出会い
どこからともなく騒がしい音が聞こえてくる。窓からは明るい日差しが差し込み、部屋の中を照らしていた。
護はその音でうっすら目を開ける。身体が物凄くだるい。まるで何かの重しをのせているかのようだ。そのまま寝返りを打ち時計を見てみる。時刻は午後一時近く。そのまま気にせず、もう一度目を瞑る。もう少し眠っていよう、そう思うとそのまま眠りに落ちていった。しばらくして騒がしさが納まったころ、また目を開けた。時刻はニ時過ぎ。さすがに寝過ぎたかな?とか思いながら、けだるそうにようやく身体を起こす。まだだるく身体がうまく動かない。
護は低血圧でめっぽう朝に弱かった。身体はふらついているし眠くてだるくてしょうがない。しかしそろそろ起きなくてはと、なんとか立ち上がり重い体を引きづりながらドアの方に向かっていくが、ほとんど半分寝ながら動いているようなものである。ドアを開け、所々ぶつかりながら廊下を歩いていく。明らかに危険である。階段にさしあたったとき、案の定足を滑らせ転がり落ちていった。
ゴロゴロ、ドカ!ドカ!ドシーン!!
物凄い音と共に一階に辿り着く。それでもなお眠気から抜け出せないところが、なんとも護の凄いところである。
「お、おい!大丈夫か?!」
ゲンが心配して駆け寄ってきた。
「・・・・・・」
「おい!護!!!」
「・・・。あ、ゲン。おはよう〜」
何ともとぼけた挨拶をした護は、そのままゲンに起きあがらせられた。
「おはよう〜、じゃないよ。大丈夫か。なんか、すごい勢いで落ちてきたが」
「あ〜、大丈夫。いつものことですから」
「いつもって・・・」
呆れ顔でゲンはこちらを見ていた。護はそのままカウンターに向かい、端っこに座る。
「まあ、良いか。客が引いてるときで良かったよ。ところで、よく眠れたか?」
「はい、おかげさまで」
あくびをしながら応える。正直まだ眠い。
「なんか食べるか?朝飯・・・とういうか、もう昼過ぎだがな」
「あ、じゃ、コーヒーをとりあえず一杯ください。それと、サンドイッチかなんか軽いものがあると助かります」
基本的に朝は食べることはない。胃がむかむかして食べ物を受け付けようとはしないのだ。だから大体寝起きはコーヒーだけと決めていたが、昨日のこともあったのでとりあえず何か食べておこうと思った。
「分かった。ちょっと待ってな」
ゲンが奥に引っ込んでいく。その間に護は腰掛けながら、また、うたた寝をしていた。
外は昨日とは打って変わって雲一つ無い良い天気である。窓から漏れる日の光が少し眩しい。窓は軽く開けられ、取り付けられたカーテンが軽くなびいて暖かく優しい風が店内に吹き込んでくる。気持ちの良いのんびりした午後だ。
コトっと皿が置かれる音で目が覚めた。
「はい、おまちどうさん」
「あ〜、ありがとうございます」
「まだ、寝たり無いようだな」
「ええ。俺、朝って弱いんですよ。もう眠くて眠くて」
ゲンは皿を拭きながら聞いている。護は出されたコーヒーを飲みながら気になっていたことを口にした。
「そうそう。あまり甘えすぎるわけにはいきませんから、食事代ぐらいはきちんと払いますからね。これは決めたことなんですから、なんと言おうとそうさせていただきますから」
少し強めの口調で言う。
「護〜。誰が飯代まで無料だって言ったよ。当たり前だろ?それぐらいは払ってもらわなきゃな」
ゲンは意地悪そうに言ってきた。
「ええ。ですから払いますよ」
護はこの返答に少しほっとした。もし断られたらこちらが困るからだ。わざわざそんなことで言い合いにもなりたくなかった。
「ところで、ここから街って近いんですか?今日は天気良いし、しばらく住むことにした以上、いろいろ町とかも見て回ろうと思っているんですけど。昨日、暗闇の中じゃ光なんて全然見えなかったから結構離れてるのかな?」
「いや、すぐ目と鼻の先だ。前の道をすぐ曲がればもう城下街さ。地形の関係上、おまえの来た方角からは見えなかったのだろう。ここストロベリーは街の入り口に建ってるからな。確か部屋の窓から街が見えたと思うがなぁ」
そういえば、まだ一度も窓から景色なんて見ていなかった。昨日はへとへとだったし、朝はこんな状態で余裕がなかった。後で見ておこうと思う。
