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「出会いは突然の反対の反対なのです!」

そいつはなんの前触れもなく現れた。


さっきまで新しいゲームが欲しいな、なんて考えながら、ただ前を向いて下校していただけで、フラグを建てた覚えも建った感じもなかった。なにもなかった。


一般的には、曲がり角で「遅刻ぅー」だとか、ため息交じりでふと上を見上げてみればだとか、独り言で「彼女欲しいおっお」と言っただとか、多種多様なフラグ様がご尊顔を覗かせてから展開が始まるものだ。


だけど、今は朝じゃないし、ため息の出るような嫌な出来事もない、右手が恋人の困ったジョニーちゃんもおねんねしていた。


眼前には街並みの灰色と夕暮れのオレンジだけ。ついさっきまでは。


いまは僕の前に、白い、なんだか透明感のはんぱじゃない、もう言葉通り向こうが透けて見える、そいつがいた。噂に聞く幽霊にクリソツだが、たぶんこれモヤ。霧とかfog的なやつ。


モヤには顔っぽいものがついていて、イヤなぐらいぐらいニヤニヤしていた。その口が動いて、幻聴が聴こえた。


その幻聴、その一言が、僕の積み上げてきた平穏な日常ってやつをがらがら突き崩した。僕はたしかにその音を聞いた。

「やあ、同志!」



とりあえず僕は驚いて、やいやい騒いだ。あれだ、様式美ってやつ。


「やーいやいやいやい」


「なにその驚き方、怖い」


モヤはニヤニヤをひっこめてイヤな顔をした。


「あれだ、様式美ってやつ」


「なんで二回言ったの」


心読まれてた!


「驚くのは分かるけども。落ち着いて話を聞いてください」


「ひっひっふー」


「それも様式美ですね。まあ落ち着くまで待ちますよ」


「はい落ち着きました」


「はやいですね」


「違う意味にとると精神にくるセリフ第12位のセリフいただきました」


僕のこまったジョニーちゃんがしょんぼりしちゃったではありませんか。


モヤの顔の頬にあたる部分がほんのり朱に染まった気がしたけれど、たぶん夕日のせい。


「と、とにかく!かくかくしかしか」


「まるまるうまうま」


この透明感の権化はモヤなどではなく、正真正銘純度百パーセントまぎれもなく間違いなく疑いようもなくしつこい?ごめん。幽霊なんだって。


いい加減そんな気はしていたけれど、実際にそいだと言われると反応に困る。とりあえず逃げてみようかな。


しかし、僕のスラリと長いはずの足はピクリとも動かなかった。


「幽霊なので金縛りが使えます」


命中率あがったもんなあ。


しばらくポケモン談義に花を咲かせた。老若男女は厳しいけれど、そこそこ話題になるのがポケモンというゲームだ。


僕はとっさの機転で幽霊の気を反らし、話をしながらどうにか体を動かせないかと画策していたのだ。ふっふっふこういうケースは焦ってしまうから幽霊などの術中にはまるのだ僕のように冷静にあ、むりぽ。


日はみるみると落ちていって、辺りは暗くなってきた。晩冬とはいえ、まだまだ日が落ちるのは早い。


暗くなるにつれて、相対的に、もやがはっきりと人型に見えてきた。


女の子の幽霊だった。前髪を一の字に切り揃えたショートカットで、くりっとした大きな目が僕を見つめている。なにより印象的なのはその白さだ。髪も目も肌も、透き通るように白い。着ているワンピースまで白い。


「それで、どうして幽霊になっちゃったんですか?」


幽霊と言ったら、現世に心残りがあって、成仏できずに現れるものと相場が決まっているのだ。


「それが、どうやら記憶喪失らしくて」


幽霊は眉根を寄せてこまったよーって顔をした。不覚にも心臓がどっきんこしてしまった僕は間違いなく童貞。


「だいたい正午頃かな。太陽がてっぺんにあったから。私は宙に浮いていて、体が透き通っていて、死んじゃったのかなあなんて思って。でも私が何者かもなにも思い出せなくて。とりあえずふわふわしてたんです」


ずいぶんのんきだね。


「そうしたら、いちゃいちゃしてるカップルがコンビニからでてくるのが見えてね。なんか、こう、イラっとしてね」


幽霊少女は、すごく悪い顔をして笑った。ゾクゾクします。


「それで理解したわけ。私がこの世に残した未練。それは」


リア充を爆発させること。


「……え?」


「よく言うでしょ、リア充爆発しろって。私はリア充が爆発しているところが見たい」


「それは、比喩ですか?それとも物理的に?」


彼女は黒い笑顔で答えた。


「さあね」


なんてことだ。こんなにかわいい乙女がその白き肢体を不浄なる血で赤く染めるだなんて、あってはならぬ。とはいえ、まずは自分の身を守らねば。こんな危険思想の持ち主の近くにいては危ない。


「ししししかし、僕はその忌むべき、りあじうという怪異とは程遠い存在でして、十七年生きて彼女がいたこともなく、女性のメルアドは母しか知りませぬ」


言ってて悲しくなってきた。金縛り状態でなければぷるぷる震えて地に膝小僧をくっつけてしまっていただろう。


「そう!私の妖怪レーダーによると、この街で一番リア充から遠い存在として導き出されたのがあなたなのです!」


「嘘だ!」


モテないとは思っていたけれど、街一番だって? もう彼女どころか女友達もできないレベルじゃないか?


もうお婿に行けない!


「このモテ力ならその可能性は120パーセントの確率で実現しますよ」


冗談じゃないよ!それもう絶対じゃん!ふりきってるよ!


「ちなみに同志のモテ力は5です。ゴミめ」


どうやら僕は子孫を残すことのできない生命としてはこの上なく欠陥品だったらしいですお父様お母様ごめんなさい。


僕の記憶はここで途切れている……



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