力と誓い
ストロベリーでは護が入ってくると霞とゲンが嬉しそうに出迎えてくれた。
「もう、大丈夫なんだ」
「うん」
「なにやら大変だったらしいじゃないか」
ゲンが退院祝いとばかりににパフェを持ってきてくれる。
「まあ、いろいろとね。ここのパフェが食べたくて、早く戻って来ちゃった」
軽く舌を出し護が言う。
「でも、あまり無理するなよ。かなり酷い怪我だったんだろ?」
「それは、お医者さんにも言われたよ。無茶はするなって。どちらにせよ、今はまだ動ける程度にしか回復してないからね」
「それでもあれだけの状態から、こんな短時間に回復するなんて凄いね」
霞が口を挟む。
「昔から回復力は強いんだ。風の加護を得てるのもあるからだと思うけど。霞も、今回指輪との契約で、いろいろと加護を得られたと思うから、何かしらの身体への変化はあるはずだよ」
「へ〜。でも、これといって変わった気はしないけど」
「そのうち分かるさ。そういえば、祭り楽しみ損ねちゃったな。残念だ」
「しょうがないさ。また来年あるんだし。その時楽しめばいい」
「どうだろう。僕は旅人ですから。来年までいるかね〜。突然にいなくなっちゃうかも」
「なに言ってんだか。もう定職にまで就いて、すっかりこの町の住人になってるくせに」
「ははは、そういえばそうだね。やらなきゃならない仕事もまだたくさん残ってるし。このまま、永住しそう」
「まあ、おまえが何か目的を見つけて、旅に出るって言うなら、その時は止めはしないけどな」
「え〜、冷たいな〜。少しは、惜しんでくださいよ」
「馬鹿、自由意志を尊重してやってるんじゃないか。ありがたく思え」
「は〜い。ありがとうございますっ」
そんな他愛のないやりとりが、護にとってはとても心地が良いものだった。おそらくここにはまだ長く定住することになるだろう。
「あのさ、護」
霞が言いにくそうに聞いてきた。
「何?」
「あの、身体って何時になったら完治しそう?」
「うーん。風竜穴を使えばそんなに長くはかからないと思うけど。一週間もいらないかな?どうして?」
「いや、出来れば早く指輪の使い方を教えて欲しいんだ」
霞は両親のことで頭が一杯のようである。
「そう焦るなよ。そう簡単に会得できるものじゃないんだからさ」
「だからこそ、より早く始めたいんだ」
「それは、そうかもしれないけれど。相性とか有るしな。焦ってどうなるものでもないよ。でも、僕の方も出来る限り早く始められるようにするからさ。そうだ!なんなら今からでもやるかい?」
「えっ!?でも、身体の方は大丈夫なの?」
「うん、基本ぐらいなら平気だよ。やる?」
「ああ!是非ともやろう。ほら早く」
霞が急かす。
「ちょ、ちょい待ち。パフェぐらい食べさせてよ」
「なら、早く食べて」
霞は早く始めたくてしょうがないようだ。護はゆっくり味わうことも出来ずにパフェをかっこむと、霞に引きずられるように外に連れて行かれた。練習はいつもの草原。時刻は四時過ぎ。気持ちの良い風が吹いている。護はまず始める前に、霞自身に結界を張った。
「何故、こんなことをする?」
「もし万が一暴走したとき、今の僕じゃ止められないから、安全対策だと思って。後、指輪の力を引き出しやすくなるんだ。最初は、補助を使った方が身体にたたき込みやすいと思うし」
「そうか。で、私はどうすれば良いんだ」
「そうだね。まずは、基本中の基本。魔法を使ってみよう」
「魔法?唱えたことなんて無いけど」
「指輪の持ち主は、基本的に初歩レベルの魔法なら唱えなくても意識の集中だけでだせるよ。無声魔法ってやつだね。一般的な魔法とは違うけど。慣れてくれば、もっと多くてレベルの高いの魔法も使えるようになるけど。霞はまだキャパが小さいから、初歩レベルが使えれば十分かな」
「やり方は?」
「いったって簡単。手を前にかざして、意識を掌に集中する。で、溜まったかなってころに、一挙に前に放出するイメージでやる。契約できてるから、これ自体は何の問題もなく出来るはずだけど。とりあえずあの杭狙ってみて」
「分かった。やってみる」