「ごちそうさまでした。」
食べ終わってコーヒーで少々時間をつぶした後、護は部屋に戻り出かける準備をした。ふと窓の外を見る。なるほど、確かに ここの窓から街を一望できる。向かって左側に塔が何本か建っている大きな建物が遠くに見える。どうやらあれがお城のようだ。城下町は、ちょうど円筒の形をしていて、中心にどうやら大きな広場があるようである。そこから建物が各ブロックごとに扇形に広がっている。町の入り口から城までは一直線で結ばれている。右側にも少し大きめの建物が見えるが、ここからはよく分からない。なにやら魚のようなイラストが描かれてるようには見えた。
「今後のことを考えなければ」
ぽつりと独り言をつぶやく。全く知らない街、突然決まった住み込み、やることもこれといって決まっていない。そもそも自分には何が出来るのか、何がしたいのか。今までのことを考えると出来ることといったらどこかの傭兵になるか、賞金首を捕まえて金を稼ぐというところだろうがこの平和な町ではどうだろう?まあ今までの稼ぎから、当面金銭面では心配する必要などないのだが、なにか仕事は見つけた方がいいかもしれない。この店の手伝いというのもいうのはどうだろう。なんにせよとりあえず、この町の状態を把握して置く事を優先した方がよさそうだ。昨日の今日で早々に決めることもないし。城があるということは、もしかしたらそっちの方で何か役立てることがあるかもしれないからな。
護はある程度考えた後、思考を切り替え町の散策に出ることにした。子供の姿に変身する。
「それじゃ、街の方に行ってきます」
「あ、ああ護か・・・。それがもう一つの姿か。迷子になるんじゃないぞ」
ゲンが冗談交じりに笑いながら応えた。
街は賑やかだった。子供のはしゃぐ声、店から漏れる勧誘の声、すれ違うカップル、所々で聞こえる笑い声。街の雰囲気で分かる。この国の王様は良い治世を行っているのだな。護は、きょろきょろあたりを見渡しながらそう思った。ポプラ並木が左右に均等に立っている大通りを少し歩くと、部屋の窓から見えた広場に出た。真ん中に噴水があり、周りは少し離れたところにベンチに囲まれ屋台の車が一台止まっていた。近付いて行ってみると、アイスやクレープ、サンドイッチや鯛焼きみたいなものが売られている。甘いものが好きな護は迷うことなくストロベリークレープを頼んだ。待ってる間、店の人と話をしたが好感の持てるおばちゃんであった。名前をマリアというらしい。こちらも自己紹介をしておく。ずっとこの場所で商売をやってきたそうだ。
「本当に、この街は良いところだよ。王様に感謝しなくちゃねぇ。でも噂じゃ、なにやら最近問題を抱えてるとか。たいしたことじゃなければ良いんだけど。うちら平民には上の人の悩みってのは分からないもんだからねぇ」
マリアはクレープを渡しながらそんなことを言っていた。
「問題ね・・・」
クレープをほおばりながら護は呟っく。このクレープはかなり美味しかった。気に入ったので今後も頻繁に食べにこようと思う。それにしても王様が抱えている問題というのが少し気になる。暇つぶしも兼ねてマリアに聞いてみた。
「その辺、詳しく教えていただけませんか」
「あたしもよくは知らないんだけど、なにやら何処かに討伐隊を派遣しようって話らしいよ。確か街はずれに危険なモンスターが住み着いたとかで。でもなんか、今人手が足りないうえに結構危険らしくて、傭兵を募集してるみたいだけどなかなか集まらないとか」
「ふーん」
護は気のない返事をした。傭兵という仕事は好都合ではあったが、あまり争いを好まない自分としてはよほどせっぱ詰まってない限りあまりやりたくない気分である。まあ、見に行くだけ行ってみるのは良いかもしれない。城の方にも少し興味が湧いていたからだ。どちらにせよ街は一通り詮索するつもりだったし、必然的に城には行かなくてはならないだろう。そうなれば嫌でも情報もより詳しく入ってくる。
「いろいろ聞かせてもらってありがとうございます。あ、クレープ美味しかったです。また買いに来ますね」
「そうかい?ありがとうね」
