再会
次なる町まで十日程。旅は順調に進みこれといって問題はないように思われた。途中途中で野宿をし、料理はもちろん護がする。買い込んだ食材はなんとか次の町までは持ちそうで、ただ気がかりなことと言ったらお金のことくらいだった。そして、明日にも次の町に着けそうだと言うとき、順調な旅に変わったことが起きた。最初に話を振ったのは霞だった。
「ねぇ気づいてる?」
「何に?」
「またとぼけちゃって。さっきからなんか変な視線を感じてるでしょ?」
「あ、霞も気づいてたんだ」
「そりゃそうよ。こんなにも殺気立ててるんだから気づかない方がおかしいって」
「でも、視線を感じてからこれといって何かをしてくるわけじゃないみたいだけど。僕が視線を感じ始めてからかなり経つよ。最初僕も気にはしてたんだけど、何もしてこないから放置してたんだ」
「モンスターかな?」
「ん〜、どうだろう。気になる?」
「そりゃそうよ。なんか見られているって思ったら気味が悪いもの」
そんなやりとりがなされているとは露知らず楓はのんびりと前を歩いていた。楓は視線には気づいていないらしい。
「それで霞、どうするの?」
「どうするって言ったって、どうしよう」
「別にあっちは攻撃を仕掛けてくるってわけでもなさそうだし、ほっとけばいいんじゃない?」
「でも、突然襲いかかられても嫌じゃない」
「それもそうか。じゃあ、とりあえず先手打っとく?」
「そうして欲しいかな」
「了解」
護は懐からちっちゃなナイフを何気なく取り出すと、いきなり視線を送ってきている森の方に投げつけた。森の方から「ギャッ」という声が聞こえる。
「え、え、何ですか今の?」
楓は状況が飲み込めていないらしく突然聞こえた叫び声にびっくりしている。
「うーん、ちょっとねぇ」
護は特に気にもせずのんびりと答えた。しかし次の瞬間、目の前にモンスターが姿を現した。肩にナイフが刺さっている。モンスターは傷つけられて恨めしそうにこちらを見ていた。
「わ!モンスターですよ!」
楓は目の前にモンスターが出てきたものだから驚いて霞の後ろに急いで隠れた。反面霞も護も特に緊張感もなくモンスターと対峙している。
「霞、このモンスター見たことないんだけど知ってる?」
「護も知らないの?私も見たことないよ?」
「じゃあ、ちょっとモンスター辞典で調べてみるわ」
モンスターを前にしても特に慌てることなく、ポケットからモンスター辞典を取り出すと護は調べ始めた。その間にもモンスターは徐々に近づいてくる。
「なんか、リザードマンに似てる気がするけど小柄だし羽なんか生えてるから違うなぁ」
「ちょ、ちょっと護さん!何落ち着いているんですか!なんとかしてくださいよ!」
「えーっと、ちょっと待って」
慌てる楓に対し相変わらずマイペースの護。霞もこれといって慌てるわけでも剣を抜くわけでもなく一緒になってモンスター辞典を見ていた。
「あ、護これじゃない?」
「どれ?」
「ほらこれ」
「あー、ぽいね。それっぽいわ。でもおかしくない。ここに載ってるパズゥーってモンスター、生息地南大陸の雪月洞って言う洞窟にのみ生息って書いてあるよ?」
「あ、本当だ。何でこんなところにいるのかな?」
「さぁ?」
「ちょっと何護さんもお姉さまも余裕にしてるんですか!ほら、あっちはさっきからじわりじわりと近づいてきてるじゃないですか!」
確かに楓の言うように、パズゥーは護達にどんどん近づいて来ている。それでもさして気にもとめず護はモンスター辞典を読んでいた。
「えーっと何々。パズゥーは一体で現れることはなく、集団で生活をする。臆病な性格をしていて普段は滅多に姿を現さないが、一度自分または仲間に危害が及ぶと獰猛な性格へと豹変し身の回りのものを破壊して回り、その破壊衝動が収まるまで攻撃を止めることはない。一体の力はそれほど高くないがその集団性に非常に問題あり、だそうだよ」
「へー、でも、一体しか現れてないね?」
