「あ、どうもおひさしぶりです。略してさしぶ?バカな、おしりにしとけ」
「うーん」「こ」
「……うーん」「こ」
目が覚めると見知らぬ天井だった。それは天井ではなく空だった。
どうやら公園のベンチに寝かされていたらしい。
「ちょっと人がお決まりの文句言いながら目覚めようとしてるのに遊ぶのやめてもらえません?」
流れる雲のように幽霊が目の前を横切った。
夢だと思ったら、夢じゃなかった!幽霊いたもん!くそ、夢じゃなかった!
「ごめんなさい」
幽霊は素直に謝った。
「そこはすまんこだろうが!!」
僕は怒った。
「セクハラやめてください訴えますよ!」
幽霊ちゃんは顔を赤くして言った。
「ええいやかましい、幽霊の世界に裁判所はあるのか?ないだろ?つまり僕がお前にどんないかがわしい見るに堪えないド畜生なセクハラ行為を働いたところでなーんの罪にも問われないのだ!」
しかも相手はつるぺたおっぱいながらも格別に美少女だ。絶壁の絶景だ。絶なのだ。
しかもしかも、この幽霊によれば僕はモテ力5の一生女の子とラブれない忌まわしき体。
「つまり!貴様は神が使わした我がオナpぐわばあばばばばばば」
いまにも飛びかからんとしていた僕に電流が走った。恋かな、と思ったりしたがこれはマジの電流だ。死ぬ。
「こんなのが同志だなんて嫌です!即刻三途の川で身を清めてきてください!」
「きみはさっさと賽の河原で仏の助けの順番待ちした方がいいと思うよ」
こんなじゃじゃ馬娘は仏だろうとほっとくだろうがね!
「賽の河原ならあなたが寝てる間に行ってきましたよ!最近は整理番号配ってるらしくて、あの世も発展してきてますね」
そういって幽霊ちゃんはポケットから石を取り出し、僕に見せた。1027兆2656
億……うわ国の借金?まさか賽の河原の子供たちと連動してるなんて、ブラックジョークがすぎるぜ。
「なんでわざわざあの世に行って、また戻ってきたわけ?」
「いやそのお、てへっ」
かわいく誤魔化されてしまった。おそらくこの作品が投稿された2014年3月からあっという間に月日が経って2015年も終わろうとしているいま謎に更新されたことがなにか関係があるのだろうが、僕は触れないでおくことにした。
「実は同志がぶっ倒れてる時にあなたの魂あの世に飛んでっちゃってたんですよね。それを見つけて元に戻すついでに整理番号とってきました」
思いの外深刻だった!僕大丈夫?息してる?息大丈夫?実は死んでるとかない?
「うーん、ちょっと臭いますね。ちゃんと歯磨きしてます?」
「いやブレスケアの息大丈夫じゃなくて」
内心できる幽霊だな、と思った。
幽霊ちゃんはぺったんこな胸を張ってえっへんポーズをした。この子ナチュラルに心読むから怖い。
「夜も更けてきたし私も寝たいし、いい加減本題に入ってもいいですか?」
幽霊が図々しくもそう言った。
僕はどうせ家に帰ってもゲームしてアニメ見るくらいしかすることがなく、この幽霊といて別に不都合はなかったのだが、さすがに夜の10時ともなると両親が心配してそうなので、話を引き延ばすのをやめることにした。
「幽霊のくせに何言ってんだ。むしろ今から本番だろ。リア充たちも夜の営みに繰り出してる頃だろうぜ」
なぜか飛び出した言葉はこれだった。下ネタ耐性のない幽霊ちゃんをいじるのが癖になりつつあるようだ。
「だーかーら、やめろってそういうのは!」
うーんかわいい。
「で?リア充爆破だっけ?ここでいうリア充ってのはカップルのことだろ?なんでわざわざそんなことする必要がある?」
確かに、リア充に対して妬ましいと思う気持ちはわかる。クリスマス直前のこの時期ともなると尚更だ。
クリスマスソングやウィンターソングなんて反吐が出る。
早く来い来いお正月って感じだが。
「しかしだよ、リア充ってのは将来子宝を授かる財産だ。なくてはならない存在なんだ。たかが嫉妬でその大切な財産を壊してはならないわけだよ」
子供が生まれなければ美少女もまた生まれない。そんな世の中は僕が許さない。
「私はなぜここにいるのかもわからない」
幽霊少女は言った。
「でも、私の中で渦巻くこのドス黒い感情だけは本物なんです!」
ただのサイコパスじゃねえか、と僕は思った。
けれど、涙目で訴えかけてくる少女の訴えを無下にするようなことは、僕にはできなかった。
「しかたあるまい、謎の幽霊少女。この不肖福沢賢治があなたのパートナーとしてその志を共にしようではありませんか!」
「やったあ!」
少女は白いワンピースをパタパタさせて喜んだ。見えそう。
このままこの子を放置して帰ってもまた別のパートナーを見つけにいってしまうだろう。もしそいつがとんでもないロリコン性犯罪者予備軍とかだったらどうする?このいたいけな幽霊少女が危険だ。
この少女自体危険思想の持ち主だ。僕が守らなくてどうする?
「じゃあよろしくお兄ちゃん、って言ってもらっていいですか?」
「うん、よろしくお兄ちゃん!」
やべえ鼻から熱いものがでそう。
「じゃあ、とりあえず今日は帰ろう!実は僕の家には怖い鬼が住んでいてね、早く帰らないとどやされるんだ」
嘘ではない。実際、僕の家にはそれは恐ろしい鬼子母神がいたのだ。すっかり遅くなってしまったので、心配していることだろう。
心配させればさせるほど、そのあとの爆発が怖い。
「なるほどです、では参りましょう」
「うむそうしましょう……は?」