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伝わらない想い

「あー、やっちゃった・・・」


 ラゼル城で借りた部屋の中、護は落ち込んでいた。辺り一面には酒のビンが転がっている。久しぶりに霞に会ったのに冷たい態度を取った事とお見合いを断られたことが思った以上にショックだったようで、何時もの様に話が出来なくなっている自分に後悔してやけ酒にしているのだ。


「だって霞も霞じゃん。別にお見合いで付き合うとか結婚するとかじゃなくてもさ、会うぐらいはしてくれるかなとかって思ってたのに。まぁ、決まった相手もいるとか言ってたから今更俺がどうこう言う事じゃないのかもしれないけど。なんか意識しちゃうんだよなぁ。霞だけは苦手な女の子の中でもまともに話の出来る安心した相手だと思ってたのに、また壁作るようになっちゃった・・・」


 ぶつぶつとワインをビンごと飲み独り言を言っている。護は繊細な心を持っていてナイーブな所があるのでちょっとした事ですぐ心が乱れる。特に自分の交友関係や人付き合いには特に気を使っているので、それがうまくできないと結構へこんだりするのだった。


「お袋も言ってたけど、俺達仲間じゃないか。もっといろいろ話してくれたりとかさ。いや俺も自分の事しゃべらないのも悪いんだけど。それでもな」


 ワインのビンをまた一本一気に飲み干し空にする。復興式会場でもかなり飲んでいたが、部屋に来てからかれこれ十本近くのワインのビンを空けている。そろそろ意識がなくなっている状態だ。自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。こうなると、護は泣き上戸になる。もともと酒が入ると泣き上戸なところがあって荒れるというよりひたすら語りながら泣くのだ。そこに話す相手が居ようと居なかろうとひとりでぶつぶつ文句を言いながらひたすら泣く。


「もう、いいよ・・・本当に・・・ぐすっ」


 またワインのビンに手をかけふたを開けた。さて一方の霞は、実は護と同じ様にへこんでいた。別に護と違い酒におぼれるということはないが、机に腕を乗せ頭をうずめていた。


「あー、まさかレイサーさんが護だったなんて。知っていればお見合いの件あんなに失礼な断り方しなかったのに。ううん、むしろ絶対に会ってあわよくば良い返事だそうかなとか考えてたのに。護、今日凄く冷たかったな・・・。雰囲気もなんか近寄りがたい感じだったし、私の事全然相手にしていないって感じ。そういえば、お見合い相手を探しているってことは、他にももう誰かに会って決めた人とか居るのかな。うー・・・、やっぱり居るよね。普通オフェリアの王子ともなると立場上相手をちゃんと探さないといけないし、私が断ったって事で他の候補者の中で私より良い人見つけてるはず。あー、私の馬鹿。なんであんな風に書いたんだろ。あれじゃ、まるで護以外に心に決めた相手が居るって誤解されて当然じゃない。あー、あー、私絶対に嫌われたよぅ」


 霞も霞で一人落ち込みながらぶつぶつ言っている。しかし、何時までもぐずぐずとへこんでいる性格の霞ちゃんではない。開き直って、とにかく護に謝らないとと思いなおし直ぐに部屋を出て護の部屋に向かった。


「護、私だけど入っても良いかな?」


 中から返事はない。しかし以前と違い声は聞こえたので護が部屋に居るということはわかった。


「護」


 もう一度声をかける。でも中からその言葉に対する返事はない。霞は試しにドアノブを回してみた。鍵は掛かっていない。そっと開けて中に入ってみた。すると入った早々に凄い酒の匂いがして思わず鼻を塞いだ。


「何これ。お酒臭い」


 鼻を塞ぎながら部屋の中を見渡すとベッドに腰掛けながらワインビンを一気飲みしてる護の姿が見えた。


「護?」


 声をかけるが相変わらず返事はない。どうやら自分の存在に気がついていないようだ。近づいていって護の肩をトントンと触った。それでようやく護がこちらに気づいて見上げてきた。その顔を見た時、霞はびっくりする。護が泣いていたからだ。それと同時に部屋のあちらこちらに凄い数のワインビンが転がっているのにも驚いた。


