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異変

「トリーシャの町までもう少しのはずなんだけど・・・」


 護達一行は道を歩きながらそろそろ着くであろう町、トリーシャに向かっていた。トリーシャの町はエンシフェルム大陸の北部の街道沿いにある小さな町である。主に旅人の中間地点として休息所と使われ旅人が多く集まると同時にのどかな町だ。辺りは夕暮れ暗い夜へと変わろうとしていた。

 しばらくそのまま歩く事、正面にうっすらとした明かりが見えてくる。


「あー、やっと次の町に着いたぁ〜。私、魔力を注ぐのに集中しすぎてもうへとへとです。温かいベッドで早く休みたいですよぅ」


「すみましぇん楓しゃん、努力の割りに僕何も感じられなかったでしゅけど・・・」


 護の頭に乗っているふっくんは申し訳なさそうに謝った。


「良いのよふっくん。修行はこれからだもの!気ーにしない、気にしない」


 楓はやっと休める事を思うと、しきりに霞を引っ張って町へと急がせる。霞は引っ張られるまま早歩きで町の方へと向かっていく。護は特に気にもせずふっくんを頭に乗せ後ろから歩いていた。ただ、ちょっと気になる事がある。


「あれ〜」


「どうしたんでしゅかお兄しゃん?」


「いや、トリーシャの町ってあんなに薄暗かったっけと思って。なんか霧が掛かったような・・・?何か明かりが見えずらいんだよね」


「そうなんでしゅか?」


「うん。何かあるのかな?」


「護さ〜ん!何しているんですか!早く行きましょうよ!!!」


 訝しげに思っている護に楓が元気の良い声で呼びかけてきた。護はその呼びかけに応えてちょっと疑問に思いながらも早足で後を追いかける。数十分後、町の入り口に到着。


「と〜ちゃ〜くっ!」


 町の入り口でやたらテンションの高い楓に対し、無理やり引っ張っていかれた霞は反面テンションが低い。


「楓・・・何もそんなに急がなくても町は逃げないわよ」


「だって、ずっと歩きっぱなしだったんですよ!早く休みたいじゃないですか!」


「本当にもう」


「やっぱり」


 少し遅れて入り口に着いた護は開口一番不思議に思っていたことを口にした。


「護、やっぱりって何が?」


「いや、トリーシャの町が霧に包まれているなぁと思って」


「それがどうかしたの?霧ぐらい何処でだって発生するもんじゃない」


「そうなんだけど、この町でこの時期にここまで濃い霧が発生するなんて聞いたこと無いよ。この霧、濃すぎない?」


「うーん。私、ラゼルと交流の無い国や町については良く知らないから分からない。まぁ良いじゃない。霧なんて自然に発生するものなんだし、楓じゃないけど私も疲れたよ。なんか凄く眠い」


「そうだね。僕もちょっと疲れたかな。町について安心したせいかもしれないけどやたら眠くなってきた」


 霞と護は瞼を重そうにしてふらふらと町の中に入っていく。楓とふっくんは元気なようで濃い霧の中を宿はどこかときょろきょろ見渡している。護と霞は今にも寝てしまいそうで辺りを見渡そうともせず、ぼーっとした状態で歩いていた。もうちょっとで意識が飛びそうになると言う所で楓の声に起こされる。