「それじゃあ」
護は話を切り上げると、また街の詮索を開始した。広場を中心に動き回り、東側に小川が流れていることや見晴らしの良い小高い丘があること。西側には美術館や武器屋、道具屋などがあること。そして窓から見えた大きな建物が水族館である事がわかった。遊園地のようなものも傍に建っている。
夕方過ぎ、一通り見て回った護は城に向かうことにした。もうこの時間になってきたら閉まっているかもと思ったが、いざ行ってみるとまだ門は開いていた。門番に尋ねてみると、どうやら一部だが一般開放しているらしく出入りは自由だそうだ。もちろん怪しい人物は入れてもらえないらしいが。そのまま門をくぐり中庭を通り過ぎていく。植木が綺麗に整えられていた。城内部は天井が高く、入るもの全てを飲み込んでしまうようなそんな錯覚を起こさせる雰囲気をかもしだしているが、いかにも堂々としたものだ。入り口正面に受付みたいなものがある。
「見学の方ですか」
綺麗なお姉さんが訪ねてくる。
「え、ええ。はい、そうです」
護は少し緊張した面もちで応えた。どうも女性というのは苦手で、どう対処して良いのか分からなくなる。
「見学は基本的には自由ですが、一部一般の方には入れない場所がございますのでご注意ください。なお、王様への謁見は時間帯が決まっておりますので時間外ではお逢いすることはできません。只今の時間ではもう過ぎておりますので、もし謁見したいのであればまた後日お越しください」
「分かりました」
お姉さんは事務的に応えると、また自分の仕事をこなし始めたようだ。
「そうか、王様には会えないのか。少し残念だけど、また今度来ればいいか」
護は城の中を歩き回ることにする。入って左に行くと中庭と繋がっている渡り廊下があり、夕焼けが綺麗に見えた。さらに奥に進むと突き当たりの部屋はどうやら図書室らしく、多くの本が所狭しと棚に陳列されていた。中には何人か人が居て、聞いたところではここは世界でも有数の図書室で、とても貴重な本も数多く所蔵されているそうだ。暇なときにでものんびり見に来るのも良いかもしれない。部屋を出てすぐ二階に上がる階段を上ると広い通路に出た。両側に均等にドアが並んでいる。どうやら客室や関係者の部屋らしい。中には関係者以外立ち入り禁止の札が貼ってあるところもあった。
そのまま通路を抜け突き当たりを左に折れ、すぐ右に曲がるとちょうど城の中心部に当たるあたりに大きくどっしりとした扉があった。扉の横に謁見の間とかかれたプレートが貼ってある。今は時間外であったため扉は閉じてあるようだ。その前を通りちょっと行くとまた扉があり会議室と書いてあった。ここも入れない。さらに先に進み突き当たると、一階三階に行く階段と扉がある。扉を開けるとまた見晴らしの良い渡り廊下のようなところに出た。
街が綺麗に見える。ここからはストロベリーは山に邪魔されて見れないが、部屋から見た景色とはまた違い、しばらく護は暮れる街を眺めていた。そのとき何処から掛け声と、何かのぶつかり合う音が聞こえてくることに気がついた。 何の音だろう?と、音のする方に行ってみる。横に立っていた塔の隣を横に曲がると広く円になっている場所に出た。そこでなにやら何人か剣を持った人たちが素振りをしたり組手をやっていたりするのが目に付いた。
「そこ!動きが遅い!もっと相手の動きを見て、先を読んで動くんだ!」
組手をやってる中で一際大きな声を出し周りに指導している人がいる。しばらく護は見学してることにした。
カキーン!ガチャガチャ!剣のぶつかり合う音が周りに響く。その指導している人は明らかに周りと違っていた。風格はがっしりとし、無駄のない、それでいて力強い良い動きのする人である。急にドン!という重い音と共に、指導していた人と組み合っていた相手の方が吹き飛んだ。
「もし戦場だったら、その程度ならすぐにおまえは死んでるよ。よし!ひとまず休憩だ」
周りの人たちが挨拶をして練習をやめる。護は指導していた人のところに行ってみることにした。
「こんにちは」
挨拶をする。
「ん、子供が何のようだ?」
いかにも威厳のあるような感じで尋ねてくる。
