大会前半
霞は緊張していた。受付で参加のサインをし、今は待合室にいる。周りは屈強そうな男や杖を持った魔術師、獣人なんかもいた。みんなそれぞれにトレーニングをしている。そいつらのことはさして気にもしなかったのだが、ただ一人、黒いフードを目深にかぶった怪しげな奴が片隅に座っているのが目に映る。そいつから、嫌な雰囲気がかもしだされていたのだ。なんとなく、直感的にやり合いたくない相手だと思った。
大会の対戦方式はトーナメント方式。五回勝ち抜いたものが優勝となる。案外少ないと思うかもしれないがそれもそのはず。既に予選が終わり、今いるのはその予選を勝ち抜いた猛者達だけである。霞は何故かシード扱いされたので予選はやらなかった。おそらく護が手を回したのだろう。まあ余計な体力を使わなくてすんだのは助かった。
数分後、開始を告げる鐘の音が鳴った。一人ずつ呼ばれ外に出ていく。時間が経つたび、徐々にメンバーが減っていく。とうとう霞の名前が呼ばれた。
「はい」
緊張した面もちで外に出る。外は既に熱気に包まれていた。会場の客席は人で埋め尽くされている。広い円型の舞台。独特の雰囲気。鼓動が早くなっているのが感じ取れた。
「ただいま現れましたのは、美しき剣士、霞選手!対するは優勝候補の一人である、ユーリ選手だー!」
アナウンスが響き渡ると、ユーリと呼ばれた男が反対からでてきた。槍の使い手のようである。会場が一気にわき上がる。
「ユーリ選手は前回の大会でニ位の成績を誇っている猛者!対する霞選手は今回が初出場!さらにシードであがってきた全くのダークホースだー!一体どんな試合を見せてくれるのか?では、試合、開始!」
アナウンサーの声と同時に試合が始まる。
「霞ー!がんばれー!」
どこからか護の声が聞こえてきた。
「女性が相手とは。本来、私は女性に手をあげるのは好きではないのだが、この場に立っている以上仕方があるまい。全力でいかせてもらう。最初から私に当たったことを、不運と思うんだな」
ユーリはそう言うと、すごい勢いで突っ込んできた。かなり速い。さすが前回ナンバーニを取っただけのことはあるか。冷静に分析しながら霞は避ける。確かにスピードはあるが、今の霞にしてみたら遅く感じられた。なぜなら護よりも明らかに遅いからである。殺気もたいしたものではない。その後もユーリは攻撃を続けるが霞にはかすりもしない。結果は明らかに見えていた。ユーリが少し疲れ間を置いた瞬間を狙い一発で決める。
「そ、そんな、ばかな・・・」
いかにも意外そうにユーリは倒れていった。会場が、一挙にどよめく。
「おーっと!あっけもなく、決まってしまったぞー!。霞選手強い。あのユーリ選手を一発KOだーーー!試合の行方はますますわからなくなってきました!今回は、大番狂わせがあるかもしれないぞー!!!」
霞は、控え室に戻っていった。その後も客達の歓声が響いてくる。結局、霞は難なく決勝まで進んでいった。しかしアナウンサーが言ったように大番狂わせがあったらしい。前回優勝者であった選手が準決勝であの、フードを目深にかぶった不気味な奴に一瞬にしてやられたらしいのだ。やはりただ者ではなさそうだ。しかし一番やり合いたくないなと思っていた奴とやることになろうとは。少し霞は嫌な予感がしていた。また名前が呼ばれ、とうとう決勝戦がはじまった。相手はフーと名乗っているらしい。開始早々、フーの周りに黒い矢が何本も現れ霞を襲う。それを横に避けるとすかさず霞は突っ込んでいった。魔術師なら懐に入ればなんて事はない。速攻で決めようと懐に入り斬りつける。しかし手応えがない。まるで護とやりあったときのようだ。その時、身体がビリビリ来るのを感じた。護とは違った、ねっちょりとまとわりつくような嫌な殺気である。今までやり合った奴とは異質な感覚だった。しかし、なにかがおかしい。霞は直感的に感じていた。確かに今、彼は私とやり合っている。しかし何かもっと別の目的があるようだった。それから激しい攻防が続いた。