「お姉さま!宿ありましたよー!!!」


「え、ああ、あったの。良かった。私もう駄目。直ぐ寝たい」


「僕も〜」


 二人はふらりふらりと宿屋の中に入っていく。受付のところにくると宿の店主だろうか、机に覆いかぶさりながら寝ている人が居た。


「あの〜、私達泊まりたいんですけど」


 楓がその寝ている人に声を掛ける。しかし一向に起きる気配は無い。


「もしも〜し!」


「良いじゃん楓。寝てるなら無理に起こすこと無いって。メモでも置いておいて空いてる部屋で勝手に寝ようよ。お金は後から払えば良いし。ふぁ〜、もう眠くて辛い」


 護はさっとメモを残すと勝手に空いている部屋の中に入っていってしまった。霞も眠気に勝てず護に習って勝手に部屋に入っていく。


「もう、良いのかなそんな勝手なことして。大体夕食だって食べて無いって言うのに。もしもし!良いんですか!?私達好きに使いますよ!?」


 楓は寝ている人に必死に声を掛けるがやはり起きる気配は無い。腰に手を当てため息をつくと自分も寝ようかと思ったが、お腹が空いていたので何処かに食べに行く事にした。しかしその考えも直ぐに改められる事になる。


「あれぇ、外に出たのは良いけど、何?夜で暗くなったせいかな?さっきより霧が濃いような気がする。これじゃあ、食べに行くどころか前も見えないじゃない。ここから離れたら絶対戻って来れなくて迷子になっちゃう。はぁ〜しょうがない。今日は我慢して寝ようっと。お姉さまも寝ちゃったし」


 外が余りに霧が濃く夜のせいもあって行動が出来ないと判断した楓は結局夕食を我慢して寝る事にした。幸いにして部屋は人数分空いているようだ。自分としては霞と一緒に寝たいところだが、寝相が悪いとまた霞に怒られる様な気がしたので別の部屋で寝ることにする。


 そして次の日の朝、楓はいつものように目が覚めた。窓から外を見てみると霧はまだ掛かっているようで薄暗い。町も朝だというのに静まり返り人の気配が無かった。部屋から出ると霞のもとに行ってみる。


「お姉さま、おはようございます!楓ですけど、起きてらっしゃいますかぁ?」


 部屋の外から元気良く声を掛けるが返事が無い。護ならともかく霞だったら既に起きていても良いはずの時間。不思議に思いドアノブに手をかけた。鍵は掛かっていない。悪い気はしたが楓は失礼しますと言いながら中に入って行った。部屋の中では霞が寝ている。楓は傍に近寄っていった。


