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残念、霞ちゃん

 時は遡り、護が霞から別れた時間。


「護、何処行ったのかな?まぁ、城には居るよね。きっと泊まってる部屋に戻ったんだろう。後で夕食の時にでもさっきの件でゆっくり話をしようっと」


「何をぶつぶつ言っておるのか、霞?お前も民衆にしっかりと挨拶しなければ。こうしてこの場に立ち皆も国の復興にやる気を出しているのだから、お前もこれからは王女としてしっかりしないと駄目だぞ?」


 護の事を考えていた霞にレイン王が叱咤を掛けた。 


「あ、はい!父上!」


 レイン王の言葉に霞は我を取り戻し、民衆の前で凛とした姿勢でいかにも王女です!みたいな雰囲気をかもし出す。


「皆の者、今まで大変な苦労や辛い思いをしてきた事だろう。私は皆のその苦労を知らず一人逃がしてもらい、のうのうと平和に暮らしていた自分が恥ずかしい。しかし、贖罪ではないがせめてものお詫びとして、この国をのっとり苦しめた張本人を倒した。私はこの国が好きだ。そしてこの国に住まう貴方達が好きだ。まだ王女として至らぬかもしれないが、どうか私と父上達に今後も付いてきてもらいたい。皆でより良い国にしていこう!」


 霞の言葉に民衆が皆揃って歓声を上げ拍手を送った。霞も優雅に手を振る。そういった具合に挨拶が終わると、レイン王は早速民衆に今後の復興の指示をだし集会は無事に閉幕した。


「中々堂々として立派だったぞ。私も父としてここまで立派に成長してくれてうれしい。サマンサに見せてやりたかった」


「父上、母上の容態はどうなのですか?」


「ん?なに問題はない。護殿がくれた薬のおかげで今は若干疲れておるくらいじゃ。別に無理する事もないと思い、休ませているだけ。サマンサも言っておったぞ。お前が戻ってきたなら自分は安心して休んでいられると。だから今後はサマンサや私に変わりお前が国を引っ張っていってくれ」


「はい!」


 しっかりとした霞の返事にレイン王は玉座にゆっくりと座ると、ふーっと安堵の溜め息をつき、今後の事を考え始めた。霞は王女として自覚を持たないとと思いレイン王に自分はどうしていれば良いかを聞いたが、今すぐやらなければならない事はないと言われ、玉座の間を出て行った。そして近くに居た兵士の一人に護のことを聞いてみる。


「先程まで私達と謁見していた子供が何処に行ったか知らないかな?」


「はっ!その子供でしたら、部屋を出て向こう側の方に歩いていかれましたが。すみません、何処に行ったかまではわかりません」


「そうか、すまない。仕事中に貴方も疲れているでしょうに」


「いえ!霞様のその温かなお言葉で疲れも吹き飛びました!」


「無理をすることはない。これからが大変なんだから貴方も休めるうちに休んでおきなさいね。ありがとう、それでは」


「はっ!」


 霞は兵士の言った方向に歩いていった。丁度その方向が護が泊まっている部屋の方向だったので、やっぱり護は部屋に戻ったのだろうと早足で部屋へと向かった。


「護、居る?私だけど、入っていいかな?」


 部屋の前でトントンと扉を叩き声を掛けるが中からは返事がない。何度か叩いてみるがやはり返事はない。そこで霞はそっと扉を開けた。


「護?」


 誰も居ない綺麗な部屋の中を見て霞は、あれ?っと思い首をかしげる。そして突然心に不安を感じた。


「何処に行ったんだろう。まさか私に無言で何処かに行くなんてないわよ・・・ね」


 生まれた不安を解消しようと霞は自然と開けた扉をそのままにして城の中を走り回った。ある部屋ある部屋一つずつ見て周り、出会った人にも護の行方を聞いていく。しかし、誰一人として護の行方は知らなかった。


