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アルセア国中央図書館は白く、大きな建物であった。国一の蔵書数を誇り、国内だけではなく、イダラ国、ウロストセリア帝国の文献もある。さらに、過去の新聞もある程度保管しており、国内の動きも知る事が出来るのだ。
重要文献も多く保管されている。
セルトラリアの真ん中にある図書館であることから、必然的に国の中心に位置するため、中央図書館という名で呼ばれている。
外観も綺麗なので、それを目当てにやってくる人間も少ないと言われている。
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ルーナは図書館に入った時から、開いた口が塞がらなかった。
エントランスは吹き抜けになっており、天井のガラス窓からは太陽の日差しが降り注いでいた。エントランスの壁の方には掲示板が設置されており、都市からのお知らせや催事のポスターが並べられていた。
少し入ると、机や椅子がたくさんあって、様々な人が本を読んだり、新聞を読んだりしていた。中には、勉強している者もいた。
本が置かれているスペースも吹き抜けになっており、3階まで下から見上げる事が出来る。それぞれの階に本がたくさんあり、壁に埋め込まれた本棚に多く並んでいた。
1階にはそのような本棚だけでなく、普通に規則正しく並んだものもあった。見渡す限り、本がたくさんあるので、ルーナはその莫大な数に驚いていた。
リースは特にそのような反応は見せず、図書館の中にどんどん入っていた。
「過去の新聞があるのはこのスペースだ」
閲覧室の奥、扉があって、その奥には年月日ごとに分けられた新聞が並んでいた。町ごとの新聞もあるようで、何種類かあった。閲覧室ほど人はおらず、数人が椅子に座って新聞を眺めている。
とりあえず、ルーナあの日付近の新聞を探すことにした。数ヶ月前の新聞を探し、いくつか取って読み始めた。
「飽きたら、1階閲覧室のC区画にいるからな」
「……うん」
ルーナは新聞から目を逸らさずにリースに答えた。リースはルーナのその様子を見て、そのまま何も言わずに部屋を出て行った。
新聞を発行するのは国の東西南北地域、そして、クリスタスとセルトラリアの6種類。聖都、中心都市は大きな都市であるため、情報も多い。したがって、その2つは都市で新聞を発行している。
ルーナの住んでいたリスターは国の北側に位置するため、アルセア北地域の新聞をとりあえず見ていた。
やはり、道化師が関与した事件であるために、記事が載っていた。
――『満月の襲撃、道化師の犯行』。リスターの町で、道化師がまたも動いた。殺害されたのはスタートルテ夫妻。アルセアの北で多く行動がみられる「狂愛の道化師」の仕業である。道化師は何らかの悪事を働いている人物を狙うのだが、今回の被害者にはそれが該当しない。現在調査中ではあるが、今のところ被害者は潔白の身である。つまり、今回、道化師は無実の人間を殺したことになる。これは、一体何の意味を現しているのだろうか。道化師は愉快犯だったのか、それとも、間違いだったのだろうか。この事件は異例の事態である。無実の夫妻を殺害した道化師の罪は重い。残された夫妻の養子である、少女が取り残されてしまった。この少女の――
「……養子?」
ルーナは記事のある文字に目を奪われた。記事に記された「養子」という文字。それは、スタートルテ夫妻とルーナ自身の血のつながりが無い事を意味する。
しかし、ルーナはその事実を知らない。
(両親は私が養子だなんて、一言も話していないわ……。でも、この記事が嘘だとしたら? もし、本当だったら、何故、教えてくれなかったの……?)
ルーナはしばらくその記事と睨めっこしていた。
「……あの、大丈夫ですか? 何かお困りの様でしたら伺いますが」
突然聞こえた声にルーナは現実に引き戻された。先ほどの新聞記事とずっと向き合っていたのだ。まわりを見れば、そこにいたのはルーナと声の主くらいだった。
ルーナは理由をずっと考えていた。納得できる、そして、信じられる理由を。しかし、それは一向に思いつかなかった。
横を見ると、そこにいたのは心配そうに見つめる、青年の姿だった。優しそうな表情に、ルーナも少しホッとする。
今まで考えていた事がそういうものだったため、ルーナは少し頭を切り替えようと思えた。
「大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「そうですか? その記事をずっと見ていらしたので、何かあったかと思いました」
青年はちらりとルーナの持っていた記事に目をやった。
「……道化師、ですか」
「あの、失礼ですが、どなたですか?」
ルーナはあまり触れられたくないと思い、話題を逸らした。それに、見ず知らずの人間がここまで話してくる事に警戒をしたのだ。
「あ、し、失礼しました。私はこの中央図書館の司書を務めております、レイです。ここの新聞、1階のC区画などの整理は私の担当の1つでして……」
申し訳なさそうに言った青年、レイは善人そうな雰囲気があった。それは、話す声からも感じられるものだった。
「そうだったのですか」
「あと、すいませんが、そろそろ閉館のお時間です」
言われて、ルーナは時計を見ると、時計の短い針は6を指していた。確かに、ここに来たのは午後の半ばくらいだったが、ずっと、1つの記事を考える時間に使ってしまったのか、というもったいなさをルーナは感じた。
「す、すいません! 今、元に戻しておきます」
「いいですよ、ここは私の担当ですので、元に戻すのはお任せ下さい。……それより」
青年が、どこかに視線を移したので、ルーナもその先を追ってみると、そこには入り口で腕組みをして立っている、リースの姿があった。
これは、急がなくてはいけないと、ルーナは礼をして、リースのもとへ急いだ。
「……で、何か収穫あったか?」
「うーんと……まあまあ、かな?」
「しばらくは、滞在するつもりだ。効率の悪いお前でも大丈夫なようにな」
反論しようとしたが、今日の事を思うとその言葉が見つけられず、ルーナは黙って、リースについて行ったのだった。