第三話・狩りの成果
「取らぬタヌキの…、いや、取れぬウサギの皮算用?」
獲物のいない落とし穴の前でリカルドは自嘲気味に笑った。完全な空振り、収穫ゼロ。土が異様に固かったせいで兎を落とすためだけの小さな穴を掘るだけで各自半日以上かかっていた。見破られないよう葉っぱと枝で偽装するのには資材集めを含めて数日がかり。
それが全て無駄に終わったのだから、皆の落胆ぶりもひとしおだった。
とはいえ、僕はそれほど落胆はしていなかった。失敗は、確かに失敗だ。だけど収穫もある。失敗という収穫だ。もっと具体的に言うと「うまくいかないのはどこか」というのが分かった、ということだ。実際に罠を作ってみなければ何がうまくいくのか、何がうまくいかないかも分からないままだった。それを考えればこれは確かな前進なんだ。
……と伝えたかったけれど、とりあえず自分だけで落とし穴を調べに行くことにした。
仕掛けた人によって落とし穴の様子は様々だった。簡単に木の葉をかぶせただけで明らかに怪しいと分かるもの、普通の地面と全く見分けがつかないもの、すべてバラバラだ。すぐ近くに落とし穴があることが分かるよう、木に目印を刻んでおいてあるので分かったけれど、下手をすれば僕自身も罠を踏み抜きかねなかった。
しかしそれでも兎は見向きもしなかった、というのは何か根本的なミスがあるのでは……そう思い悩みながら、藪の中を腕組んで歩いている最中、何かが僕の頭の中で繋がった。
「まさか、いや、まさかな……?」
僕はすぐ皆の集合場所へと戻っていった。息を切らせる僕を見て皆が訝しむ。
「どうしたクーン?そんなに慌てて……」
「あのー、もしかしてなんだけど……誰も餌を仕掛けてない、よね?」
皆が一斉に目を見開いた。見えない稲妻が背中に落ちたみたいな顔だ、今は快晴だけど。完全に忘れていた、そういえばその手があったか、などと口々に言う。
「そうだよ、罠には餌を仕掛けなきゃ意味がないじゃないか!」
と、リカルドは言って立ち上がり村の方へと走り出した。「餌になりそうなもの持ってくる!」と言って。
全く僕を含めて素人の集まりもいいところだ、と言うしかない。誰からともなく笑い声が響いた。
数日後、僕たちのアジト兼集合場所の大木の枝には、紐で繋がれた皮のない真っ赤な兎が四匹、ぶら下がっていた。穴に落とせたのは六匹いたけど、浅かったせいで逃げられたり、捕まえて喉を切ろうとした後暴れられて逃げられたり。そこでやり方を変え穴をより深くして、かつ落ちた兎は棒で殴って殺すことにした。毛皮も大事な売り物なので小刀で傷つけたくない。下処理の仕方や皮の剥ぎ方は猟師の人がやっているのを見て盗んだ……もとい、見よう見まね。喉を切って吊るして血抜きする。腹を開いて内臓を抜く。とった内臓は食べさせる動物も居ないので、話し合った結果埋めてしまうことにした。将来犬を使って狩りをすることになれば、いい餌になるかもしれない。