-10:少年の町-
アスラエルにやってきた2人。
-登場人物
ルーナ・スタートルテ
道化師に両親を殺される
リース・グレイ
ルーナに付き添い、旅をする
アエル・フェザリードル
アスラエルの領主の息子
エイクド・フェザリードル
悪事を働く、領主
「私はね、ルーナでこっちがリース。案内、よろしくね」
ルーナは屈託なく笑った。
アエルに案内されて、アスラエルの町の中に足を踏み入れたリースとルーナは異国の品々に目を輝かせていた。それを自慢げにアエルは説明していくのだった。
―10:少年の町
「初め、お兄さんの事イダラの人かと思ったよ」
アスラエルの町を散策している時に、アエルは不意にそう言った。
物を売る人たちが声を張り上げ、自分の店をアピールしている。お客たちは声に気を奪われ、あちらこちらきょろきょろしている。
その雑踏の中、リースはアエルが訪ねてきたことが面白かった。
「俺がイダラ人か……見えるか?」
「見えなくもない、と思うけど」
眉間に皺を作りながら、じっとリースを見つめるアエル。
「まあ、あんな所で迷っていたら、そう思うかもな」
アエルは頷きながら、先を進むルーナを呼び止め、ひとつひとつ、店の案内を彼女にし始めた。そんな2人をリースは後ろから見守るようについて行った。
青空の下、様々な物が売られている。食べ物、服、装飾品、剣、他にもいろいろな物が、店に並んでいた。
シートの上で、店をしている簡易的なところもあれば、本格的に店を構えているところもある。流れてきた商人もここで商売をしていることが分かる。
市場には活気があった。
国の北に位置し、聖都とも離れているため、地図上だと田舎だと思われがちであるが、しっかりと賑わっているのがこの町だ。やはり、イダラの国境という事が大きい。同じ国境付近の町であるパワグスタはウロストセリア帝国との境であるためピリピリとしている。
「きれい……」
「アスラエルで発掘された鉱石だよ。イアルダ山でしか採る事が出来ないイアルダ鉱石。それを使用した装飾品だね。イアルダ鉱石はどういった加工ができるのか発掘した時から決まっているんだ。だから、同じ形、大きさのものは存在しない。それに鉱石の輝きも特徴」
しゃがんで、シートの上に載っていた鉱石をルーナは持ち上げて、光を当てる角度を変えてみた。
鉱石は角度を変えるたびにきらきらと光り、七色に光っていた。鉱石そのものは透明なのだが、光によってさまざまな色をしている。
「太陽の光はもともと七色で構成されているからね。太陽光って本当に七色なんだって言う証拠」
アエルも一緒にルーナの隣にしゃがんで鉱石を見た。ルーナは感嘆の声を漏らしながら、アエルの言う事を聞いていた。聞いてはいたのだが、きらきらと光る鉱石に夢中になってしまっていた。
アエルは隣でそれを見ながら、自分より大人なのに子供っぽいと感じた。
「気に入った? それなら、僕が――」
「1つ、買ってやる。どれがいい?」
そのやり取りを見ていたのか、2人の頭上から声が降ってきた。
「いいの、リース!?」
「あんまり高いのは無し、な」
言われたと同時にルーナは黄緑色の瞳を輝かせ、広がっているイアルダ鉱石を使った品々を見ていた。輝いたその瞳はまるで、エメラルドの様だった。あれやこれや手に取ってみては、あっちもいい、こっちもいいと悩みに悩んでいる。
その様子を2人は並んで見守っていた。
「僕が買ってあげようかと思ったのに」
「ほー、ガキのくせに」
「はぁ!?」
ガキと言われたことに反応して、アエルはキッとリースを睨んだ。リースは何でもないように、悩んでいるルーナを見ていた。アエルも睨んでいることがバカバカしくなり、リースと同じように彼女を見ていた。
「2人ってさ、恋人?」
「……無いな。俺は落ち着きのあるやつがタイプだ」
ため息交じりに答えたリースにアエルは舌打ちした。
「つまんないの」
「殴るぞ」
「子供に暴力とか、大人気ない」
リースは引きつった笑顔をアエルに向けた。しかし、アエルは何食わぬ顔でルーナを見ていた。リースは己の拳を押さえておくので精いっぱいだった。そうできたことが、大人ではないかと自分に言い聞かせるリースだった。
「リース、決めた!」
リースが固く握った拳を押さえているそんな時、ルーナがブロンドの髪の毛をふわりと揺らして振り返った。彼女の手にはきらきらとしたペンダントが握られていた。
リースは息を一つ吐いて、ルーナのもとへ行った。彼女が持っていたのは星の形をしたペンダントだった。星のモチーフはさほど大きなものではなくだいたい、どんぐりくらいの大きさだった。
リースが会計をしている時、ルーナはずっと嬉しそうにしていた。
「嬉しそうだね、ルーナ」
「ええ、嬉しいわ。だって、あんなにきれいなものだったのですから」
きらきらとしたルーナの表情に、アエルは少し嬉しくなった。自分が誰かを楽しませることができたのではないか、と。アエルがアスラエルの町を案内してくれたおかげでこの鉱石を売る場所にも出会えた。ペンダントを買ったのは勿論リースであるが、もしかしたら、自分もルーナの笑顔の原因の1つになっているのではないかと考えるとアエルは嬉しかった。
七色に光るペンダントをつけて、ルーナはすっかり上機嫌だった。
3人はそれから、またぐるっと町を見て回り、いろいろな物を見て、食べて、買った。そんな事をしていると、あっという間に時は過ぎて、辺りは少しずつ、赤く染まり始めていた。
「じゃあ、そろそろ宿に行った方が良いよ」
「今日は案内ありがとう、アエル」
「そういえば、いつまでここに?」
「分からないけれど、行くところが決まったらかしら」
同意を求めるようにルーナはリースを伺ったが、彼は無表情だった。ルーナは頬を少し膨らませていた。
「そっか、じゃあ、また会えるかもね」
「そうね、お別れの時はまた会いに行くわ」
きらりと光るペンダントをつけながらルーナは笑った。 そのまま、2人はアエルに手を振りながら、町の中へと消えていった。
2人が見えなくなった時、アエルは1人、拳を握りしめた。
「僕には、やるべき事がある」
「……リース?」
立ち止まって、後ろを振り返っているリースをルーナは不思議そうに見つめた。
「いや、何でもない」
すっきりとしないリースの返答にルーナは首をかしげたが、リースに置いて行かれそうになり、聞き返すことはできなかった。
空は赤く染まり、夜の訪れを人々に知らせていた。
「そういえば、道化師の情報は集まったのか?」
「……しまったぁ」
「おいおい……」