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真実とは。  作者: ナトラ
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思い出の川にて①

 やがて本格的な冬を迎え、辺りは一面白い雪で覆われた。路には、人や犬が歩いたであろう足跡がどこまでも続いている。朝日が降り注ぐと電線から滴り落ちる水滴が、ぽたぽたと落ちてくる。家の屋根の端にあるつららは、次第に己を溶かしながら地面の雪へと落ち、やがて静かに消えていく。そんな朝のことであった。いつものように、あきとを起こしに行ったけいこは、家中に響き渡る大きな声で「もう。今起きないなら朝ごはんはもちろん、今度からは夕ごはんも次の日も、ずっとなしだからね。お姉ちゃん、毎日あきとを起こしにくるの、本当に大変なんだから。」と、肩まである髪の毛を一つに束ねながら、布団で頭を隠しているあきとに言った。あきとは、もぞもぞと動いていた。そして、ぴたとその動きが止まった時、「え、夕ごはんもないの。」と姉に尋ねた。姉は、えへんと咳払いして、「そうよ。次の日も、その次の日も、ずっとないよ。えへへへ。」と、不気味な笑みを浮かべて言った。それを聞いたあきとは、それはご免だと言わんばかりに、さっと起き上がった。そして頭をぽりぽりと掻き、ふわわと欠伸をしながら洗面所の方へようやく歩いていった。「これは効くわ。」と、少しにんまりしながら、けいこは弟の後姿を眺め思った。


 父親との一件以来、けいこは大人の雰囲気が現れ、あの日から日々少し余裕が生まれるようになっていた。それは弟のあきとにも伝わり、姉は以前よりもどこか雰囲気が優しくなったように思った。父親は、朝はほとんど起きてこない。たまに、子供達が食事を終えて出かける頃起きてきて、「なんだ、まだいたのか。」と言うのが日常となっていた。そして出かける前に食器などを洗っているけいこを見かけると、そのそばへ寄り「いいから、置いておけ。」と言った。するとけいこは「帰ってきてから洗うのは面倒だから。」と言うので、まあそれはそうだなと思うようにしていた。しかし最近の父親は、けいこがそう言ってもその手をそっと掴み、「いいから、俺に任せとけ。」とけいこに強く伝えた。最初の頃は、「何するのよ。」と反発し、けいこはその手を振り払いつつ、出かけて行くのが常であった。父親は日々そうした後も、二人が出かけて行ったのちに食事を済ませ、三人分まとめて食器を洗っていた。すると最近では、「ありがとう。それじゃあ、行ってきます。」とけいこは、素直に出かけていった。「全く。あいつは、母親そっくりだな。」と、一人笑みをこぼしながら、けいこが用意した朝食を採った。


 そうした日々を送って徐々にお互いの気持ちを確認し合いながら、冬を越し、やがて春を迎えた。あきとは徐々に早起きするようになり、最近では父親と共に、朝食の準備をするようになっていた。逆にけいこは、あきとに起こされるまで眠っていた。あきとは、「お姉ちゃん、いい加減起きてよ。」と言いながら、姉の布団を捲ろうとそれをひっぱりながら言った。今までとは逆の立場である。姉は、「ううん。もう少し・・・。」と、頭を布団にすっぽり覆うようにしていたため、あきとは、にこにこしながら「お姉ちゃん。朝ごはん、お姉ちゃんの分食べといたよ。」と言った。すると姉は、「え。うそでしょ。」と言い飛び起きて、台所の方へ駆けていった。あきとはそれを見て、「大丈夫だよ。朝ごはんは、これからだから。あははは。」と、姉の背中に向かってげらげら笑った。姉は真顔でくるりと振り返り、「あきと。やったな。」と、笑っている弟の後ろに回り込み、さらに懲らしめようと、あきとのわき腹辺りを両手で抱え込むようにくすぐった。するとあきとは、「ぎゃははは。ひひひい。はあはあ。もうやめてよう。わははは。」と、笑いの頂点を迎えていた。それを聞き、姉は手を休め「ふん。解ればいいのよ。」と、勝ち誇るように言い、その場を去った。その騒ぎをやれやれと始終見ていた父親は、「おおい。いつまでやってんだ。いいから飯出来たから食ってしまえ。」と、大きな声で二人に言った。「はあい。」と、二人声をそろえて父親に答え食卓に向かった。


 それぞれ食卓に座り、けいこは父親とあきとが用意した食事を食べ始めた。今日の朝食の献立は、ご飯、豆腐とわかめの味噌汁のほか、焼き魚と漬物であった。父親は、魚の焼き加減がうまくいったので、「けいこ。どうだ。うまいだろ。この魚。」と、得意げに言った。確かに、表面には適度に焼き目が付いていて、それとは対照的に、中身はふんわりとした食感でおいしかった。けいこは、「うん。おいしい・・・。かも。」と、やや照れながら父親に言った。そのけいこの反応が父親は嬉しかったようで、「な。そうだろう。」と、わははと笑いながら上機嫌で言った。そして続けて、「俺は魚を焼くのも得意だが、捕るのもうまいんだぞ。」と、二人に誇らしく言った。するとあきとが、目を丸くして「え、本当。じゃあ、今度みんなで魚釣り行こうよ。」と言った。「よし、いいだろう。」と、父親は腕まくりして「それじゃ、今度の休みの日にでも行ってみるか。」と、二人に提案した。あきとはとても喜んでいた。しかし、けいこは別にどっちでもいいやというような雰囲気で何も返事をせず、ただ黙って食事を続けていた。そんな姉の様子もお構いなしに、あきとは「じゃあさ。あそこの川で釣ろうよ。」と踊るような気持ちを抑えて、父親に問いかけた。すると父親は、「ああ。いいぞ。」と自信たっぷりに答えた。けいこは、ただ黙って二人の会話を聞き、そのうち食事を終えた。

 父親との魚つり。いや、魚捕りになるのであろうか。けいこは、なんだかあまり乗り気ではない様子。そのけいこの想いが明らかに。次回、思い出の川にて②。お楽しみに。(なお、最終話までカウント3となりました。)

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