第七話・サーシャ(3)
最終的にその村では二〇人以上の応募があり、その大半を採用した。テグゼンはまた別な村でも数人の応募者を集め、面接のうえで採用した。今、リカルドとアルフの前で作業しているのはそうして集めた人々だ。
「テグゼンは凄いやつだよ。実は俺も新人集めやったことがある」
「へえ。アルフ、君が?」
「二、三人に声をかけて断られた。んで、嫌になってそれ以来鍛冶屋に専念してる。そのあと、新人集めを始めたテグゼンが次から次へと連れて来るじゃないか。それで思ったんだ、あいつは話術が凄いんだって」
リカルドは蝋版に書き込みをしながら頷いた。
「でも、そうじゃなかった。あいつの凄さはそこじゃなかったんだよ。一ヶ月ぐらい前……新しい参加者が一五人ぐらいを超えた時だったかな。何か話し方にコツがあるのかって聞いてみた」
「それで、彼は何と?」
「何も特別な事はしてないと。会って、俺達のグループの事を話して、質問に答えて、興味を持った人は勧誘してそうでない人はサヨナラだと」
「それは……誰でも同じじゃないか?」
「ああ。俺はきっとテグゼンは話し方が上手いんだろうなと言ったら、彼はそうでもないと。断られてばっかりだから、大体勧誘に成功するのは五人に一人ぐらいだって言うのさ」
リカルドは蝋版に書き込む手を止めた。
「五人に一人? それなら、テグゼンが声をかけた人数は……一〇〇人以上!?」
「そう、隣村のそのまた隣、片道一日二日かかる距離でも出向いて勧誘に行ってたんだ、あいつは。普通だったらそこまではしない。それに、勧誘ってのは断られる時も『私は結構です』なんてスッキリ断られる事ばかりじゃない。馬鹿にされることだってある、ひどい事を言われる時だってある。でもテグゼンはそういうのを全く感じさせない。何を言われても次の人に話しかける時には全くそれを表に出さないんだな。それは、本当に心が強くないと出来ない事だと俺は思う」
「俺はそれだけじゃあ無いと思う」
リカルドの反論にアルフは怪訝そうな顔をする。
「俺が思うに、テグゼンは俺達のグループが何か価値のあるモノを成しうると信じているんだと思う」
「価値とは?」
リカルドは腕を組んで唸り、考えこむ。
「……誰かに感謝されるってことかな、いや、上手く言えないが」
アルフが続けるよう促すと、リカルドは再び考えこんで口を開いた。
「俺達が出来る事ってのは本当に小さい。正直死にたくなるほどちっぽけだ。狩り一つするにしたってそうさ。俺一人じゃ兎一羽捕まえる事だって難しい。でも、何人かで協力すればきっと上手くいく。俺は協力してくれた仲間に対し感謝する。仲間も俺の協力に感謝する。そうやってして生まれた感謝を積み重ね、集合させていった先に、何があると思う」
「……それが価値のある何か、か?」
リカルドは頷いた。再び作業を続けている仲間の方へ視線を移す。
「これは大きな価値への第一歩だと思う。集合させた力には良いのも悪いのもある。けど、クーンと俺たちなら方向を間違えずに束ねていくことが出来ると思ってるんだ」
「ああ、そう願うね」
アルフはそう答えながら、既にその目はリカルドも、作業している仲間も見ていなかった。北の林の方を凝視している。その様子にリカルドも気付いた。
「何だ……動物か?」
「いや、まだ分からん……。弓をくれ」
そばに立てかけてあった弓矢をアルフに手渡すと、彼は矢を番えて林の中の一点を狙った。