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護のちょっとした実力

「どう?かなり、やれるようになってきたかな?」 

 

「そうだね。よし、もう時間も後少ししかない。そろそろ仕上げの最終段階に入ろうか」

 

「最終段階?」

 

「そう、最終段階」

 

「具体的に何を?」

 

「基本的には今までと変わらない。ただ、少しレベルをあげた戦いをする。いわばより実戦に近い、それも、決勝を意識した戦いかな」

 

「ふーん」

 

「つまり、僕もそろそろちょっと本気を出すよってこと」

 

「今までとどう違う?」

 

「えーと。今までは霞に合わせた感じでやってきたけど、それをもう完全に止めて僕は僕の戦い方をする。まあやってみたら分かるよ」

 

 そう言って護はもとの姿に戻った。

 

「まずはやってみよう」

 

 霞は剣を構える。しかし護は剣を出さない。

 

「やってみるんじゃなかったの?剣は?」

 

「あるよ」

 

 護は集中すると、前に手をかざした。すると空間から黒の剣が現れる。

 

「それじゃあ行くよ」

 

 言うがいなや、呪文詠唱を始める。

 

「我放つは、風の舞!」

 

 風が扇形の刃のようになって左右から攻める。同時にもう一つ呪文を唱えた。

 

「シルフィードダンス」

 

 霞の眼から一瞬護の姿が消えたように見えた。どこに行ったかわからない。次の瞬間目の前に黒の剣が現れる。咄嗟に後ろに飛ぶが、その後を風の刃が襲う。何とかかわすが風の刃はブーメランのように戻ってきて、後ろからまた襲いかかってくる。後ろを振り返った途端、背中から殺気を感じ取る。ぞくっとして瞬時に後方にジャンプして風の刃といつの間にか後ろにいた護を飛び越える。着地するかどうかというところで、斬りかかってきた護の黒剣を剣で受け止める。護はにやりと笑うと、すぐ後ろに引き下がって間を置いた。

 

「やるじゃない」


 護はにこにこしながら言った。冗談ではない。霞は思った。今までと明らかにレベルが違う。動きを追って受け流すので精一杯。もしニ週間前の私なら瞬時にやられていただろう。それに、さっきから少し身体がビリビリ来る。どうやら、護の殺気のようだった。気を抜くとそれだけに飲まれてしまいそうである。動かなければ!と霞は思ったが、身体がうまく反応してくれない。しばらくにらみ合いが続く。手にびっしょり汗をかいていた。

 

「どうしたの?受け手ばかりじゃ、一本も入れられないよ」


 護が、プレッシャーを与える。霞は大きく深呼吸すると、恐怖を振り払うように一挙に突っ込んでいった。

 

「やーーー!」

 

 剣が護にあたる。しかし手応えがない!?そのままそれはゆらりと揺れて影のように消えていった。 

 

「身体が堅くなってるよ。今までの動きはどうした?」

 

 少し離れた右後方から、護の声が聞こえてきた。咄嗟に振り返る。どうして!?確かに当たったはずなのに・・・。

 

「不思議そうだね。でも、あれぐらいで動揺してたらだめだよ。実際の実戦ではもっと不思議なことが起こるから」

 

 護はゆっくり近付いてくる。なにげなく近寄ってきているようであるが全く隙がない。その後も一方的だった。何度か斬りかかってみたもののかすりもしない。ひたすら護の剣と魔法の合わせ技から避けるので時間だけが費やされていく。それは、体力が奪われていくのと比例していた。疲れでほんの一瞬下を向いたとき、首もとに冷たいものがあたった。

 

「うーん。少しレベルが高すぎたかな?」

 

 護は苦笑しながら剣を消した。

 

「大丈夫?」


 呆然としていた霞を心配して護が声をかけた。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 そう言いながら、霞の心の中は全然大丈夫ではなかった。このニ週間一体何だったのだ。まるで歯がたたないなんて・・・。うぬぼれていた訳ではない。でももう少し、いけると思っていた。今までの護の動きには十分ついていける自信はあったからだ。それがここまで差を見せつけられると、ショックが隠せない。しかし次の護の言葉で救われた。

 

「まあ、こんな感じで残り二日はやっていくから。でも凄いよ。正直ここまでやれるとは思っても見なかった。かなり本気でかかっていったんだけど、ぎりぎりまで集中力を落とさず僕の動きについていくんだもん。やっぱり今までの努力は無駄じゃなかったな」

 

「ほんとか!?」


 思わず大声で聞いてしまった。護はその声にびっくりして少し後ずさる。

 

「う、うん。本当だよ。霞は凄い勢いで上達している。僕、瞬殺するつもりでかかっていったのにそれをかわせるんだもん。攻撃のほうは、なんか動きが堅かったけど、今までの霞がやってきた動きを見せれば、もう少しやり合えたはずだよ」

 

「そうか」


 少しほっとする。

 

「まあ、最初は戸惑いなんかもあったんだろうから、動きが堅くなっちゃったのかもしれないね」

 

「うーん。なんか、殺気みたいなのに気圧されちゃって」

 

「ああ。それは良くないな。実戦では皆殺気をみなぎらせて向かってくるんだから。まあ、それに慣らすための最終段階なんだけどね」

 

 それは重々承知していたが、あれほどの殺気を出す相手はいるのだろうか?

 

「とにかく、あと二日も有れば慣れるでしょ。その間に気圧されないようにして、自由に動き回れるようになればいいよ。しかし、最初からでもこんな感じなら、次はもう少しレベルあげても大丈夫かな?」

 

 まだ上があるのか?正直勘弁して欲しい。しかし、この際わがままは言ってられない。

 

「・・・。任せるよ」

 

「そっか。じゃあ、その時次第って事で。今日はこの辺にしておこう」

 

「ありがとう」

 

 二人はストロベリーのほうに向かっていった。沈む夕焼けがやけに綺麗であった。

 


 次の日は、かなり良い動きが出来ていたと思う。やはり受け流しが主体になっていたが、冷静になれていたし、何度かかする程度に当てることが出来たからだ。この調子なら何とかなるかもしれない。明日には絶対一本取ってみせる。その日の夜、今日の練習の反省をしながら霞は意気込んでいた。少し身体が高揚してうまく寝付けなかったのだ。

 

 「いよいよ明後日が本番か。少し緊張するな。でも、ここまで頑張ってたんだ。確かな手応えも感じている。なんとか恥じない戦いをして優勝しなければ。しかし、護が出場しなくてよ良かったな。たぶん、勝てないよ」

 

 独り言を言いながらベッドの上でゴロつく。しばらく寝付けなかったが、さすがに疲れもたまっていたのだろう。いつの間にか眠りに落ちていた。

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