にはいないんだよ」



 考えを払拭するかのように頭を左右に振り、2人はまた町を見て回った。しかし、考えは完全にぬぐいきれてはいないようであった。

 町を見て回っているのだが、どこか上の空で。見て回っては、頭を左右に振って、また見て回っては左右に振っての繰り返しだった。いい加減その様子に呆れて来た隣を歩く騎士は立ち止まる。


「アズウェル団長。いい加減にしてください。ご自分の仕事をお忘れではないでしょうね」


 淡々と言われた言葉に、何も言い返すことが出来ずに、アズウェルは黙ってしまう。


「しっかりいてください。他の事を考えるのはこの式典が終わってからにしてください」

「……すまなかった、ジルファ」


 ばつが悪そうにアズウェルが言うと、ジルファは再び歩き始めた。


「では、態度で示してください。団長殿」


 アズウェルは頭を掻きながら、また歩み始めた。


(気のせいだよな……。今は式典だ)



 町の賑やかさは、留まる事を知らない。



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