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あれから毎日のように2人は中央図書館に通っていた。そんな日々が1週間続き、ルーナもだいぶ道化師について分かってきていた。調べる際には司書であるレイにも手伝ってもらっていたため、ルーナ1人で調べている時よりははかどったのだった。それをリースに指摘されたルーナは少し悔しさもあったが、頼れるときは頼り、リースは無視しようと自分の中で決めたのだった。
リースはそんな事を考えているルーナを放って置いて、1人またC区画で本を眺めていた。
(今度は金時計、派手だな……)
ちらりと見やった場所にいた、黒いスーツの男が、その場に似合わない雰囲気をしていると感じた。しかし、自分も大概だなと、自嘲気味に心の中で笑い、1ページ捲った。
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何だか見られていると、ルーナは感じたのだ。
例の如く、新聞のバックナンバーを見ていたのだが、どこからか視線を感じるのだった。リースかともルーナは考えたのだが、それにしては少し違うような感じがしていた。リースが仮に見ていたとすれば、人をからかう様な、イラついた様な、そんな感じがするからである。
視線の根源を辿ろうと、新聞から少しだけ顔を覗かせて、正体を知ろうとした。
黄緑色の瞳がきょろきょろと辺りを見回している。一度通り過ぎてしまったが、強く違和感がして、視線を戻すと、ピンク色の可愛らしい瞳と目が合った。
見ていた方も気が付いたようで、目を大きく開いていた。ルーナは少し固まっていたが、慌てて新聞紙の中に隠れた。
心臓の鼓動が激しくなり、どうしたらいいか分からなかった。
ルーナは心を落ち着かせて、もう一度新聞紙から少し覗くと、先ほどよりも近くにピンク色の瞳があった。距離の近さに、大声を出しそうになるが、図書館という事に気が付き、声を殺したが、その反動で椅子ごとひっくり返った。
結果的には、椅子がひっくり返った音で、周りには迷惑をかけてしまった、ルーナであった。
「……ごめんなさいね」
腰まであるふわふわの長い金色の髪の毛をなびかせながら、ルーナに水筒のカップを差し出した。ルーナは素直に受け取り、一口飲んだ。
あの後、部屋にいた人に謝り、2人は図書館にある庭に来ていた。
大きな木の下にベンチが据えられ、ここで読書をするのも悪くないと思える場所だ。そのベンチに2人は今、並んで座っている。
「あの、何で見ていたんですか……?」
「それは、最近レイと親しそうにしていたから、気になって、それで、ごめんなさいね」
少し頬を染めながら言う、彼女はとても可愛らしいとルーナは思った。
ふわふわの髪の毛に、清楚感がある白のワンピース。
「レイさん……?」
「あ、ええと……」
もじもじしながら俯いてしまった彼女の様子を見て、ルーナはハッと思いつく。
「レイさんの彼女さんですか!?」
ぴくっと、彼女の肩が跳ね、その後すぐに、彼女はそのままこくんと頷いた。
「やっぱり! あ、私、レイさんにはお世話になっていますが、好きとかではないので、勘違いしないでください。レイさんもお仕事として私と話しているだけですし」
見られていた理由が分かるとルーナは慌てて誤解を解こうとした。どうやら、レイの彼女はルーナとレイの様子を見て、勘違いをしてしまっているようであった。
それを聞いた彼女は顔をあげて、ふんわりと微笑んだ。
「私が来ている事、レイには教えないでくださいね」
「え、どうしてですか? 彼女さんが来てくれているなんて知ったらレイさんも喜ぶんじゃ――」
「ユースリア!!」
大きな声がして2人がその声の方へ目を向けると、そこには走ってくるレイの姿があった。その姿を彼女がとらえた瞬間、彼女はベンチから立ち上がって、走り出した。
しかし、少しした所で彼女は地面にぺたんと座り込んだ。
レイは慌てて駆け寄り、ルーナは心配になってレイと一緒に彼女の側に行った。
彼女は大きく深呼吸を繰り返しながら、苦笑いをしていた。
「ユースリア、何でここに居るの?」
「……心配で」
「僕は君がここに居る事の方が心配だよ。前にも話したよね。最近、嫌な話も聞くし」
先ほどのベンチに彼女、つまりユースリアは座り、水筒から注がれた紅茶を飲んでいた。ルーナもその横に座り、2人の様子を邪魔にならないよう、静かに見守っていた。
ユースリアが座っている前に、膝をつきながらレイは心配そうに彼女を見ていた。
「もう、家に戻りなよ」
「でもっ」
ユースリアは泣きそうな顔をしてレイを見て、訴えていた。どうしても、ここから離れたくないと、隣にいるルーナにも感じられた。
そこまで、大事に思われているのに、レイは何故、そんなに厳しい表情をしているのか、ルーナには分からなかった。
「行くよ」
レイがユースリアの手を取った時、ルーナはたまらず立ち上がった。
「ユースリアさん、レイさんの事大好きみたいですし、ここに居てもいいのではないんですか?」
「……ユースリアは病気なんですよ。家で安静にしてほしいんです。僕だってここに居ますが、仕事で、ずっと彼女の側にいるわけにはいきませんし。家なら近所の方に見ていてもらえるので安心です。なので、帰らせます」
「私がユースリアさんを見ていますよ。だから、いいじゃ――」
「ダメだ!!」
大きな声を出したレイに2人は驚いた。普段温厚そうにしている事もあって、怒鳴ってしまうレイなど想像できなかったからだ。
2人が驚いている様子にレイも気が付き、ばつが悪そうな顔をして、ユースリアから手を離した。
「……何かあったら、私を呼んでください」
その一言を小さく言って、レイは図書館の中へと入って行った。