「誰も知らないなんて・・・。護に限って何も言わずに何処かに行く事なんてないはず。きっと街に出たのかな?夕食までには帰ってくるよね」


 言い知れぬ不安感を抱きながら自分を励ますかのように独り言を呟いた。だが、その言葉は意味をなくす。夕食の時間になっても護は城に戻ってこなかったのだ。護が泊まり始めて三日間世話をしていたメイドにも聞いてみたが、今までこの時間には必ず帰ってきてたのに今日は帰ってきていないと言う。霞は護が気を使って、レイン王達が落ち着いて家族水入らずでいたいだろうと言い、泊まってからはほとんど顔を合わせていない。だから世話役としてメイドを一人つけたのだが、そのメイドも行方を知らないと言うのだ。


「もうっ!護何処言ったのよ!」


 せっかく落ち着いて話が出来るかと思っていて、玉座の間で言いたかった想いも伝えようとしていたのにそれができなくなって、はけ口のない心がもやもやしてくる。そんな状態でその日が終わり、次の日からは直ぐに仕事をこなさなければならなくなった。霞はそんなもやもやした状態で仕事が出来る程器用ではない。民の話もレイン王達の話も左から右へ耳を通過していくだけ。なんとか護の行方を知ろうと、自分の世話役のメイドに護のことを探すように頼んだが、何日経っても一向に見つかる気配はなかった。子供の噂すら入ってこない。


「すみません、霞様。私もなんとか街中をくまなく聞いて回ったのですが」


「そう。では、護はもうこの国に居ないという事なのかしら?」


「ええ。少なくとも私の探した範囲では護様の話は欠片も入ってこなかったので、おそらくそうだと思われます」


「・・・分かったわ。ごめんなさいね、わがまま聞いてもらって」


「いえ、私の方こそお力になれず申し訳ありません」


 メイドは深々と頭を下げ、霞は護の事はもういいわと言いメイドを下がらせた。


「護ったら、私に何も言わないで帰るなんて酷いんだから!・・・はぁあ、しょうがない。父上に許可を貰って、エンシフェルムに行かせてもらえるようにしなきゃ」


 霞はその事を伝えるために忙しく働いているレイン王の下に行った。


「父上、そういう訳でエンシフェルムに行きたいのですが」


 事情を説明した霞にレイン王が呆れて溜め息をつく。


「霞、この忙しい状態を理解しているのか?エンシフェルムを行き来するだけでも一週間は掛かるというのに。今は一分一秒が惜しい時。そんな時にお前が居なくてどうする」


「それは分かってる。でもきちんとお礼はしたいじゃない。父上だって護とは一度ゆっくり話とかお礼とかしなきゃ駄目だって思ってはいるんでしょ?」


「ん〜。まぁ、確かに護殿も我らに何も告げず去られたのはこちらとしても残念ではあったから、しかとお礼はせねばと思っているが・・・」


「だから、私がエンシフェルムに行ってまた護を連れてくるから。行きは時間掛かるけど、帰りは護の魔法で一日もかからないで帰ってこれるし」


「しかし、護殿にも仕事があるのではないのか?今まで散々世話になっているというのに、さらにこちらから押しかけては、逆に迷惑というものでは?護殿が我らに何も告げず去られたのも自分の仕事の事と、約束通り無事国の再建を果たすと信じ我らに任せているからの事であろう。護殿は護殿なりに気を使われたのじゃよ。きっと」


「でも、やっぱりちゃんと話やお礼はしておくのも礼儀だと思うんだけど」


「むぅ。相分かった。では、6日お前に暇を与えよう。その間にエンシフェルムに行き護殿に会って来なさい。忠告しておくが、護殿が迷惑なようだったら無理に連れてくる必要はないぞ。私の方でも復興が落ち着いた頃、追々しっかりとお礼はしに行くと伝えておいてくれ。お前も6日暇があるとはいえ、早々と帰ってくるのじゃぞ?仕事は山のようにあるのだから」


「うん分かった!ありがとう!」


 レイン王から許可が下り、霞は喜んで支度をすると馬小屋へと颯爽と走っていく。この国で一番早い馬に乗り鞭をしならせ、霞を乗せた馬は飛ぶが如くエンシフェルムへと走っていく。