「そうだよね。やっぱり違うモンスターなのかな?」
「うーん。見る限りじゃこのモンスターと同じだと思うけど」
霞と護はモンスター辞典とモンスターを見比べながらどうなんだろうと頭を悩ませている。そんな中パズゥーは襲いかかってきた。
「キャー!」
楓は必死になって避けるのに対し、護も霞も目を向けることもなくさっと避け会話を続ける。
「攻撃の仕方もなんか書いてあるとおり、羽で一旦飛び上がって勢いつけて爪で切り裂くって感じだけど」
「じゃあ、やっぱり同じモンスターなんじゃない?」
「でも何でこんなところにいるのかね?」
「さぁ」
二人は首を傾げ不思議がっているのに対し、楓はキャーキャー言いながら攻撃をなんとか交わしている。
「ちょっとぉ!しゃべってないでなんとかしてくださいよ!」
「あ、はいはい。えーっと弱点はと、あー、火に弱いんだって。霞」
「分かった」
護に言われ霞は魔法を唱える。
「炎よ、一筋の縄となりて相手を捕縛し燃やせ。フレイムウィップ」
霞の言葉に呼応し炎がパズゥーの周りに帯状に現れるとそのまま縛り上げパズゥーを燃やす。バズゥーは断末魔をあげながらその場に倒れ炭へと変わっていった。
「ふぅ〜よかったぁ」
楓はようやく安心したようで心から安堵のため息をつく。
「もう、お姉さまも護さんももっと緊張感持って下さいよ。私すごく怖かったんだから」
「いやだってねぇ」
「うん。殺気も対したことなかったし、そこまで気にする相手でもないかなぁなんて思って」
霞と護は顔を見合わせ、いかにも何を気にすることがあったのやらという感じでしゃべっている。ふっくんも別に気にもしていないようで護の頭の上に乗り寝ていた。そんな二人を見て楓はお願いしますよと言いながら、パズゥーの居た方を見た。するとそこにまた紙が落ちていることに気がついた。
「あれ、また紙が落ちてる。なんだろうこれ?」
楓は紙を拾い上げるとそれを見てみると長方形の紙で真ん中に魔法陣らしきものが描かれている。
「護さん、これなんですか?前ラゼルに行く途中に出会ったモンスターの残骸の後にも出てきたんですけど」
「これは・・・」
護は訝しげな顔をしてその紙、いや正確には札と言った方が良いかもしれないものを受け取った。
「楓、ラゼルに行く途中のモンスターにも出てきたっていったよね?」
「はい。それがどうかしたんですか?」
護はその札に手をかざし魔力の波長を探ってみる。感じとしては以前エンシフェルムで問題になったグリフォンの人形と同じ波長をしていた。しかし、ヤーウェの連中の魔力の波長とは違う属性のようだ。ということは、やはりあの件と言いこの札と言い別の魔導士が絡んでいると言うことか?あれからグリフォンの件とヤーウェの件を調べてみたが関連性が無かったことを考えるとそう結論づけることになる。
最近この安全な街道付近にもモンスターが頻繁に現れるようになったことと言い何か関係がありそうだな。また頭の痛い問題が起こりそうだと護は思っていた。
「まあ、考えていてもしょうがないや。とりあえずさっさと次の町、リリムに行こう」
そうしてパーティは次なる町リリムへと向かったのである。リリムの町に着いた早々パーティー一同は唖然とした。町が荒れ果て家々は倒壊し町の人々が道ばたに倒れている。リリムの町は町として機能をしていなかったのである。
「ちょ、どういうこと?まるで以前のラゼルみたいじゃない」
「そうだね」
「な、何があったんでしょう?」
霞も楓も戸惑いを隠せないようだった。護は眉をひそめて光景を見ている。それもそのはず、この街道沿いの町はモンスターなどの居ない危険の少ない場所に建てられている。また大国等とも離れているためこれと言って内戦などの戦に巻き込まれることもないし、戦争時代が終わってからここいらの地域で戦らしい戦があった話など聞いたことがなかった。それなのにこの状況、一体何があったのか?
