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思い出

「驚きましたぁ。こんなところで護さんに会えるなんて」


 町の人々に水を渡し終わって一段落突いた二人は町の中を歩いていた。


「俺も驚いたよ。レナスはアンソニーと一緒にゲルニカの復興を手伝うって言ってあの悲惨な場に残ってただろ。噂じゃ、敵味方関係なくイシュタールの人々にも治癒を施していたって話じゃないか。俺はまだてっきりあそこにいるとばかり思ってた」


「私だってそうですよ。護さんの噂を聞いてる限りじゃ、オルビスに居るって聞いていたのになんでこんなところにいるんです〜?」


「俺がオルビスに居る?そんな噂どこから聞いたんだ?」


「いえ、ロージーに寄ったときたまたまそう耳にしたんですぅ」


「ふーん。俺は今からそこに行こうとしているんだけどね」


「そうなんですか」


「アンソニーは元気にしてるか?」


「ええ、あれから約四年。ようやく国の復興も終わり元気に暮らしてますよぉ」


「あれから四年も経つのか・・・。月日の経つのは早いな。俺は今でもあのときのことが昨日のことのように感じられるよ」


 護は空を見上げ過去を思い出していた。


「そういえば、何でレナスはこんなところに居るんだ?」


「ゲルニカの復興が終わってから苦しんでる人々を救うために旅をしてたんです〜。そんなときにたまたまここに立ち寄ったんですよ」


「そうか」


 二人はしばし無言のまま町を歩くと目にとまったベンチに腰掛けることにした。しばらくうつむいていた護がまた徐に話を始めた。


「・・・あのときのことは思い出したくない過去だけど忘れたくはない思い出だな」


「純さんのことですか?」


「・・・ああ」


 しばしの沈黙。


「今でもあいつの死が目に焼き付いて離れないんだ・・・」


「・・・・・・」


「あいつは俺に大切なことを教えてくれた。出来ることなら今も共に・・・」


「純さんのことは私も忘れられません。良い人でした。でも・・・もう過ぎたこと。過去は戻りません」


「分かってる。頭では分かってても心では割り切れないんだ」


「護さん、まだ傷を引きずっているんですね」


 まるで自分の事のようにレナスもまた辛そうな表情をしていた。


「あのときほど、己の弱さを嘆いたことはなかったよ」


「護さんは十分強かったじゃないですか。護さんのおかげで戦は終わったんですよ?」


「俺の中では戦いは終わっていない。あれからもずっと修行して強くなろうとした。もう二度と大切なものを失わないために」


「・・・護さん、変わりましたね」


 レナスが励ますかのようにクスっと笑った。護も微笑み返す。


「変わらなきゃならなかったんだ。でも、強さを求めていて気がついたよ」


「何にですか?」


「俺は強くなろうとすればするほど、弱くなってるって事にさ。あれから俺は人の血を見るのが怖くなった。人間相手じゃ、よほどのことがない限り剣を抜くことはできない。どれだけ稽古で剣をつきつけても、実戦じゃもう人は斬れない、殺せないよ。それじゃ駄目だと思ってがむしゃらにまた稽古してるけど、やっぱり・・・どんなに強くなっても抜けない剣に何の意味がある?」


「それでいいんじゃないんですか?もう人間同士の争いなんて起きない方が良いんです。殺めるのはよくないことですよぉ」


「そうなんだけどね。そうは言うもののやっぱり争いはどこかで今も起こってるし、実際俺はあれから二度、人の命を奪ってる。あのときは大切なものを守るためと割り切ったつもりだったけど・・・・・・俺は昔の自分に戻るのを恐れているんだ。また無感情に人を平気で殺める人殺しになるんじゃないかってさ」


「大丈夫ですよ。今の護さんから昔のような近寄るものを全部斬り裂いてしまうような感じはしませんから」


「・・・今、この世界で問題が起こっていることを知ってるか?」


「いえ」


「ある人が言ったよ。その問題を解決したかったら昔の自分に戻れってさ。正直俺は戻りたくない。でもその甘さが命取りになることも分かっているんだ」


「・・・ジレンマですか・・・」


「俺はもう出来ることなら争いはしたくない。でも争わなきゃならない時は必ずやってくるし、そのとき自我を保っていられるかが怖いんだよ。今の自分を失ったら、もう二度と戻れない気がする。自分の中で闇の部分が強くなってるのが分かるんだ。そういう訓練をしてきたせいもあるかもしれないけど、問題は闇に飲まれることなくそれに打ち勝たなきゃならないのに勝てない事さ。自我を保ちつつ非常になることがこんなにも難しいとは思わなかった」