「何から話そうかな。とりあえず会ったらまずは文句よね!」


 護と会う時の事を考えると自然と心がワクワクして高揚する。握っていたたずなにも力がはいった。そして約三日後、エンシフェルムに到着。ストロベリーの前に馬を止め、意気揚々と中に入って行った。


「こんにちわ!」


「おっ!霞ちゃんじゃないか。久しぶり」


「あー!お姉様、お久しぶりです」


「うん、二人とも元気そうで」


「こっちは相変わらずよ。のんびりやってるさ。楓ちゃんのおかげで店も繁盛してるし、手伝ってくれて大助かりだ」


「お姉様。国の方はもう大丈夫なんですか?」


 楓の質問に答える前にゲンが突っ込みを入れた。


「楓ちゃん。国の復興がそんなに早く終わるわけないだろ。今が一番忙しい時のはずさ。それを押してまで来たという事は、大方護の事だろう。な?霞ちゃん」


「さすが、ゲン。分かってるね。そうなのよ。護ったら私に何も言わず帰っちゃうからさ。お礼の一つも言えなくて、父上に無理行って飛んできたのよ」


 そこにさらにゲンがふっと笑い、的確な突込みを入れる。


「お礼一つ二つのためにわざわざお姫様が直にやってくるのか?本当の目的は別にあるんだろ?」


「え!?」


「そうかそうか。とうとう決意したか。うんうん、若いって言うのは良い事だ」


 ゲンは何もかも分かっているかの如くタバコを吹かして、新聞なんかを読み出した。楓の方は話が分からないようで、はてなマークを出してきょとんとしている。


「え、えーと。ま、まぁとにかく護は今何処にいるの?部屋?それとも仕事場?」


「残念ながら霞ちゃん。悪い知らせだ。実は護は今何処にもいないんだ」


「えっ?ど、どういうこと?」


「なにやら、霞ちゃんの一件が片付いたらなんだか故郷が恋しくなったとかで、あいつ故郷に帰ったよ」


「ええ!?」


「ちなみに、あいつの故郷が何処の国かは俺らは知らないよ。だからこの国であいつの居場所を知ってる奴はいない」 


「そ、そんな・・・」


 俄然張り切って元気だった霞はその事を聞いて急に元気をなくした。


「なんだ。俺はてっきりあいつの事だから霞ちゃんにはちゃんと何処行くのか教えているのかと思ってたけどな」


「ううん。本当に知らないうちに居なくなっちゃって。だから私てっきりここに帰ってきてるものだと思ってたのに・・・」


「ったく、乙女心の分からん奴だな。まぁ、そんなに落ち込むなって、あいつも何時か戻ってくるよ」


「それって何時?」


「さあな。明日か、何年も先か。何時って言う日はないからな」


「・・・・・・」


 ゲンの追い討ち的な言葉を聞いてさらに落ち込んだ。来る時のあの高揚とした気分とは裏腹に今度は重たい気分が心にのしかかってくる。


「お姉様。大丈夫?」


 さすがの雰囲気の変わりように楓が心配になって声を掛けるが、霞は返事をしない。頭の中では護が何処に行ったのか、何時会えるのか、最悪一生会えないのではとその事だけが駆け巡っている。霞は肩を落としたまま、ゲンにも楓にも何も言わず出口に向かい馬に乗った。


「おい、霞ちゃん。もう行くのか?」


「そうですよ、お姉様。もっとゆっくりしていけば・・・」


 二人の質問にも答えることなく、暗ーい表情してラゼルへと帰って行った。


「あちゃー、相当ショックだった見たいだな」


「マスター。お姉様どうしたんでしょう?」


「んん?その答えは、楓ちゃんにも何時か分かる日が来るよ」


 ゲンはまた椅子にもたれかかるとタバコを吹かし新聞の続きを読み始めた。楓はなんだったのかさっぱりわからずきょとんとしていたが、お客が来たので直ぐに仕事を始める。


「護の馬鹿馬鹿馬鹿!」


 馬に乗りながら心の中で霞は護に文句を言っていた。


「どうして、私に何も話してくれないのよ。護にとって私ってその程度の相手だったって事?人の気も知らないで!せめて、私じゃなくてもゲンぐらいには行き先ぐらい教えておいてよ。はぁ〜、そういえば私、護の事何も知らないんだ・・・」


