ちょっとした日常
客徐々に増え始める。時刻はもう七時。いつの間にか店内は客でごった返していた。ゲンも忙しそうに働いている。そろそろ、を起こしに行こうか。そう思ったとき、トン、トン、トンと階段を下りてくる霞の姿が見えた。
「おーい。こっちー」
「あ、おはよう」
霞が挨拶をする。
「もう大丈夫かい?今ちょうど、起こしに行こうかと思っていたんだ」
「下の方が騒がしかったから。身体の方はもう平気みたい」
「この時刻はお客さんが多いから、ちょっと寝るにはうるさいかもね。それより何か食べる?」
「そうね。ちょっとお腹が空いた」
「ゲーン!」
護はゲンを呼んだ。
「なんだ!今忙しいんだ!」
大声で返してくる。
「注文したいんだけどー!霞は何にするの?」
「私はA定食でも貰おうかな」
「じゃ、僕B定食にしよう。そういうわけでAとB定食一つずつお願ーい!」
護も大声で注文した。ゲンがそばに寄ってくる。
「A、Bだな。少し時間かかるけど、待ってな」
そう言うと厨房に入っていく。
「こんなに繁盛してるところを一人で切り盛りしてるって、凄いよね」
護が霞に言った。
「そうね。でもお世話になってるんだから、護も手伝ったりはするんでしょ?」
「うーん。たまにね。僕も自分の仕事があるから」
「仕事って?まだ、子供なのに・・・」
「あー、そう言えば僕のこと、まだ紹介してなかったね」
護は自分のことを軽く説明した。今、城の方で仕事をしていること。今の姿は仮の姿であり、何故この姿でいるかということ。ここに来たのが一年半ほど前で、それまで旅をしていたことなどである。
「そうなんだ。それじゃ今、何歳なの?」
「ん?確か今年で二十四歳だったと思うよ。あとで本当の姿見せてあげる」
霞はあまり興味はなさそうだった。
「はいお待ち!」
ゲンが料理を運んできた。
「護、あのこと話したか?」
「まだだけど?」
「じゃあ、霞ちゃん。後で話があるから、仕事終わるまで待っててくれるかな?」
「はい」
霞が不思議そうに尋ねてくる。
「あのことって何?」
「それは、あ〜、ご飯食べてからにしよう。もうお腹ぺこぺこだからさ」
護は言葉を濁した。後でゲンがしゃべるだろう。自分はとりあえず目の前の料理を食べたかった。霞も尋ねるのを諦め、二人は黙々と食事を平らげた。