霞の嫉妬
霞は機嫌が悪かった。ずっと頭の中でいらぬ考えが駆け巡っている。護たち一行はレナスの要請に答えモンスター退治に向かっている途中だった。
「何よ護ったら!なんかレナスって人と良い感じになってるうえに、すんなりとモンスター退治を引き受けちゃって。大体私たちはそんな事してる場合じゃないでしょ。プランに行くんじゃなかったの!お金が無いとか何とか言ってるけど、実はあの人と少しでも一緒に居たいだけなんじゃない!?本当にもうっ!」
「霞、何ぶつぶつ言ってるの?」
不思議そうに護は霞の顔を見た。何食わぬ顔。その顔が霞をさらに苛立たせる。
「なんでもない!護には関係ないわよ!」
「そ、そう?」
霞の不機嫌な態度にちょっとビクつきつつ、護は距離を置いて後ろからついていくことにした。
「なぁ、ふっくん」
「なんでしゅか?」
「なんか、霞機嫌悪そうなんだけど、なんで?」
「さぁ、僕にも分からないでしゅね。ただ、霞しゃんはレナスって人と会ってから変になったでしゅよ」
「レナスと?二人の間で何かあったのかな?」
「そういうわけでもないみたいでしゅ」
「うーん。良く分からないね」
ふっくんと二人してなんなんだろうと悩みつつ森の中を進むこと、パズゥーが住処にしている洞穴に辿り着いた。近くに綺麗な小川が流れている。確かにこんな所に住み着かれたらおちおち水も取りにくることはできないだろう。
「さて、さっさと中入って片付けようかね」
護が先に入ったのを見計らい全員が洞穴の中に入っていく。中は暗い。
「護さん、どこにモンスターは居るんですかね。暗くて分からないですよ」
「ん〜、至る所で微弱な気配は感じられるから、結構近くに居るみたい。案外目の前に居たりしてね」
「ちょ!冗談は止めて下さいよ」
楓は少しビクついているようだ。護はそんな楓を見ながらひらひらと手を振り笑っている。
「ま、大丈夫さ。とりあえず、気配の濃い方向に行ってみよう」
護はのんびりと奥に向かっていった。暗闇はどんどん濃くなっていく。
「護さん。そろそろ明かりつけた方が良くないですか?もう何も見えませんよ」
「ん〜、そうだね。じゃ、明かりつけようか。霞〜、火つけてくれない?」
「何で私が?護がつけなよ」
「・・・・・・」
何かいつもと雰囲気の違う霞の態度と言葉に違和感を感じつつ、護は溜め息をついて光を灯した。護の手から光の玉が浮き出てそれを上空に投げる。光が辺りを照らす。しかし、照らし出された光景に護以外全員が驚いた。辿り着いた洞穴の奥は広い空間になっており、その空間
を埋め尽くすかのようにパズゥーが群れていたからだ。
「な、なんですか!この数・・・」
空間上部の一部の穴に位置していた護たちは、上からその異様な光景を眺めている。楓は余りのモンスターの数に少々戸惑っているようだ。
「これだけの数がいたらそりゃ、町も対処できないわな」
あくまで冷静な護に、最初驚いていた霞も冷静になって尋ねてきた。
「で、どうするの?こんな数相手じゃ、剣で突っ込んでいくのは無謀だよ?」
「もちろん魔法を使う」
「でも、これだけの数を倒すならそれ相応の魔法でしょ?洞穴崩れたりしない?私たちが生き埋めになったら意味無いよ?」
「そこで霞の登場です」
「はっ?私?」
「そ。霞にこいつら退治してもらおうと思っていたわけさ」
「ちょっと!何で私なの!!!」
護のいきなりの発言に霞は少々苛立ったらしい。しかし、護は気にせず話を進める。
「この数相手に下手に魔法を唱えれば、もちろん洞穴が崩れる可能性は高くなる。しかしだね。この間のオウガデーモンのときと違い、やつらには弱点がある。それは霞の扱う火の属性だということは先日の事で分かっているよね?この間戦ってみて分かったけど、こいつらは火という火にめっぽう弱い。だから、霞の火の魔法で焼き尽くしてくれれば、洞穴も崩壊しないし、この数でも簡単に倒せる」
「そうかもしれないけど」
「ま、こいつらの弱点が火だって分かった時点で霞に退治を任せるつもりだったし。そういうわけでよろしく」
自分勝手な護のこの発言で霞は完全に頭に血が上ったらしい。
「何で私がやるのよ!!!この話引き受けたの護でしょ!!!」
護に向かって罵声を飛ばす。
「え、だって霞がやった方が簡単で手早いじゃない」
「ふざけないでよ!護はあのレナスとか言う女性と繋がりあるのかもしれないけど、私にしてみたらなんの縁も無いただの他人よ!手を貸してあげる理由もないし、私が仕事をひきうけたわけじゃないんだから!!!」
「いや、でも一応引き受けちゃったし。霞だって手を貸してくれるために一緒に来たんじゃないの?」
「護が何とかすると思ってたのよ!」
「えー、困ったな。レナスには退治してくるって言っちゃったのに。僕、霞の力に期待してたんだけど。これで退治できませんでしたなんていったらレナスに会わす顔なんて無いし」
「そんな事知らない!あんな女の言う事にでれでれと従った護が悪いんでしょ!?自業自得よ!」
「いや、べつにでれでれしたわけじゃ・・・。まぁそこをなんとか。霞、僕の顔に免じてなんとかしてよ」
護は発言の割りに特に緊張感も無いような顔で霞に頼んでいる。それが余計に霞を苛立たせた。
「嫌よ!」
「えー、これで退治できなかったらレナスがっかりするだろうなぁ。町の人も困るだろうし」
「だったら自分で何とかすれば!?」
「うーん。この数を僕一人でか・・・。洞穴じゃきついな。でもレナスの頼みは断れないしなぁ」
なによ!レナスレナスって!そんなにあの女が大事なの!!!
