第十二話・準備と異変(3)
話し合いは順調に進み、全員の担当分の報告が終わった。最後の締めくくりをするのはやはりこの人だ。
「よし、皆忙しい中ありがとう! お姫様を助けるためにも気張っていこう!」
リカルドだ。実際に僕よりも人望があるのはリカルドをおいて他にない。……いや! 僕がリカルドの次に人望があるっていう意味じゃないよ。最初のメンバーの中で一番人望があり、かつ新人からの受けもいいのはリカルドなんだ。僕なんかは割と人付き合いが苦手な方なのでリカルドの真似をしたいなとは思うけど……それがなかなか難しいのだ。
たいして大きくないのによく通る声。仲間一人一人への気遣い。僕も何歳か年をとったらああいう風になれるんだろうか? ……いや、リカルドは何年も前からずっとリカルドだったし、僕はずっと僕だった。年をとれば自然に、なんてことはないだろう。
「なあ、クーンちょっといいか?」
一人で頭を抱えていたら、テグゼンから声がかかった。ふと周りを見ると既にテグゼンのほかは誰もいない。
「えっと……。クーンのお母さんはどこにいるの?」
「母さん? 母さんなら、寝室でリウムさんと帝国将棋やってると思うよ」
「そっか、いやぁ、ありがとう! ちょっと話したいことがあってね、んじゃ!」
あまり見たことのないテグゼンの妙な様子に、僕は首を傾げた。
「……変なやつ」
「ここで忍がここで成らずにこう行くと……ほら」
「むむむ……ああっ、掌握されてるぅ……」
寝室ではクーンの母、ローズとサーシャの侍女リウムが帝国将棋に興じていた。ローズはベッドに腰掛けたまま、リウムは椅子に座って二人で遊んでいる。開け放たれたままのドアをテグゼンは軽くノックしてから部屋に入った。
「あら、テグゼンちゃんいらっしゃい」
「はは……どうもです」
恐縮しながら部屋へ入るテグゼンに、リウムは怪訝そうな視線送りながら会釈する。
「ローズさんはお加減いかがですか? 病気なんですから無理しないでくださいね」
「あら、こんなおばさんの心配してくれて嬉しいわあ。今の言葉でだいぶ元気になった気がするわ、将棋の勘ももっと冴えるかも」
「ちょっ……これ以上冴えるだなんてもう私の自信ズタズタですぅ……ていうか、ローズ様強すぎです! 帝国将棋の指導者としてやっていけるほどですよ!」
「うーん、私ぐらいじゃあそれはムリだと思うわ」
ローズは少し困ったような顔をしてテグゼンの方を見ると、ぱあっと顔を明るくして手を叩いた。
「そうだ! テグゼンちゃんも将棋できるわよね?」
「え? ええ、まぁ」
「じゃあ、あそこにもう一つ椅子があるからリウムちゃんと指してみたら?」
テグゼンはローズとリウムを交互に見比べて、やがて意を決したかのように頷いた。部屋の隅にあった木製の椅子を引っ張り出して、ローズの掛けているベッドを前に、リウムと真正面に向き合っている。しかし、テグゼンの視線はずっと下を向いたままだった。そんなテグゼンの様子をリルムは不思議そうに見ていた。