「はぁ〜、お姉さまの寝顔本当に綺麗。まるでお人形さんみたい」


 楓はほぅっと感嘆の息を吐きながら霞の寝顔をじっくりと見ている。その顔に思わず手を伸ばそうとした時、突然後ろから声を掛けられドキッとっした。


「楓しゃん。おはようございますでしゅ。何しているんでしゅか?」


「え!あ!ふっくん、おはよう!ううんなんでもないのよ!そんな私お姉さまに触ろうなんて全然して無いんだから!」


 ワタワタと手を振り楓は戸惑っているようだ。ふっくんは良く分からないと言った感じでこちらを見ている。


「?」


「え、えーと!ふ、ふっくん早いね!」


「そうでしゅか?いつもと同じ時間に起きているつもりでしゅけど」


「あ、そ、そうだね。護さんはどうしたの?」


「お兄しゃんはまだ寝てましゅよ。起こそうとしたんでしゅけど起きる気配が全然無いから楓しゃんの所に行こうとしてたところでしゅ」


「そっか。お姉さまもまだ寝てるし、ふっくんお腹空いてない?」


「ちょっと空いたでしゅね。昨日の夕食食べ損ねていましゅから」


「だったら、二人で食べに行かない?私もお腹空いてるの」


「霞しゃんは起きないんでしゅか?」


「うん。お姉さまはお疲れのようだからそっとして置いてあげよう」


「分かったでしゅ。じゃあ、何処かに食べに行くでしゅね」


 そうして二人は町に出る事にした。受付では昨日寝ていた人が同じ格好でまだ寝ている。一応声を掛けてみるが起きる気配が無いので、気にせず宿を出た。


「なんか、店の人もまだ寝てたね。そんなに疲れてたのかな?」


「そうだと思うでしゅよ。何かお店をやるというのは大変なんでしゅ。お兄しゃんの話じゃ、ここは旅人が朝夜問わずに毎日の様にやってくるって言ってたでしゅから」


「そっか。それにしても霧濃いね。全然前が見えないよ。数メートル先がぼんやり見える程度じゃない?」


「そうでしゅね。そんなことより旅人で賑わう町だってお兄しゃん言ってたでしゅけど、その割には人っ子一人いないでしゅね」


「うん。ま、朝だし、どこかの食事処でも入ればきっと人がいるんだよ。さ、食べる所探そう」


「はいでしゅ」


 楓とふっくんは霧の中を歩き食べる店を探した。探している途中で道端で寝ている人が居て、突然視界に入ってきたものだから驚きもしたがとりとめて気にもせずまた店を探す。旅をしていた時こういう路上で寝ている人も見かけたことがあったので気にならなかったのだ。


「あ!あれ食事のお店じゃない!?」


 楓の指差した方向にナイフとフォークがクロスして描かれている看板があった。二人はその看板のもとに行くと店の前にはメニューの書かれた看板も置いてある。やはり食事できる店のようだ。


「宿の近くにあって良かったね。霧が濃いから遠かったら迷子になる所だったよ」


「そうでしゅね」


「良し!じゃあ入ろうか。すみませーん!」


 楓は店の中に入っていった。しかし中に入ってびっくりする。カウンターやテーブルに居る客とおぼしき人たちが全員机に寄りかかり倒れているのだ。店の通路のど真ん中で倒れている人もいる。


「え?ち、ちょっと大丈夫ですか!」


 楓は近くの人に声を掛けてみた。反応は無く返ってくるのはすやすやと言う寝息だけだ。ふっくんも周りの人たちに声を掛けてまわったがどれも反応は同じだった。


「楓しゃん。なんか、皆しゃん寝てるみたいでしゅよ。厨房の方も行ってみたんでしゅけど、みんな寝てましゅた」


「嘘ー!」


 楓はしばし呆然とすると突然店を出て近場の家々にも入っていく。どこも案の定寝ている人たちしか居ない。


「ど、どういうこと?」


「楓しゃん。一度宿に戻ってお兄しゃん達を起こして相談した方が良いんじゃないでしゅか?」


「そ、そうね。じゃあ、戻りましょう!」


 楓とふっくんは急いで宿に戻った。二人は手分けして護と霞を起こしに掛かる。


「お姉さま起きてください!お姉さま!!!」


 楓は必死に揺り動かして霞を起こそうとするが一向に目を覚まさない。まるで死んだように眠っている。


「お姉さまっ!!!」


「駄目でしゅね。お兄しゃんも起きる気配が無いでしゅ」


 護を起こしに行っていたふっくんが楓の元にやってきた。


「ど、どうなってるの?」


「今の状況と情報から判断できるのは、どうやらこの町で起きている人っていうのは僕と楓しゃんだけのようでしゅね」


「どうしてこんなことになってるの?」


「分からないでしゅけど、もしかしたらこの霧が原因なのかもしれないでしゅ。お兄しゃん、この霧おかしいって言ってましゅたから」


「じ、じゃあ、なんで私たちだけ起きてられるの?」


「不明でしゅね。情報が足りないでしゅ」


「え、えっと、じゃあ、この霧が原因だとしたらこの霧を何とかしない限り皆目を覚まさないって事?」


「たぶんでしゅ」


「困るよぅ〜。町の人はともかくお姉さままで起きないのは困るぅ〜」


「か、楓しゃん。町の人はともかくって・・・。皆起きないと困るんじゃないでしゅか?」


「私はお姉さまとふっくんさえ無事なら良いの」


「・・・・・・」


 楓の問題発言に少々言葉を失ったふっくんだったが、気を取り直してとにかく現状を打破するためになんとかしないとと頭をめぐらした。


「とりあえずでしゅねぇ。本当に町の人が全員寝ているかどうか確認する事と、霧の出所を見つけるのが良いと思うでしゅ」


「そうね。良し!もう一度町を散策しよう!」


 二人はまた宿を出て町を見てまわる事にしたのだった。 

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