表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mad Clown  作者: 彼方わた雨
chapter 3 ~善│悪~
19/95

-19:頁3-

 ごくごく普通の家、ルーナはそう思った。



―19:(ページ)3



 扉を開けた時、良い匂いと、懐かしいような、不思議な感覚がルーナを襲った。奥では、おそらく、ファグランディが夕飯の用意をしているのだろう、カタカタと音が聞こえてきていた。不規則なリズムが何故だか体に沁み込んでいく。

 音が途絶えた。


「あぁ、おかえり」


 奥からひょっこり顔を出した、ファグランディは、笑顔だった。


「た、だいま……」


 久しぶりのその言葉が、口からこぼれていった。

 その言葉を言ったきり、立ち尽くしているので、リースはルーナの横を遠すぎる時、頭をポン、と叩いた。

 それで我に返ったルーナはリースの後にくっついていった。


「ただいまパパ、くらい言ってくれないと困るよ、息子」

「言ってろ」


 テーブルに並べられていたのは、湯気の立つ、おいしそうな料理の数々だった。ルーナは道中、リースから話を聞いていた。なんでも、料理はファグランディの得意な事の一つだそうだ。リースが用で家に行くたびにその腕前を披露されるのだとか。

 ルーナは話をしていた時のリースが微笑んでいたのを横から温かな気持ちで眺めていた。


「さあ、冷めないうちに食べてね」


 ファグランディに促され、2人は席に着いた。

 焼きたてのパンと、その横に置かれた具沢山のクリームスープ。明りでつやつやと光っている、鳥の照り焼き。いい匂いがその部屋いっぱいに広がり、自然と空腹を意識するようになった。


「いただきます」



「――それで、何か収穫はあったかな?」


 食事を始めてしばらくしてから、ファグランディが何気なく聞いた。ルーナは1つの記事に何時間も使ってしまった現実があるため、答えをはぐらかそうとしていた。答えに戸惑っていると、リースが横でため息を吐いた。


「こいつは、どうものんびり屋らしい」

「な、それは……」


 言われたことが事実だっただけに、ルーナは言い返す事が出来なかった。

 そんな2人の様子が可笑しかったのか、ファグランディはくすくすと笑っていた。


「その間、リースは何をしていたんだい?」


 ファグランディの優しさを含んだ目が、少し違う様にルーナには感じられた。目の前にいるファグランディの視線の先にいるリースはカチャリと、スプーンを置いた。


「……ウロストセリア帝国の技術系の本とか、この国にある力、の本」

「ウロストセリアか……何か面白いものはあったのかな」

「あったと言えば、あったな」

「そうか……ウロストセリアの技術には私も興味があるね。是非、もっと調べたら聞かせてくれないか?」


 何だか、先ほどとは違う、雰囲気にルーナは戸惑った。

 隣国、ウロストセリア帝国といえば、科学技術が発展し、機械を多く作り出している国である。自然を重んじるアルセアやイダラとは違い、そのような技術が発展しているのだ。その代償として、ウロストセリアに自然環境は少ない。帝国民の食糧でさえ、最近では機械で一括管理されている。さらには穀物を育てるのではなく、作り出しているという。薬品、技術より作り出される、食糧。


「……この国の力?」


 ウロストセリアの話で盛り上がっている2人だったが、ふと、リースが言っていたことが気になったルーナは、口から疑問が漏れた。


「知らないのか……?」


 リースは隣にいるルーナを信じられないようなものを見るかのような目で見つめた。そのリースの態度に自分は世間知らずなのかと、どきりとしたが、リースの態度が気に障った。


「リース、その顔はやめなさい。知らない人もいるのだから」


 優しく慰めるかのような、ファグランディの声が、ルーナの心を落ち着かせた。


「折角セルトラリアにいるのだから、明日調べてごらんなさい」


 どうせしばらくいるのだろう、と微笑みながらファグランディは言った。その言葉に素直に頷いてルーナはまた一口、スープを口に含んだ。

 目の前の優しい表情のファグランディに、父親とは、こんな感じだった気がすると、思い出していた。



「お嬢さんは先にお風呂に行ってらっしゃい」


 食器を下げたルーナは、何か手伝おうと、台所で食器を洗っていたファグランディの横に行ったのだが、声をかける前にそのように言われてしまった。

 お世話になるのに、何もしないでいるのは気が引けるため、なかなか動けないでいると、ファグランディは微笑んだ。


「甘えていいよ。私はね家事が好きだし、甘えられるのも好きなんだ。だから、気にしなくていいんだよ?」

「……では、お言葉に甘えて」

「うん」

「最初から、気にすることなんてないぞ。こいつはMだから」


 残った食器を下げて来たリースが後ろからそう言った。


「風呂、こっちだから。あと、タオルとかは好きに使え」


 風呂場を簡単に案内され、ルーナは台所を後にした。

 ファグランディが食器を洗い、それをリースが拭いて片づけをしていた。その姿を見たルーナは面白くなって聞こえないように笑った。



「――あんな子連れて来て、驚いたよ」

「俺だって、初めは驚いた」

「追手は、どうした?」

「今頃、パワグスタだろう。俺たちはここでしばらく時間を稼いでからパワグスタに行く」


 食器を洗っていたファグランディはその手を止め、鋭い視線をリースに向けた。


「渡してはならんよ」

「そんな事、俺が一番思い知ってる」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