第七話・サーシャ(2)
太陽まで何一つ遮るものの無い青空に、木と斧がぶつかる乾いた音が響いている。ここはクーン達がアジトとしていた森の一角。仲間となった猟師ランバの指導のもと、森の木の伐採と作業場の建設が進められていた。当初は全員で七人だったメンバーも、ランバが加わり八人、それから間もなくしてテグゼンが一人参加希望者をクーンの元へ連れてきた。
「なぁ、この切った木はすぐ木材にするのか?」
アルフが隣で指揮をとっているリカルドに聞く。アルフとリカルドの前では、総勢で約二〇人が木を切ったり、動物をさばいたり、弓矢を造っていた。
「無理に決まってるだろ……ランバさんの話聞いてなかったのか」
呆れたような目つきでリカルドはため息をつくと、忙しなく手元の蝋版に書き込みをしている。
「切り倒したばかりの木は水分を大量に含んでいるからまず乾燥させるんだよ。一年以上かかるらしいけど」
「一年以上! おいおい、作業場を建てるのに一年以上待てってのか」
「林業やってるのはうちだけじゃないだろ。隣村のナガハマ村じゃあ林業が盛んだ。集めた兎の毛皮で防寒具を作ってそれを売る、それで得たお金で必要資材の資金にするって……そういう話だったろう?」
「ああ、そうだった、そうだった思い出したよ」
アルフは木の枝に吊るされ血抜きしている最中の兎達を見た。二ダース以上の兎が次の処理を待っている。ランバの指導で弓矢の製造を可能にした彼らは、狩りの効率を劇的に向上させて、同時に行動範囲も広がっていた。伐採班が使っている斧もそうして得た。作ったのは鍛冶屋が実家のアルフ自身なので原価同然で手に入った。
「倒れるぞぉーーー!」
大きなかけ声と共に空中の枝を巻き込みながら木が倒れていく。地面を揺らすと、伐採班は歓声をあげてお互いを讃えた。
「しかし人数も増えたよな……テグゼンは本当によくやってるよ」
「そうだね、新人募集はテグゼンの担当だからね」
テグゼンは参加希望者をクーンの元へ連れてきたが、クーンはこう即答した。
「僕の一存で決めることは出来ない。皆で考えよう」
そして面接を辞退したランバ以外の七人で参加希望者を面接することになった。参加希望者は一五の少年で、クーンよりも一つ年下だった。話す様は明るく体つきもしっかりしていた。クーンは参加を認めるつもりだった。しかし、リカルドは彼がかつて別の少年グループ……強盗などで金を稼いでいた悪質なグループに参加していた事を知っていた。当然彼は不採用となり、口汚くクーン達を侮辱して去っていた。以来、複数のメンバーによる採用面接は定例となった。
「やっぱり僕の判断だけじゃあ危ないよね」
とは、その時のクーンの言葉だ。
それから人事担当となったテグゼンはホトリ村や隣村へ出向いて街頭に立ち、クーン達のグループへの参加を呼びかけた。
「もし今の自分に不満なら僕達のグループへ参加しよう。僕達は大きな事を成し遂げるつもりだ。ただし作業は辛く、報酬は殆ど無い」
隣村でそう叫ぶテグゼンに対し、村の少年達は聞いた。
「大きな事ってなんだ?」
「お互いに助け合いながら出世し、いつかは騎士の称号を、いや、その上をも目指す」
「そんな事が本当に出来るとでも? 保証はあるのか」
テグゼンは微笑んで断言する。
「保証なんてない。できるかどうかも実際のところ分からない。ひょっとしたら、来月には僕達のグループ自体が無くなっているかもしれない。でも、だからこそ成功した時今参加した人達の名誉も賞賛も大きくなる」
テグゼンは一人一人の目を見つめて言い切る。
「これは賭だ。掛け金は君たちの青春、勝てば成功と名誉が手に入る、さあどうする?」