新たなるスタート
「とまあ、こういう事があったわけですよ。」
熱いコーヒーを飲みながら、護は午後の一時をくつろいでいた。あれからすぐ帰ってきて二人と別れた護は、すぐに自分の部屋に行き一眠りしたのである。起きたのはお昼過ぎ。今ちょうど、今日あった出来事をゲンにしゃべりながら昼食をとっていたところだ。
「そうなると、おまえの話からするとこの街を狙ってる奴がいるって事か?」
ゲンが聞いてくる。
「おそらく、そうだろうというところです。確信は有りませんが、あの手の呪術ではその可能性は高いと思われますね」
「物騒な話だな」
「そうですね。何を考えているのやら・・・。事が事だけに、今回の件で僕も後から城に行かないといけないんですよ。なんか、王様が話を聞きたいとか何とかで。面会できる良いチャンスですけど、面倒くさくって」
「来た早々、やっかいごとに巻き込まれてるなおまえも」
「本当ですよ。僕は、ただのんびりまったりマイペースに生きたいだけなんですけどね」
心底だれながら答える。時計を見ると、ニ時ちょうどだった。
「あ〜、そろそろ行かなくちゃいけないんで、それじゃあ」
「ああ、いってらっしゃい」
城に向かう途中、護はあまり機嫌が良くなかった。今日も良い天気である。こういう日は、何処かベンチにでも座ってまったりひなたぼっこでもしてるのが良い。朝、無理矢理起きたせいで仮眠はとったもののまだ眠い。こんなときは大体機嫌が悪いのだ。城に行ってつまらない会議なんか聞かされるのだろうか?そんなことを考える。もしそうなら、マリアおばさんと世間話してる方がまだおもしろいというものだ。
そうだ、行く途中クレープでも買っていこうと思う。
三時近くになってようやく城に着いた。クレープをほうばりながら入っていく。受付のお姉さんに名前をいうと謁見の間に行けとのことだった。謁見の間の前に来たとき、服を整え少し姿勢を正した。中に入っていく。目の前に中年の男性が座っていた。温厚そうだが、やはり風格や威厳といったものが漂っている。思っていたよりも若く見える。左右には近衛兵が一列に立っている。護はその男性の前に傅くと、頭をたれた。
「陛下、御拝謁をたまわり光栄に存じ上げます。私、護、お呼びとのことでしたので参上いたしました」
「おお、そなたが護か。話は劉隊長から聞いておる。私は、このセイバー国の王レリアスという。このたびの件では良き働きをしてくれたそうだな」
「いえ、私などはたいしたことはしておりません。隊長の指示に従ったまでのことです」
「そう謙遜するな。そなたがいなければ今回の任務も成功しなかったであろうとか。本当によくやってくれた。国民に成り代わり礼を言う」
「もったいないお言葉。めっそうもございません」
「話では、若い身空でかなりの腕と聞き及んでおる。なにやら魔法にも熟知しておるとか」
「これはお耳汚しを。私程度のものまだまだ修行中の身であります」
「それにしてもそなた、何処かで逢ったことがなかったか?そんな気がするのだが・・・」
護はドキッとする。そこで隣にいた劉が口を挟んだ。
「陛下、そろそろ本題を」
「おお、そうだった。なにやら劉の話では我が国に危険が迫っていると」
護はほっと胸をなで下ろし、今朝の出来事を簡潔に説明しそこから導かれた結論を述べた。
「あくまでそう言う可能性があるという私の私見でございます。ただ、このまま放置しておくのはいかがなものかと思いまして一応ご報告をと、思った次第です」
レリアス王は少し黙って考え事をしている。
「確かに、この件に関してはなにぶん情報が不足しておる故、未知なる部分が多いが放って置くわけにはいくまい。すぐ対策本部を設け情報収集を行うこととしよう。その際、そなたの力を借りることになると思うが構わぬか?」
「はい。微力ながら、私ごときで良ければ尽力をつくさせていただきます」
「そういえば、そなたこの国の者ではないな」
「はい、しがない旅人であります」
「何か目的有っての旅であろう。それを、邪魔するのは忍びないのだが」
「いえ、そのご心配には及びません。その目的もこの国で見つけようかと思い、しばし定住するつもりでありましたから大丈夫です」
「そうか、それなら今後よろしく頼む。城の中、出入り全て自由といたす。他に何か必要が有ればなんでも申しつけるがよい」
「はい、ありがとうございます」
「今日は任務で疲れたであろう。戻って休むがよい」
「はい。では、失礼します」
この一件以来、護はより城の中枢へと入っていくこととが出来るようになったのである。