「いえ、少し見学させていただいていたんですけど、良かったですか?」
「ああ、見学者か。別に構わんよ。勝手に見てってくれ」
「ありがとうございます。それにしても、お強いんですね。」
そのとき、先ほど相手をしていた人が誇らしげに横から口を出した。
「そりゃそうだよ。この劉って人は、なんてったって我が国が誇る部隊の隊長を勤め上げる人なのだからな。剣の腕にかけては右に出るものはいないよ。俺たちの憧れの人さ。この人と同じ部隊にいるとことを誇りに思うよ」
「世辞を言っても何も出ないからな。口を動かす前に剣の腕をあげろ。おまえは無駄な動きが多すぎる」
劉は冷たく言い放った。
「はっ!精進します。それでは休憩に行ってきますので、失礼します」
そう言うと、その人は去っていった。
「へ〜、隊長さんなんですか。それならお強いはずですね」
「それほどでもない。周りは、ああは言っているが、世の中にはもっと強い奴がたくさんいる。私などまだまだ未熟者さ」
軽く微笑む。
「そういう風に、自分の強さに溺れないのもまた凄いところだと思いますよ」
護は正直に思ったことを言った。
「この国は平和だが、世の中ではまだ争いの絶えないところもあるし凶暴なモンスターが徘徊していたりもする。事実、この街の付近にグリフォンが住みついたりもしていつ危険が迫るとも限らない」
「グリフォンって、あのグリフォンですか!?」
「そうだ」
グリフォン、主に高い山の頂上に生息し、その容姿は巨大な鷹のようであり、口からは炎をはき、皮膚は鋼鉄のように硬いと言われている。上級者レベルの人でも手こずる相手であろう。しかし滅多に現れることはなく、正直なところ詳しい生態についてはよく知られていない。
「だから常に己を鍛えていなければならないのだが、最近の奴らは少々平和呆けしているところがあって実力は皆見ての通りさ」
「あなたが強いから、そういう風に周りからは見えてしまうだけのような気もしますけど。皆さん強そうですよ?」
部隊である以上当たり前の事であることを聞いた。
「当然だ。我々は強くてはならないのだよ。しかし、まだまだ精進が足りないと言う事さ」
やはり予想していた返答が返ってきて、自分の質問の内容に少し馬鹿だなと思う。しかし同時に少し不思議な疑問も感じていた。 そのとき劉隊長から、思わぬ申し出があった。
「ところで少年。私と一つ手合わせをしないか?」
「えっ?!」
護は驚いた。
「いや、私の見当違いかもしれないが、見たところ君もただ者では無いような気がするのだよ。剣を持っているということは、剣士か何かだろう?まだ若いが、他の奴らよりも骨がありそうだ。どうだ、やってみないか?」
「うーん」
護は少し考えた。悪い申し出ではない。争いごとは嫌いだがこういう稽古での戦いは好きなのだ。なによりこの劉という人の実力も見てみたい。
「そうですね。じゃ、僭越ながらお相手させていただきます。」
「よし」
そう言うと二人は練習場の中心に行き向かい合った。そのあと護は一つ頼み事をすることにした。
「あのー、一つ条件があります」
「なんだ?」
「子供相手だからって、手を抜かないでくださいね。やる以上本気でかかってきてください。お願いします」
こういう戦いの時、手を抜かれると熱くなれないからだ。ぶつかり合ったときの高揚感が好きだったのだが、今の自分の姿を考えたとき相手が手を抜く可能性もある。それではおもしろくもない。やるだけ無駄だと護は考えていた。
「・・・ああ、分かった。ただし、それは君の実力次第というものだと思うがな」
もっともな返答は返ってくる。
「頑張ります」
軽く微笑んで会釈する。
「では!」
そう言った瞬間、劉は物凄い勢いで護に突っ込んできた。速い!そう思ったとき既に剣が護の顔面横に迫ってきている。すんでのところで護は身体を引き、その勢いで後ろに飛ぶ。着地と同時に剣を抜き次の攻撃に備えた。案の定、またすぐに劉は懐に入り込んできている。
剣と剣がぶつかり合う。力では今の護では分が悪い。そのままバランスをずらし、隙間を塗って横に移動する。こちらも速さで攻めるしかない。そう判断した護はスピードを上げる。
ガキーン!ガキーン!