「・・・・・・」


「風神護という自分が漆黒の疾風という自分に負けそうなんだよ」


「難しいですね」


 護は手を組み下を向いたままだった。レナスは優しそうにその姿を見つめている。その光景を良く思わない目で見ている輩が居た。


「ちょっと何!あの良い雰囲気は!?」


「お姉さま、なにそんな隠れてこそこそ見てるんですか?」


「だって!なんか護、あのレナスって言う人と出会ってから変だし二人っきりにしてくれとか言って・・・昔からの知り合いだとか言ってたけどもしかして恋人とか!?」


「ん〜、そうかもしれませんね。良い雰囲気ですし」


「ちょっと楓!なに肯定してるのよ!」


「だってぇ〜」


「むむむ、とにかく二人が変な感じにならないように観察よ!」


「お姉さまの方こそ変ですよ?」


 霞はむっとしながら護の姿を見つめ、心の中で怒っていた。


「何よ護!私の時はあんな風に話してくれたこと無いくせに!」


 レナスはこの視線に気がついていたようだ。ふと話を振ってくる。


「あの、護さん」


「ん?」


「さっきからあそこでこちらを見ている方々は誰ですか?」


「あ〜あれ、俺の今の仲間。なにやってんだあいつら?」


「仲間ですか。護さんにも仲間が出来たんですね」


「ああ、大切な奴らだよ」


「ふふふ、やっぱり護さん変わりましたよ。昔の護さんからそんな言葉が聞けるなんて思いませんでしたから」


「そうか〜?あのときレナスは気を失ってたけど、俺はちゃんとおまえらのこと大切な仲間って言い放ってた気がするけど。あの時本気で怒りを覚えたから」


「護さん、そういったことは私たちにちゃんと仲間って言ってくれないと分かりませんよ?あのとき全然仲間意識持ってなさそうに振る舞ってましたから。でも行動でなんとなく純さんのことは仲間として意識してるって気はしてましたけど。私のこともそう思ってくれてたんですね」


 レナスは嬉しそうだった。


「もちろん。あいつと出会って俺は俺を取り戻せたんだ。でなかったら今も魔剣に魂を奪われたままだったさ」


「魔剣?」


「俺だってガキの時からあんな殺人鬼的な奴だった訳じゃないんだぞ?一応理由があるんだから」


 護は半分笑って半分寂しそうにした表情をしてしゃべっていた。


「ま、俺が心が安定しないのは自分の力量をわきまえず焦って力を求めすぎた結果なんだけどね。自業自得さ」


「より強い力に飲み込まれたって事ですか?」


「そういうこと。でもそれは言い訳でしかない。俺が犯した罪は決して消えないんだから」


「護さん。罪だなんて言って自分を追いつめないでください。誰にだってどうしようもないときはありますよ。それに、どんな形であれあの地獄のような戦争時代に終止符を打ったのは護さんなんですから。もし護さんがいなかったら今も戦は続いてたかもしれないんですよ」


「そんなことはないさ。いつかは終わってた」


「それでも、早く終わらせることでたくさんの犠牲を少なくした功績は凄いですよ〜。あのまま続いてたらどれだけの犠牲が出ていたか。考えただけで辛くなります」


「相変わらず優しいな、レナスは」


「私は苦しんでる人を救いたいだけなんです。苦しんでる人を見ていたくないんですよ〜」


 レナスは笑いながら護の肩を叩いていた。それを見てまたむっとしてる人も居たりする。


「あー!なに気安く触ってるのよ!ちょっと近づきすぎだって!離れなさい!!!」


「お姉さま、何さっきからひとりで怒ってるんですか?」


 護とレナスを見て気が気じゃない霞は離れたところから一人ぶつぶつを文句を言っている。楓とふっくんは不思議そうにその姿を見ていた。


「霞しゃん・・・変でしゅ」


 周りから見たら確かに霞の態度は変だっただろう。不審者に間違えられても不思議はない。なにやら霞は離れろ〜とか良いながら念を送るような動作をしていたからだ。


「あ、あんなに見つめ合っちゃって!駄目よ護!そんな目で相手見ちゃ!」


「お、お姉さま落ち着いてください」


「だってぇ・・・あ!ふっくんも念を送ってよ。あの二人が離れるように」


「僕がでしゅか?」


「うん!」


「分かったでしゅ。離れるでしゅよ〜」


 健気にもふっくんは霞の言われたとおり一緒になって念を送り始めた。それが功を奏したのかは分からないが二人に進展があったようだ。


「ところで護さん。実はお願いがあるんですけど」


「何?」


「実は、モンスターに襲われてから水を引いてた貯水池が汚染されて使い物にならないんです」


「それは聞いている」


「それで少し離れた近場の池まで取りに行こうとしたんですけど、そこの途中にそのモンスターが巣を作っちゃったらしくて近づけなくなったんです。それで、もっと離れた川まで水をくみに行かなきゃならなくなって。でもそれじゃ、時間がかかりすぎるんです。このままじゃ、この町の人々は水不足にずっと悩むことになります。モンスターにも怯えなきゃならないし」


「で、退治してくれと」


「ええ、この町でモンスターに対抗できる力を持った人はいませんから」


「うーん、別に退治する分には良いんだけど。こっちのお願いも聞いてくれる?」


「なんですか?」


「実は、俺たちプランまで行かなきゃならないんだけど、お金が無くなっちゃって旅が続けられそうにないんだ。そこでなんとか金銭を用立てて欲しいんだけど」


「あ、それなら大丈夫ですよ。この町で直ぐにモンスターを賞金首として登録してあるので倒せばその分お金が入ります」


「そいつは好都合」


「それだけこの町の人々もモンスターの恐怖に怯えているって事です」


「じゃ、その依頼引き受けよう」


「ありがとうございます」


「じゃあ、直ぐにでも退治してくるよ。ついでに水も確保してくるわ」


「お願いします」


「レナスと話が出来て良かった。また、モンスターを退治し終わったら話をさせてくれ」


「ええ良いですよ」


「それじゃあ」


 立ち上がって去っていこうとする護にレナスが一声掛けた。


「護さん」


「ん?」


「過去がどうであれ、自分の信じた道を進んでください。私たちにとって貴方は英雄なんですから」


「ああ」


 軽く頷くと護は霞達の方に向かっていった。


あとがきだみゅ〜ん。

レナスとの再会でちょっと護の今の心境が少し現れてきたようですね。本当はもっと突き詰めた思い出話にしようかと思ったのですが、護の相談役としてレナスを位置づけた方が良いかと思い書いてみました。この後も護の心境等々が出てくるかも?

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