霞は手を前にかざし意識を集中した。掌が熱くなってくるのが感じられる。そして徐々に炎の固まりができあがってきた。
「今だ!撃って!」
押し出すように前に手を突きだす。
「はっ!」
掌から押し出されたその球状の固まりは一直線に杭に向かって飛んでいく。そしてぶつかると同時にはじけ杭を吹き飛ばした。
「やった!」
「うーん、十分十分。やっぱ契約者はすぐに出来るみたいだね。とりあえず、今は魔法の練り方を精進することかな。イメージをもっともっと膨らませて、炎を自由に操れるように。基本は、イメージ。契約者のイメージ通りに出来るはずだから」
「うん。で、これでお終い?」
「まさか、今のは基本的な事をやっただけさ。指輪を所持さえしてれば出来る事。実際指輪の力なんてほとんど使っちゃいないよ。あくまでイメージを掴むためのもの。でも、それが重要なんだよ。指輪の力を引き出したとき、どのように使うか、それをはっきりさせておかなければ宝の持ち腐れになるからね。簡単に順序をいえば。イメトレ、指輪の力を引き出す、イメージ通りに使う。こんな感じかな。実際はもっと多種多様だけど」
「じゃあ、次はどうすればいい?」
「そうだね。契約したときのことを思い出して。あの時やったようにやるんだ。ただ、今度は暴走させないように、小さい力を望むこと。いきなり大きくやっても、無駄なだけだから。自分の周りに炎が循環するようなそんなイメージを持つんだ。炎を自在に操るようなイメージを。最初はその扱い方が難しいと思うけど、それは身体にたたき込むしかないからね。後は慣れさ」
「やってみる」
そう言うと目をつぶりまた意識を集中しだした。力を貸してください。そう願う。すると指輪が輝き、霞の周りを炎が纏う。その炎は小さくなったり大きくなったり揺れたりと、今にも暴れ出しそうな感じだった。
「くっ!」
小さくうめく。
「焦らずに。自分の周りに、炎がゆっくり循環してくように」
そう言うと暴れそうだった、炎は次第に落ち着きだして霞の周りで安定した。まるで炎の服を纏っているかのようである。
「ほう、驚いた。案外、サクッとうまくいったな」
護が感心して言う。霞は目を開けた。
「どう気分は?」
「なんか、全身に力がみなぎってくる感じがする」
「うん、それで良いんだ。じゃ、さっき魔法を唱えた要領で、もう一度同じ事をやってごらん」
霞はもう一度杭を狙った。イメージをする。かざした掌にどんどん炎が集まってくる。しかしうまく安定させられない。
「やっ!」
さっきよりも数倍でかい炎の玉を前に突き出す。しかし狙いが反れる玉は明後日の方向に飛んでいってしまった。激しい疲労が襲う。纏っていた炎も消えていた。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
霞は荒い息づかいをする。そしてその場に座り込んだ。
「結構、大変でしょ?」
「あ、ああ。こんなにきついとは思わなかった」
「だから言ったでしょ。時間かかるって。でもまあ、良い感じではあるよ。その指輪と霞は相性が良いみたいだね。霞自身の能力も高いし、普通の人よりも早く使いこなせれるようになるかもね」
「よ、良かった・・・」
「まあ、今教えられることはこれくらいかな。より、強く大きなイメージを持つイメトレと、あとは、指輪の力を引き出した際の安定性を確実にすること。この二つを練習することだね。感覚は忘れちゃだめだよ。ただ、大丈夫だと思うけど、今回は結界を張っておいたから比較的やりやすかったかもしれないけれど、次は張らないから。余計安定性は悪くなると思う。あまり焦って無理なことはしてはいけないよ。良い?今度暴走したら、ちょっときつい止め方しなくちゃならなくなるから。それだけは勘弁ね」
「分かったよ」
「それじゃあ、後は霞次第。焦らずに頑張ってね」
そう言うと護はストロベリーの方に戻っていった。霞はその場に寝転がる。ようやく手に入れた力はあまりにも大きく、手に余るもの。でも、何時か近いうちに必ず全てを引き出せるようになってみせる。そして奴を倒すんだ。父上、母上、待っていてください。そう思うとさっきの炎を纏った感覚を思い出していた。