「うぅ、み、水をくれ」
倒れていた町人が護達の姿に気づき、手をさしのべてくる。楓は急いで持っていた水を差し出した。
「一体何があったんですか?」
「はぁはぁ、も、モンスターだ。三日程前突然モンスターの集団がやってきて町を襲いやがった。そのあまりの数にこちらも対応をしようがなくて。ゴクッゴクッ!ふぃ〜っと、水ありがとう。で、ここはちっちゃな町だ。正規の軍隊が居るわけでもなく数人の自衛団が居ただけでさ。とてもじゃないが敵わなかったのさ」
「お兄しゃん。先日のモンスターの臭いが残っているでしゅよ」
ふっくんは目を瞑り依然護の頭の上でとぐろを巻きつつ臭いの痕跡を教えてくれた。
「すみません。そのモンスターってこんな奴じゃなかったですか?」
護はモンスター辞典を見せるとその人は無言のまま頷いた。
「じゃあ、先日相手したのはこの町を襲った時のはぐれた奴か」
「でも護、なんでこんなところに現れたんだろうね?だって、南大陸にしか生息していないはずでしょ?」
「あの倒した後に出てきた魔法札に問題ありってところかな」
そんなことを霞に説明しつつ、この倒れていた人と町を見て感じた違和感をこの人に聞いてみた。
「ところで、貴方モンスターに襲われたんですよね」
「ああ」
「他の倒れている人たちもそうですよね?」
「そうだが、それがどうした?」
「家が倒壊するほどの攻撃を受けていた割に、町の人々、貴方もそうですが外傷がありませんね。比較的元気なようですし、町全体に血の臭いもそんなにしません。死傷者らしき人も見あたりませんし、何故ですか?」
「ああ、それは女神様のおかげさ」
「女神様?」
「そう、モンスターに襲われた日、たまたまこの町に訪れた方が居てね。その方が瀕死の状態だった俺達を治癒の力で癒してくれたのさ。もしその方がいらっしゃらなかったら、この町は全滅していた」
「へ〜、じゃあ、なんで貴方も含め他の人は倒れているんですか?」
「水不足だよ。モンスターに襲われたときに近場の貯水池から引いていた水のルートが破壊され遮断したんだ。挙げ句、その貯水池も汚染されて使い物にならなくなってね。だから今動けるもの達は、もう少し離れた川まで水を取りに行っているところだ。それでも足りなくてね」
「なるほど」
護はようやく理解した。倒れている人に外傷が無いこと、血の臭いがしないこと、すべてはその女神様のおかげという奴なのだ。
「すみませんが、その女神様って方に会うことはできますか?」
「ああ、もう少ししたら共に水を取りに行ってらしたのが戻っていらっしゃると思うから待っていれば会えると思う」
「そうですか。じゃあその間、僕たちも水を持ってますので皆さんに配っていきますね」
「すまないな」
「いえいえ」
そう言って護達は倒れている人のところに手分けして行くと持っていた水を渡していった。皆相当喉が渇いていたらしく、我先にと言う勢いで飲んでいく。トリーシャの町で水を買い貯めしておいた事と、旅の間プラン対策による水の節約生活をしていたのは正解だったようだ。しかし、それでも町の人々全員に行き渡るほどの量は持っていなかった。あっという間に護達が持っていた水もなくなってしまう。
「護さーん。水無くなっちゃいましたよぉ!」
「護、こっちも無くなった」
「やっぱり足りないか。困ったなぁ。早く水を取りに行った人たちが戻ってこないと・・・」
護が困った表情をした矢先、町の森へと向かう入り口の方から声が聞こえた。
「皆さーん!お水持ってきましたよぅ〜」
その声に呼応して町の人々がそちらの方に駆け寄っていく。
「やっときたか。なかなかナイスなタイミング」
護達もその声の方に向かっていった。そこには群がる町の人々と水を配っている取りに行った者達が居てその中に一際優しく皆に水を配っている女性がちらっと目に映った。周りから女神様と呼ばれているところを聞く限りこの人が治癒をかけた女性らしい。
「皆さーん。他に怪我している人とか、元気のない人は居ませんか〜?」
「大丈夫です!女神様ぁ!」
「遠慮無く言ってくださいねぇ〜」
「ありがたやありがたや」
そんなやりとりを聞いている時、ふと護はその声に聞き覚えがあるような気がした。
「どうしたの護?」
首を傾げている護に不思議そうに霞は訪ねてくる。
「この声・・・まさか!?」
「護!?」
護は群がっている町の人々の中に割って入り、水を渡している女神様と呼ばれる女性の前に出た。霞達も後から着いてくる。
「やっぱり!」
「あら、そんなに慌てなくてもお水はたくさん持ってきましたよぉ。順番に渡していきますから〜」
「レナスじゃないか!」
「はい?私のことご存じなんですか?」
「護、知り合い?」
後ろからやっと着いてきた霞が聞いてくるが、護がそれに答えず目の前の女性にだけ話をしている。
「俺の事忘れたのか!?あ!そうか、レナスはこの姿見たこと無かったんだっけ」
護は子供の姿から元の姿に戻った。それを見てレナスと呼ばれた人もこちらに気づいたらしい
「あー!護さん!?」
「久しぶりだな」
レナスはしばし呆然と護を見ていた。




