-01:歪む道筋-
大きな月が真っ黒な空に輝いている。月明かりは辺りを照らし、たくさんの影を落としている。
「……さてと」
仮面を付けた、人影がうごめく。
─01:歪む道筋
今日はなぜかのどが渇いた。一度寝てしまえばそのまま朝になることが多かった私にとって珍しいことだ。
ゆっくりと階段を下っていった。家の中はしんと静まっている。明かりをつけようとしたが、両親を起こしてはいけないと思い、やめた。
壁に手を当てて探り探り台所へ向かった。窓辺は月明かりで明るく、思わず月を眺めた。
大きな月は吸い込まれそうなほどきれいだった。
しばらくして、本来の目的を思い出し、再び台所へとゆっくり向かった。
それにしても、静かである。明らかに真夜中であるから静かなのは当たり前だ。
それでも、いつもと何か違う。それは、今が夜だからという事なのだろうか。
あんな大きな月を見ているときはなにも感じなかったはずなのに、今はこんなにも不安と恐怖が入り交じっている。
廊下を進む足がなんだか重い。部屋をでる前以上に喉はからからで口の中はパサパサだ。
台所の入り口にたった。そのまま、水を飲むためテーブルの上に置いてある水差しを目指した。
台所に数歩入ると、足に生ぬるい、ぬるっとした違和感を感じた。
裸足だった私はその感覚をもろに受けていた。しかし、雲に隠れたのか、月明かりが射さないこの部屋ではよくわからない。
気になったので私は明かりをつけようと、ランプを探した。その時、月が顔を出した。
「……い、いやぁぁぁぁぁあああああっ!!」
足にまとわりついていたのは真っ赤な血だった。
部屋に真っ赤な絨毯を敷いているかのように床は赤く染められていた。
人の気配がして顔を上げると不気味な仮面をした者がいた。
モノクルが月明かりに反射している。そして、この場に不似合いな派手な衣装を着た人の姿が映し出された。
まるで、道化師だ。私をあざ笑うかのような姿だ。
「──だ、誰なのっ!?」
声が震えていたけれど、なんとかして声を出した。道化師は仮面に覆われていない口の端を上げてその場から消えた。
残されたのは、血溜まりにへたり込む私と、動くことのない両親だった。
どちらも首元をざっくりと斬られていた。床に糸の切られた操り人形の様に四肢をだらしなく投げ出していた。
その血は今も絶え間なく流れているようで、どんどん私を赤に飲み込んでいく。引きずり込まれるこの赤に私は抗うことが出来ない。
私はそこから抜け出そうと、両親に手を伸ばした。でも、ふれたその手が感じたのは生き物の温かみではなく、冷たい人の死だった。
ああ、どうしてこんなにも冷たくなってしまったのだろう。私は己の手を見つめる。
赤黒く、血塗られた、その手を。
私は月明かりに照らされたまま意識を失った。
翌朝、気がつくと私はベッドの上にいた。見える天井は我が家のものではない。異様なまでの真っ白な天井。
「気がついた?」
頭の重さで横を向くと近所の診療所だと分かった。見慣れた女性だった。いつもと違うのは、ひどく可哀想なものを見る目だけだ。
「ルーナさんの悲鳴が聞こえてね、夜中に近所の人たちと行ったの……」
ああ、そうか、あれは夢ではなかったようだ。両親は不気味な道化師によって殺されたんだ。
そう思うと、あの光景がフラッシュバックする。あれは地獄だ。
それは吐き気となって私を襲った。女性にさすられながら、私は涙を流し、その顔はぐちゃぐちゃになった。
たとえ、あの家に帰ったとしても、もう、温かく迎えられることはないのだ。
朝起きて、父親に寝癖を馬鹿にされることも、母親と一緒に料理を手伝うことも……。
だって、死んでしまっているのだ。
あんなに優しかった2人の顔は真っ赤に染められて、顔は悲痛なもので、目は剥き出しで。
なんで、両親が殺されなくてはいけなかったのか、私には分からない。
──あの、狂った道化師を許さない。
ほかの作品も連載中ですが、
もう1作とは違い、こちらはダークです。
そうする予定です。
投稿は夜に行っていきたいと思います。
更新はゆっくりかもしれません。
それでも、よろしくお願いします。
次回は明後日午後9時です。
2014/9 秋桜 空