大会後半
護は霞が順調に勝ち進んでいることに喜んでいた。これなら優勝も出来るかもしれない。王の横に立ちながらそんなことを考える。ただひとつ気になることがあった。あのフーという男である。周りとは異質な存在。不気味な雰囲気を持っている。さっき奴がこっちをみてにやりと笑いやがったのだ。奴は何か別の目的を持っている。もしかしたら、奴が王を狙っている奴かもしれない。危険な存在だな。そう思うと少し霞のことが心配になってきた。そんな奴と決勝で当たるわけか。何もなければいいのだが。
決勝戦は、今のところこれといって変わりなく進んでいる。お互い一歩も引かずやり合っているようだ。こうして霞とやり合っているのを見るとよく分かる。あのフーという男、かなりのやり手だ。しかもまだ何かを隠し持っている節もある。霞にはやりにくい相手かもしれないな。フーは護と似たタイプの魔法剣士だった。もし護が練習相手をしていなかったら苦戦した相手だろう。しかし、今のレベルの霞なら勝てない相手ではない。事実少しずつ霞が押し始めてきている。杞憂だったかな?と思ったその時である。フーが不気味な声共に呪文の詠唱を始めた。それを聴いたとき、護は背筋がぞくっと来た。まずい!すぐに飛び出していく。
「彼のものとの盟約により、古の力解放せん。彼のもの、我の声を聞き、我の願いを聞き入れ、我に仇なす全てのものを滅せんことを・・・」
フーが唱えていたのは失われた闇属性の最高級魔法。そんなものをこんなところで使ったらこの闘技場ごと吹っ飛んでしまう。護は呪文詠唱が終わる前に斬りかかった。フーは瞬時に避け宙に浮く。
「ふふふ、もう遅い。この呪文は止められはせん」
フーは詠唱を続けた。フーの周りに濃い闇が広がっていく。観客がざわめきだした。
「止めてみせるさ。霞!」
そう言うと、霞を呼んだ。
「なに!?」
「奴になんとか斬りかかって、詠唱を長引かせろ!」
「分かった!」
そう言うと霞は斬りかかっていく。その間にこちらも呪文の詠唱を始めた。
「彼の者との盟約により、古の力解放せん。彼の者の力は光。我が願いは、邪悪なるものを共に滅せんこと。今再び、闇を払うべし!」
そう言うと光の輪が護の周りに集まり、手を上にかざすと空に上がっていく。
「霞、下がれ!」
霞がすぐさまこちらに飛んでくる。フーが魔法を唱える。
「ダークハザード」
同時にこちらも、唱える。
「我が放つは光のサークル。バニッシングレイ!」
空から一直線にフーを包み込むように闘技場に降り注ぐ。フーの魔法と護の魔法がぶつかり、闘技場が吹き飛び出す。観客が悲鳴を上げる。砕けた会場の破片が霞の方に飛んできた。
「危ない!」
咄嗟に護は霞をかばう。背中に堅いものが凄い衝撃で当たった。
「イツッ!」
軽く、言葉が出る。お互いの魔法はしばらく押し合いをしたが、やがてまわりに風をまき散らしながら消滅していった。
「お、おのれ!邪魔をしよって!!!」
護はすぐに、次の魔法を唱えていた。
「ホールド!」
フーの周りに光の線が円を描いたかと思うと、相手を縛り付ける。
「くそ!」
フーが悔しそうにうなりながら落ちてきた。
「はぁ〜、危なかった。悪いけど、その魔法にはサイレント効果もあるから、お得意の魔法も使えないよ」
「後少しだったのに!」
「はいはい。あんたみたいな危ないのがいるから、こっちは困るっつうの。こんなことしたって何の得にもならないでしょ?こっちはどんなに働いたって、給料上がらないっていうのに。割に合わないよ。まあ、あんたには聞きたいことが山ほど有るから、また後ほどね。お〜い、衛兵さん。こいつ連れてっちゃって」
そう言うと衛兵がすぐやってきて連行していった。
「霞、大丈夫?」
「私は、大丈夫だ。護こそ大丈夫か。かばってくれてありがとう」
「ああ、これぐらい大丈夫さ」
笑って返す。
「ところで、奴は何者なんだ?」
「さあね。それをこれから聞きたいとこだけど。会場ごと吹っ飛ばそうとする奴だから、相当危ない奴ってことは分かる」
「そうか」
「あの〜、お取り込み中すみませんが」
アナウンサーの人が聞いてきた。
「なんです?」
「いえ、こういう形で、大会が終わっちゃったんで、優勝者は霞さんということにしたいんですけど」
「ええ、そうですね。それで良いと思います」
「えー!みなさん、途中ちょっとしたハプニングが有りましたが、波瀾万丈だった第十一回闘技大会の優勝は、霞選手に決定しました!!!」
わー!わー!ピューピュー、パチパチパチ!歓声と拍手がわき起こる。霞は恥ずかしそうだった。
「おめでとう!」
「うん、ありがとう」
「では、優勝賞品の指輪と花束の贈呈です」
霞は賞品を受け取ると観客みんなにお辞儀をした。
「それと、優勝者には、あとで王様よりありがたいお言葉がありますので、あとで謁見の間にどうぞ」
「分かりました」
「それじゃあ、僕は仕事があるからこれで」
「ああ、また後で」
こうして護は、王のもとに事の状況を説明しに戻っていった。