 考えれば考える程、心が鬱々としてくる。心に掛かっていたもやもや感がどんどん強くなっていった。どこか、護に裏切られた気持ちにもなる。それと同時に自分の事ばかり気にしてて護の事を詳しく聞いておかなかった自分にも腹が立った。そのまんまの状態でラゼルに戻り、レイン王には会えなかったとだけ伝え自分の成すべき仕事を始めるが、どうしてもぼーっとしてしまう。その状態が幾日にも渡った時、ふとレイン王からお見合いの話が舞い込んできた。


「霞、ちょっと話があるのだが」


「・・・なんですか、父上?」


「お前、エンシフェルムから帰ってきてから元気がないようだが、どうかしたか?」


「・・・いえ、別に」


「何かは知らんが、あまり考えすぎるなよ。今は国の事だけを考えておいてくれ。で、本題だが、お前、お見合いする気はないか?」


「お見合い?」


「そうだ。実は、西の大陸にある超大国オフェリアのオーフェンシアム・ロイス国王から息子のお見合い相手を探しているという話が前にあってな。そこでこの度、僭越ながらお前がお見合い相手として選ばれたのだ。その息子さんはオーフェンシアム・レイサーと言う名だそうなんだが、かなりの美形らしい。性格も良いそうだし、お前に似合うんじゃないかと思って。お前もそういう年頃であろう?」


「・・・興味・・・ない」


「いや、しかし、あのオフェリアの一人息子様だぞ。そのレイサーさんと仲良くなっておけばこちらとしても大変ありがたい。特に今の我が国の状態では、周りの国の協力がなければ完全な復興はまだまだ先になってしまう。ここでオフェリアの協力が得られれば、お前にとってもこの国にとっても大変有意義だ。いやこの際政略的な面は、全くなしにしても、お前にとって良い機会なんじゃないかと私は思うのだが」


「・・・丁重にお断りするわ」


 ずっと声のトーンが低いまま霞は明後日の方向を向き、話を受け流す。


「ん〜、そうか?もったいない話なんだがな。本当に断っても良いのか?あのオフェリアの王子だぞ?断ってしまったら、金輪際こんな良い話はこの先ないのだぞ?」 


「・・・うん・・・」


「本当に良いのだな?」


「・・・うん・・・」


「残念だな。あちらも霞に会えるのを楽しみにしているとか仰ってくださっていたのに。ロイス国王から話を振られた時も、霞が断るとは思っていなかったから喜んでこちらから申し出た様なものなのだったが。そうなると困ったことになるな。あちらになんと断れば良いか。私にも面子というものがあるから」


「ごめんなさい、父上。私、今そんなお見合いとかする気分じゃないの」


「しつこい様だが、本当に良いのか?せめて会うだけ会ってみたらどうだ?そうすれば、こちらとしても一応体裁は崩さなくて済むし。個人の恋愛の合う合わないは自由だから、会って話はなかったことにしてくださいというだけで良いんだぞ?」


 さすがにレイン王も断るということは予測していなかったようで、結構しつこく聞いてくる。霞はしばし、父親の立場とか自分の置かれてる状況とかを考えてみたが、どうにも頭が回らない。そんなことはどうでもいい様な風に思ってしまう。以前の霞ならありえないことだっただろう。


「・・・父上、本当にごめんなさい。このことはなかったことにして。断りの返事は私の方から一筆書くから。父上の立場を崩さないように丁重にお断りするから、私に任せて」


「まぁ、おまえがそこまで言うなら私は強制するつもりはない。では、この事は霞に任せるから断るなら断るでちゃんと書いて送ってくれ」


「はい」 


 こうして霞は断りの手紙を一筆丁寧に書いてレイサーの元に送ったのだった。



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