-12:少年の罪-
慌てて扉を開け、音のした方を確認しに行こうとしたアエルは、目の前の光景に目を見張った。
―12:少年の罪
ガラスの破片が足元に散らばり、廊下を照らしている蝋燭の火によって、きらきらと輝いている。そこにいたのは顔を全て覆った仮面をつけた、不気味な人だった。あまりにも異様な空気を纏った者がいる事で、その空間も恐ろしいものへと変わっていった。
左右が対象でない、ワンピースの様なものを着た者と対峙しているのは父親であるエイクドだった。
「お、お前は……」
「初めまして、エイクド・フェザリードル」
声からして女の人だと分かったアエルだが、全く状況が分からない。
突然現れ、そして、エイクドに用があるといった感じだが、取引の相手とは違う。エイクドが明らかに震えあがっているのが分かる。
「博識の道化師が、私に、な、何の用だ」
アエルは驚きを隠せなかった。噂では聞いていた、道化師。この国に巣食う悪を退治しているという者たち。そのやり口は様々と聞いていた。そして、自分自身がその存在を見ることになろうとは考えもしなかった。
「用? 決まっているでしょう」
冷たく言い放った、道化師は鼻で笑っていた。
「今まで何人、売った?」
首を90度に曲げ、問いかけるその姿に手も足も、口も動かない。アエルもエイクドもそれは同じようで身動き1つとれてはいなかった。
怒りや嘲りを含んだその言葉はアエルの心にも突き刺さった。
今までしてきたことの報いがついに、こういった形で訪れてしまったという事を実感し、恐怖した。
「言い忘れていたけれど、誰も助けには来ない。いい?」
道化師はそう言いながら、きらりと光るナイフを取り出した。
仮面の表情が恐ろしい。
張り付いた表情の筈なのに、口端はどんどん裂けていくように見えた。
コツコツと鳴り響く足音。
動けない、アエルとエイクドはガタガタと震えた。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の炎で影がゆらゆら動く。
まるで、生きているかのように。
ニヤリと一層、笑った気がした。
「さようなら」
アエルの視界は赤く染まった。
恐怖で身動きが出来なかったエイクドを始末するのは容易な事だったであろう。
血飛沫はアエルに降り注いだ。
鉄の匂い、血生臭い匂いが漂う。
アエルは息をするのを忘れていた。
だらんと、支えを失ったエイクドが目の前で崩れ落ちていく。
「あなたのお願い、叶えた」
耳元で道化師が囁いた。
「――う」
アエルは膝から崩れ落ち、頭を抱えた。
「ちがう、違う、チガウ、ちがうちがうちがう!!」
アエルの叫びは屋敷中にこだました。
道化師のいなくなった、そこにいたのは、気を失ったアエルと血まみれのエイクドだけだった。