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レイの後姿を、ユースリアは悲しそうな顔で見ていた。
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「私が出しゃばってしまったばっかりに、すいません」
「いいえ、こちらこそごめんなさいね。レイ、本当に心配性、だから……」
ユースリアはまだ、レイが消えていった方を見つめていた。その表情にはいろいろな感情が混ざっている様子だった。しかし、一番強く感じられるのは、心配であるとルーナは思った。レイがユースリアを心配するのは、彼女が病気であるからだ。一方、ユースリアがレイを心配するのはいったい何があってなのだろうか、とルーナは思った。
これは聞いて良い事なのだろうか。
余計な事を自分が言ったり、聞いたりしてしまったら、いけないのではないかと、ルーナは考えた。ユースリアの落ち込んでいる様子が見て取れるため、ルーナは悩む。
「あなたまで、暗くさせてしまったわね」
「いえ、その……」
「名前、教えて下さる?」
ユースリアはルーナにふんわりとした、優しい笑顔を見せた。
「……ルーナです」
「そう、ルーナさんね。……私が彼を心配しているのはね、彼が仕事をし過ぎなんじゃないかと思うからよ」
自分が聞くかどうか迷っていた事を言われたので、ルーナは驚いてユースリアを見つめる。彼女はその反応を見て、また微笑んだ。
「ふふふ、正解。ルーナさんは分かりやすいわ」
「あ、その、聞いてもいいですか……?」
「私もね、1人で抱え込むのはあまり、身体によくないと思っているの。それにね、ここに残れるのはあなたのおかげ。私を見てくれるついでに、もう少し、私の我が儘に付き合って欲しいわ」
ユースリアは知っていて欲しかった。自分が知りたいと思っている事を。
誰かに話す事が出来たらいいとずっと思っていたのだ。家から出る事をあまり許されない彼女はレイの本当を知りたかった。
自分以外から見たレイはいったいどの様な人間なのか、そして、自分のいないところで、レイは頑張りすぎていないか、他にも、何かないか。それが知りたかった。
「レイはどんな感じなの?」
「最近毎日来ているんですが、良く会います。なので、いっぱい手伝ってもらっています」
ここ1週間ルーナとリースは毎日のように通い、そして、レイを必ず見かけていた。最初に話したこともあり、レイにはレファレンスを頼みやすく、ルーナはよく手伝ってもらっていたのだ。リースは特に手伝ってもらってはいないが、少しは話すくらいの仲になっている。
その事を話していると、ルーナはレイが随分と仕事熱心だという事が分かった。それをそのままユースリアに言うと、彼女は自慢げに頷いたが、すぐに表情を曇らせた。
「それが、心配なの」
「……それで、心配だったんですか」
「ここ1年近く特にね。新しい薬の為に無理して働いているのかしら……」
「新しい薬、ですか?」
ユースリアは持ってきた鞄の中を探し、透明なボトルに入った赤い色の液体を取り出した。
「なかなか、病気が良くならなくて、それで、レイがある日新しい薬を持ってきてくれてね。だいぶ楽になったの。でも……」
「?」
ユースリアの表情が暗くなり、心配になったルーナが顔を覗き込むと、その表情を笑顔が覆った。
「いえ、何でもないわ。それで、私も気になってここ最近毎日来ていたのよ。初日は見つかってしまったけれど、今日まで上手くやっていたのに。油断したわ」
「ユースリアさん、そこは安静にしていてください」
「私だって放っては置けないの。無理はしないで欲しいのに、それに……」
ユースリアは言葉に詰まった。
その先を言おうか言うまいか、迷っていたのだ。それを言ってしまうのは簡単だけれど、それによって何かがきっと変わってしまうと分かっていたからユースリアは怖かったのだ。
「……ねぇ、また明日、来て下さる?」
ユースリアは立ち上がった。
風が吹き、彼女の金色の髪の毛がふわりと風に揺れた。太陽に反射した彼女の髪の毛がきらきらと光っていた。
「はい!」
勿論と言わんばかりに頷いたルーナにユースリアはふわりと微笑んで、鞄を持った。
「私は明るいうちに戻るわね。ルーナさんも気を付けて、最近異常者が多く出るから」
「大丈夫です。1人で帰るわけではありませんので」
「それなら良かった。じゃあ、また明日ね」
ユースリアは柔らかく微笑みながら、ルーナに手を振った。
近所の方に心配と迷惑をここ最近かけっぱなしだったので、悪いなと思いながらユースリアは帰る事にした。
言いかけた事は、明日きちんと整理してから話そうと考えた。話がまとまらない状況で、いろいろ話してしまうと彼女も、ルーナもきっと大変だろうと考えたからであった。
明日は何か、お礼代わりに何か持っていこうかと、ユースリアは考えていた。
ドン
「きゃっ」
考え事をしながら歩いたせいなのか、ユースリアは人とぶつかってしまい、尻餅をついた。彼女が持っていた鞄と、相手の手荷物が散らばった。
自分の不注意によって起きてしまったので、ユースリアは慌てて相手の荷物を拾う。
(『女神アルセアの誕生』。随分古い本を読むのね)
相手が落としたと思われる、厚めの本を拾い上げようとした。
(間に何か挟まって――)
本の間に何かあり、少し見えている事に気が付いた時に、その本は金時計が光る人の手によって拾われた。顔をあげるとそこにいたのは黒いスーツを身に纏った男で、ユースリアの鞄を持っていた。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
ユースリアが自分の鞄を受け取り、彼女もまた男の荷物を手渡すと、その男は一礼して去って行った。