「デスロード使っても良いけど、あれ怖いし。こんな雑魚モンスターに使うのももったいない。かといって眠りの歌系統はあいつら聴覚あんまり無いって書いてあったし効かなさそう。一度出て洞穴ごと吹き飛ばしちゃっても良いけど、そしたら川が汚染されそうだし〜、うーん」
「お兄しゃん。僕冷たいの吹くでしゅか?」
「いや〜、あいつら冷気系統には強いからあんまり効果は期待できないよ。それにさすがにこの数全部を行き渡らせるほどにふっくんも吹けないでしょ?」
「僕、頑張るでしゅよ?」
「ありがとう。でもふっくんは今回良いよ。・・・ねぇ霞」
「何よ!」
「頼むから退治してくれない?」
「嫌!」
あくまで霞は嫌だと言い切り全く協力する気は無いようだ。
「霞、これは僕たちのためじゃないんだ」
真剣な眼差しで霞を見る
「レナスたちが困ってる。レナスたちのためにどうしてもやらなきゃならないことなんだ」
またレナス!?レナスレナスって、本当にぃー!
どうやら完全に霞は切れたらしい。指輪から火が吹き出した。
「おっ?協力してくれるの?」
その火を見て少し期待をした護だったが、なにやら様子がおかしい。
「絶対嫌!!!」
霞の言葉と裏腹に指輪から吹き出した火は勢いを増し辺り一面をうねる様に飛び交い始めた。その炎はまるで、まわりの存在を全て敵と判断したかのようにその場に居る全員に牙を向く。
「きゃ!ちょ、ちょっとお姉さま!私にまで火が飛んできてるんですけど」
「か、霞。やりすぎだって!もうちょっと抑えて・・・」
「護なんか知らない!!!」
ブワー!っと炎が霞を中心に勢力を増し、既に護達の空間は炎に包まれていた。
「な、なんか知らないけどやばいな・・・。楓、避難するよ」
「え、あ、はい!」
護は楓の手を引き、頭に乗っているふっくんを抑えながら急いでその場を逃げ出した。背後では炎がさらに勢いを増している。
「なんで、霞いきなり怒ったの?」
「分かりませんよ!」
追って来る炎の渦から必死に逃げながら三人はなんとか洞穴の外へと避難した。振り返ると洞穴の空気口という空気口から炎が燃え盛り噴出している。その余りの熱さに川も沸騰し始めていた。
「はぁーはぁー。これじゃ、洞穴の中にいた生き物はモンスターに限らず燃え尽きたな・・・」
「私たちも危なかったですね・・・。お姉さまやりすぎですよ」
しばし呆然と洞穴を見つめ、炎が収まるのを待つ。数分後、洞穴の入り口に人影が現れた。霞である。
「え、えーと霞。お疲れ様。モンスターは?・・・って聞くまでも無いか」
「護、満足!?」
「あ、はい!これでレナスとの約束は果たせたし、お金も入るから旅を続けられます。ありがとうございます」
凄い冷たい視線で見られ、思わず礼儀正しく返事をしてしまった。
「え、あー、とりあえず、退治したし、水汲んで町に戻って報告しに行こう」
なにやら焦りつつ護は水を汲み、さっさと町の方に歩いていった。その後ろから霞は無言でついてきたのだった。




