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二つ名のクーン  作者: アブドゥルラフマン友松
第一章・ホトリ村のクーン
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第七話・サーシャ(1)

これまでの二つ名のクーンは……


クーンとその仲間達はグループを作り、大きくして成り上がっていくために猟師の元へ師事を依頼するが、クーンに不思議な力「ミウタ」の才能を見た猟師は、クーンと共に村へとついて行く事になった。

村人と摩擦する猟師ランバのために、クーンの母ローズはランバがただの猟師ではないと察しつつも同居を提案。ランバもこれを受け入れた。

「脚の折れていない馬は馬車から外しておけ。人質……おっと、『商品様』を運ぶのにも何かと入り用だからな」

 ドミニーシャ地方プエリテイア街道は帝政以前に造られた街道として歴史家の間で有名であると同時に、民衆からは忘れ去られた遺跡でもあった。ドミニーシャ地方を西から東へと横断する長大な石畳の街道も、定期的な補修がなければ老朽化を免れない。昔は足下を気にせず襲歩で駆け抜けられた街道も、今や磨り減り馬がうっかり脚をくじいてしまわないか気を付けながらでないと前へ進めない有様だ。

「へい、親分」

「親分なんて無粋な呼び方するなって言っただろう。俺たち『英雄騎士団』のリーダーたるこの俺に対して」

「すいません、エリゴル騎士団長」

 エリゴル騎士団長と呼ばれた男は部下からの言葉を胸に受け止め歓喜に震えていた。勿論この男、真っ当な身の上の者ではない。この近辺に拠点を構える山賊の一味である。馬車を襲って乗客から金品を奪うのではなく、彼らを拘束して身代金を奪う事を生業としていた。護衛がいない、または少ない馬車に目をつけては丸太などで道を塞ぎ、背後から襲って乗客を捕らえるのを常としていた。

「五、六、七,八……今回はなかなか金の取れそうな商品が多いじゃないか、ええおい?」

 エリゴルはロープで繋がれた乗客を一人ずつ指さして口を歪めた。

「こいつは一五〇〇デライト。こいつも一五〇〇デライト、こいつは……」

「いい気になるなよ、下郎っ」

 繋がれた男がエリゴルに向かって叫ぶ。捕らわれた時に殴られた傷跡の残る顔を紅潮させながら、なおも勇敢に叫び続けた。

「お前らのような山賊なんぞ、帝国軍の手にかかれば一捻りだ。せいぜいそれまでの短い自由を……ぐがっ」

 言い終わるより先にエリゴルの剣が男の胸を刺し貫いていた。他の人質達の間から悲鳴が起きる。

「貴様は一五〇〇デライトの金よりも値打ちがありそうだ。そんなはした金より貴様を殺してスッキリした方が気分いいぜ!」

 胸を刺した剣をそのまま捻るように回すと、人質の男がガクガクと痙攣すると同時に鈍い音がして剣が折れた。締まった肉と骨に邪魔されて剣が耐えきれなかったのだ。

「あー……折れちまった」

 エリゴルは折れた剣を捨てると、殺した男の腰から剣を取って振り回し、具合を確かめる。

「さぁ、俺をスッキリさせたい奴は他にいるか! 他に一五〇〇デライトの身代金より値打ちのある奴はいないのか!」

 返事はなかった。人質達は静まりかえり、沈黙している。満足げにエリゴルは人質達を見回していたが、ふと一人の少女に目を留めた。

「お嬢様……いけません」

 年は一〇ぐらい。地味で暗い色合いの服を着ている。この辺では見ない服装だ、とエリゴルは思った。目を留めた理由は他にもあった。怖がりながらも隣の人質を気遣っている事。そして、その隣の人質……金髪の少女が、全く怖がるわけでもなくこちらを睨んでいるからだ。

「なんだ? お前は……」

 エリゴルは二人の少女の元へと歩み寄った。隣の人質をお嬢様、と呼んだ方の少女はエリゴルが近付くのを見て震えながらも隣の少女をかばおうとしている。

「リウム、下がりなさい」

 金髪の少女はきっぱりとした口調でそう言うと、立ち上がってエリゴルを真っ直ぐに見据えた。

「ほう……貴様は一五〇〇デライトよりも値打ちがありそう……だな。名前は?」

「マシウス・サーシャ」

「おおかたどこかの貴族のご令嬢が物見遊山でこんな辺境にやってきたんだろうが……運が悪かったなぁ。あんたならそうだな、二〇トラスの身代金になりそうだ」

 人質からも山賊からもざわめきが起きた。二〇トラスをデライトに換算すると六〇万デライトになる。これは一万人弱の兵士を一年間雇える金額に匹敵する。

「私は二〇トラスなんて金額にはならないわ」

 サーシャはエリゴルを真っ直ぐ見据えたまま言う。

「五〇トラスを要求しなさい。そうでなければ私の価値に合わないわ」

「おじょうさまああっ!」

 山賊の誰もがサーシャの言葉に絶句していた。五〇トラス。それはもはや法外を通り越した想像もしたことのない金額だった。

 絶句していたのは足下ですがりつくリウムという少女も同じだった。サーシャをたしなめるように叫んでいるが、サーシャの方は全く彼女を顧みる様子はない。

「ふん……面白いじゃないか、ガキ。お前何者だ?」

 エリゴルはなおも剣を突きつけたまま問う。

 サーシャは長い金髪を風にたなびかせたまま、凜とした声でその質問に答える。

「私の名はマシウス・サーシャ。ドミニーシャ辺境伯マシウス・デイツの娘です」

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