剣が何度も激しくぶつかりあう。手はあまり抜けないな。そう思うと動き回りながら護は呪文の詠唱を始めた。そして、一旦離れた瞬間魔法を発動する。
「ウィンドアロー!」
そうい言い放った瞬間、護の目の前に風が集まり一本の矢のようになって劉を襲う。劉は一瞬驚いたようだったようだが、すぐ横に転がり回避した。もうちょっと判断が遅かったら直撃していただろう。ここでお互い間を置いた。
「驚いたな、魔法も使えるのか。まさか魔法剣士だったとは・・・。子供ながらにすばらしい才能だな」
心底驚いたように劉は言う。
「目に映るもの全てが真実とは限りませんよ」
微笑みながら護は応えた。劉にはよく分からなかったらしい。
「それにしてもやるな。やはり私の眼に狂いはなかった」
そう言うと、剣を納める。
「あなたこそ、やっぱり凄いじゃないですか」
護も剣を納めた。
「さすが隊長やってるだけのことはありますよ。さっきの言葉は謙遜ですね」
「いや、やはり私はまだまだだよ。まさか一本も入らないとは正直思っても見なかったからね。しかし良い試合だった。久しぶりにまともにやり合えた気がするよ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ楽しかったです」
そう言うと、二人は握手を交わした。
「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったね」
「あ、僕は護と言います。風神 護です。よろしく」
「護か、良い名だな。ところで、護君。一つ頼みがあるのだが」
「護で良いですよ。で、何です?」
「いや、先ほど言っていたグリフォンのことなのだが。実は討伐隊を結成しようと思っているのだが、なかなか良い人が見つからなくてね。困っていたんだ。グリフォンのことでは陛下も心を痛めていらっしゃる。ちょうど交通のど真ん中に住み着かれたものだからな。物資の運搬に支障を来していて、このままでは我が国は貧困にあえぐことになってしまう。その討伐に是非君の力を借りたいのだがどうだろう?」
「ええ、その話は耳にしていますが。しかし、ここには皆さんのようなれっきとした部隊が有るじゃないですか。あなたのような人もいるし、いくらグリフォンが手強くても討伐出来ないわけではないでしょう?」
護は気になっていたことを聞いてみた。
「確かにそうなのだが・・・。実はここにいる者達は、ほとんどまだ未熟な者達なのだ。別件で大多数の者達がかり出されていてね。人手が足りないのだよ。だからこうして、傭兵の募集をしていたところなのだが全く集まっていなくてね。この件は早急に対処すべき事なのだが」
少し困った顔をする。
「そうだったんですか」
これで謎は解けた。これほどの隊長が指揮している部隊がそんなに弱いはずがない。例えグリフォン相手でも倒すことはできるはずである。それに、さっきの練習を見ているとみんな強そうではあったがまだ雑さが目立っていたし、動きもまばらだった。要するに、今ここにいる人たちは皆新米なのだ。
「それでどうだ?この話承諾してくれないかな?」
真剣に聞いてくる。
「少し、考えさせてください」
護はそう答えた。正直あまり乗る気がしない。今剣を交えて分かったが、この劉という人は相当の使い手だ。この人とあと何人か腕利きが集まればグリフォンでもおそらく余裕で倒せるのではないか?それならわざわざ自分が力を貸す必要など無いはずだ。やはりここは断っておくべきか。
「あの・・」
そこで別の思考が働いた。ここで協力しておけば今後何かと得かもしれない。城内をもっと自由に動けるかもしれないし、いろいろと劉を通じて人間関係を築いていけるだろう。そうすれば何か困ったときや仕事探しとかに役に立つかもしれない。
「分かりました。及ばずながら、協力させていただきます」
結局、力を貸すことにする。
「おお、ありがとう。助かるよ。君ほどの腕前の人間がいてくれればそんな多人数で行く必要もなくなる。実際、募集も効果は今のところ無かったし、これなら一人二人こちらから引き連れていけば、なんとかなるだろう」
劉は心底安心したようである。
「で、何時出発するのですか?」
「善は急げという。できれば明日の朝には出ようと思うのだが」
「朝ですか・・・」
護は少しげんなりした声をした。
「何か都合の悪いことでもあるのか?」
劉が不思議そうに聞いてくる。
「え、ええまあ、こっちの話ですよ。たぶん大丈夫だと思います」
そう言っておきながら正直自信は無かった。
「そうか。それなら明日の朝、七時に城門前に来てくれ。よろしく頼んだよ」
「七時・・・ですね。分かりました。努力します」
小さく返事をする。劉は護の態度の変化に気づいていないようだった。そのまま話を進める。
「それじゃあ、今日はもう帰って休みなさい。詳しい話は、明日向かう途中でするから」
「はい」
返事を聞くと、劉はそのまま塔の方の休息所に向かい、休んでいた新米達に練習の続きをやるよう指示を出していた。護は朝七時集合という言葉に憂鬱になりながら、もと来た道を戻っていった。辺りはもうとっくに暗くなっていた。