「ちょ、ちょっと護。飲みすぎじゃない?」


「ほえ、霞〜」


 えーんえーんと泣きながら間の抜けた返事を返す。護は既に出来上がっていてべろんべろんの状態だ。


「ど、どうしたの?こんなにお酒飲んで泣いちゃって」


「ごめん。本当ごめん」


「え、何が?」


「本当ごめん。俺冷たい態度ろっちゃって。霞相手してくれないと思ったから、こっちもそのつもりでしゃべってて。本当はみょっと普通にしゃべるつもりだったのに」


 護はひたすら謝っている。霞は顔を振って気にしないでと言ったがそれでも護はひたすら謝っている。そしてまたワインのビンに手をかけた。それを霞が止める。


「ま、護。これ以上は飲まない方が・・・」


「だって〜、霞、相手にしてくれないんにゃもん。え、あ、いや俺が相手しなかったのか?・・・ぐすん・・・とにかくごめん」


「ううん。私の方こそごめんね。あのお見合いの件断っちゃって。私本当にレイサーって護の事だって知らなくて。知ってたら絶対断ったりとかしなかったのよ」


「そうにゃにょ〜?」


「うん。もちろんよ」


「ねぇも、決まった相手とか居るんでしょ?」


「え、いや、それは、えーと・・・」


「別にそれはそれで良いけどさ。俺達にゃかまにゃん。いろいろそういったこととかも教えてくれたって良いじゃない」


「それを言ったら、護だって自分の身分の事私に教えてくれてなかったでしょ?」


「あっ・・・。・・・ごめんなさい。本当ごめんなさい」


「それは、まぁ良いけど。あの、護。気を悪くしたなら私こそ本当にごめんね。えっと、あー、私の事嫌いになっちゃったよ・・・ね?」


 少し緊張した面持ちで霞は聞いてみた。


「そんなわけないよ〜。らって霞、俺の大事なにゃかま。嫌いににゃんてにゃらないよぉ。むしろ俺にょ方が嫌われた感じ?」


「ううん!そんなことない!」


「しょうお?」


「うん!」


「にゃらよかっにゃ」


 それを聞いてお互いすこし安心したようで、霞はほーっと溜め息をつき、護は霞の制止を振り切ってワインを飲み始めた。


「でも、護。本当飲みすぎだよ?さっきから呂律が回ってないけど?」


「しょんにゃことにゃい」


「いや、あるって・・・。どうしてまたそんなに飲んでるの?」


「にゃって〜!」 


 護はまたワンワンと泣き始めた。霞は何故泣いているか分からなくておろおろする。とりあえず、護の次の言葉を待った。


「お袋みょ親父みょ、結婚相手しゃがしぇとか恋愛はした方が良いとか、俺にょ年頃で付き合った事にゃいのは変とか言ってきて、俺みょそうかにゃとか思ったりするけど、だから一番気心の知れてる霞にお見合い話ふってみにゃんにゃけど、断られるし」


「だからそれは勘違いだって」


「ねも、霞心に決めた相手が居るんねにょ?」


「え、そ、それは」


「にゃったら一緒にゃにゃい!」


 護はぐびーっとワインを一気飲みする。霞はどういうべきか悩んだ。この場でしっかりと想いは伝えておいた方がいい気がするが、いざ二人っきりになって言おうとすると恥ずかしくて言えない。


「あのね。護その心に決めた相手って言うのは、ほら、そう書けば相手もしょうがないってことで諦めるでしょ?だから嘘なのよ、嘘」


「ほんにょに〜?」


「うん!」


「ねも、霞みょ年頃にょおんにゃにょ子にゃんにゃから、好きにゃ子とか居るでしょ?居なくてみょ、立場上こんにゃくにゃとか居るんにゃないにょ?」


「ううん。居ないわ。好きな相手はいるけど。それを言うなら護だってそうなんじゃない?あのオフェリアの王子なんだから幾多あまたの女性からアプローチ受けてたりとか、婚約者とかもう決まってるんじゃないの?」


 霞は恐る恐る聞いてみた。しかし、護はそれを聞いてさらに涙を流し始める。


「しょんにゃことにゃいにょ。オフェリアにょ王子って言ったって、俺旅人にゃし、にょにゃんにょ相があって、いみゃみゃで女性とにゃかよくにゃったことにゃいもん!にゃかまは一人ぐらいにゃらいたけど、一時のあいにゃにゃったし。俺おんにゃの子苦手にょにょら!」


「そうなんだ」


「うー、どちらにせよやっぱり霞、しゅきにゃ子いるんにゃにゃい!」



「だから、それは・・・」


 やはりこの場できちんと言っておくべきだと霞は決意した。意を決して護の顔をしっかりと見つめ言葉を発する。


「護、良く聞いてね。私の好きな相手なんだけど」


「うみゅ」


「実はね・・・・・・護!貴方なの!!!」


「ふみゅ〜?」


「だから、私、ずっと貴方の事が好きだったの」


「にゃんら、しょうにゃのか〜。へ〜」


 護は完全に朦朧として他人事の様に受け流している。霞は自分の言った発言にすこぶる恥ずかしくなったようで顔を真っ赤にしている。


「あの、私じゃだめかな?」


 霞は真剣な顔をして聞いているが、護はそこで完全に意識がとんだ。


「うーんと、えーっと、俺にぇむくにゃってきにゃっにゃ。おにゃすみ」


 霞の心とは裏腹に護は寝てしまった。


「えっ、ちょっと護!」


 霞は必死に揺り動かして起こそうとするが、まったく起きる気配が無い。


「もう!せっかく決意して私の想い伝えたのに!はぁ〜、これじゃ今日の事覚えているかも怪しいな。私もう一度しらふの護に気持ち伝える度胸なんてないわよ」


 霞ははぁ〜と溜め息をつき、部屋を後にした。とりあえず、護が自分の事を嫌いになっていないという事だけは確認できたので、今日はよしとする事にして霞も寝ることにした。霞は護と違いポジティブである。護の事もわかったしまた次の機会があると開き直ったのだった。









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