些細な不安
練習最終日。
「今日で最後の練習になるけど、たぶん今の霞の実力なら優勝間違いないと思う。でも、優勝することが最終目的では無い以上、こちらも手加減せずに行くからね。それから、明日のことを考えて今日は夕方前には終わるから。いいね」
「はい」
「それじゃあ、早速始めるよ」
練習が始まった。今日は霞も一本取ろうと積極的に攻撃する。もう殺気に飲み込まれることもない。さすがに護も笑ってる余裕がないようだ。そのまま攻防が続く。途中で霞がフェイントをいれた。右に身体をフリ、左から斬りつけると見せかけてそのまま手首を返して逆の右側から斬りつける。さすがに護は引っかからなかったが、後ろに下がって避ける。しかしそれも霞は読んでいた。そのままの勢いで剣を前に突き出す。これにはさすがに護も驚いたらしい。受け止めることも出来ず、軽くではあったが腹に一発入ってしまった。やった!霞はそう思った。その瞬間。ゾクッ!!・・・。まるで心臓を鷲掴みされたような感覚に襲われる。まるであの時のような・・・。咄嗟に後ろに飛び退いた。しかしその後身体が動かない。護と眼があった。瞬時に自分の腹に剣が当たる。しかし気づいてみたら何も起こっていない。腹の辺りに違和感があるだけだ。身体がガクガク震えている。やられる!霞はすぐにそう思った。動け動けと身体に命令しても、びくりとも動いてくれない。明らかに護から、今まで感じたことのない殺気である。よく見ると、護の髪の色が黒くなっていることに気がついた。しかしすぐにもとの色に戻ってる。錯覚か?そう思ったとき身体がようやく動くようになった。そのままその場にうずくまる。はぁ、はぁ、と呼吸が荒い。汗もびっしょりかいていた。
「いや〜、たいしたもんだよ。まさか、一発でも当ててくるなんて。一瞬、本気になっちゃった。大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
護に手を引いてもらって起きあがる。
「ここまでくればもう僕が教えることもないね」
笑いながら、護は言っていた。
「いや、とりあえず後何本がつきあってくれ」
「良いよ」
そのあと、もう一本も入れることはできなかったが、十分に練習にはなった。二人は早めに切り上げると、ストロベリーでゆっくりすることにした。カウンターに座る。
「正直、怖かった」
コーヒーを飲みながら、ぽつりと霞が呟く。
「なにが?」
パフェを一生懸命に食べながら護は聞き返す。
「一本入れたときさ」
「ああ、ごめんね。自分でもびっくりしちゃったよ。あそこまで行くつもり無かったんだけど、当たった瞬間ついカッときちゃって」
「いや、良いんだ。ただ、全く身動きできなくなってた。もし、大会でそんな奴に出会ったら、おそらく私は、勝てないだろうな」
「大丈夫だよ」
自信ありげに護が言う。
「そこまで殺気を出す奴なんてまずいないさ。第一、フェアな大会だからね。そこまで出す必要がないから」
「そうか」
少し不安そうである。
「大丈夫だって。今の霞なら実力さえ出し切れば絶対勝てるよ。僕が保障する」
「ありがとう」
「だからそんな緊張せず、今日はゆっくり休むこと。これが僕の出来る最後のアドバイスさ。なんだったら、おまじないもかねて治癒魔法でもかけてあげようか?」
パフェを食べ終わって満足したようである。
「いや、良いよ。大丈夫。護に言われたら少し安心した。今日は、ゆっくり休むよ」
「素直でよろしい。じゃ、僕仕事があるからちょっと城まで行って来るね。明日の段取りとかいろいろ面倒くさいことがあるから」
「おう、行って来い」
「いってらっしゃい」
そうして護は出ていった。実際、やることがたくさんあったのだ。明日は相当なお祭り騒ぎとなるだろう。それに乗じて何かをたくらんでくる奴もいるかもしれない。そう言ったことを対策しにいくのであった。
「あー、めんどくさい」
護は空を見上げながらぼやいていた。