第四話・猟師
「おい、テグゼン達が肉焼いてるぞ!」
アルフの声が聞こえてすぐ様子を見に行った。棒に通した兎をたき火で炙りながらぐるぐる回していた。相談もなしに兎を一羽……! と一瞬思いはしたものの、僕も一度食べてみたいと思ってたのでその様子を見守ることにした。
「そろそろ食えるんじゃないか?」
いい色合いになってきたところで、誰からともなく声があがる。アルフが小刀で薄く切って皆に渡していく。
「どうせなら足一本ガブっといきたいよね」
なんて笑いながら、薄切れを口に放り込んだ。……これはうま、い? あんまり……美味いとは言えない。臭い、というか。血抜きに失敗したのかもしれない。周りの反応も同じような感じだった。新鮮な肉だからまぁ美味いは美味い。ただ、思ったほどでもなかった、という。
腹ごしらえが終わった後、狩りは四人に任せて僕クーン、リカルド、アルフで話し合いをすることになった。
「肉は微妙だったけど毛皮は良い感じに剥げたんじゃないかな? さわり心地が凄いね! これはいい売り物になるよ」
「でもクーン、どこに持って行くつもりかな。村じゃあ毛皮なんてお金にはならない、せいぜいが物々交換、それも足下を見られての取引になると思う」
と、リカルドがいつものように冷静な意見を出す。皆が浮かれ気味の時でも的確な意見を出す頼もしいお兄さんだ。
「うーん……考えがあるにはあるんだけど」
「というと?」
「山の猟師の所にね、持って行こうかと」
山の猟師と聞いて二人はええっ、と声をあげた。無理もない、猟師の真似事をして得た獲物を猟師の所に売りに行くと言ってるんだから「何を言ってるんだ」という目で見られても仕方ない。
「あのジグラズィの猟師に!?」
ジグラズィというのは隣の国、ジグラズィ部族国の名前だ。どんな名前かは知らないが発音しにくい名前の部族がいくつか集まって出来た国で、ホトリ村からは国境も近い。その山の猟師は時々ホトリ村に来ては毛皮、干し肉と交換に農作物を持っていく。訛りが酷いので言葉が少し難しいだけで何か害があったことはない。けれどもやはり余所者というのは敬遠される……そういえば僕と母も余所者だったな。
「うん。あの猟師は山で狩りをしてるからここの森に来ることはあまりないと思う。村に近いしね。でもやっぱり、何となく彼の縄張りを荒らしてる、というか領分を侵しているような気もするし……一度挨拶に行ってみた方がいいと思うんだ。うまくいけば狩りのノウハウも教えてくれるかもしれないし」
ずっと無視し続けて、後々溜めた不満を爆発させてトラブルになるより今のうちに接触してトラブルになるかどうか確かめておいた方がいい。そう説明した。僕の話に二人は頷いて納得してくれた。
「じゃあ俺とクーンが行こうか。アルフは残ってしばらく狩りを続けてもらってもいいかな」
「分かった、じゃあ手土産に兎を持って行くといいな、ちょっと持ってくる」
アルフが離れていったところで、僕はリカルドに小声で聞いた。
「ねえ、なんでアルフを外したの?」
「うーん……なんでって、あいつはちょっと話し合いに向いてないところがあるからね。強引というかなんというか……。それが必要とされる場面ももちろんあると思う。けど、今はその時じゃないね」
分かったような、分からないような態度で僕はとりあえず頷いた。この時のリカルドの言葉がのちのちになって重大な意味を持つとは、この時僕は全く考えていなかった。