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プロローグ



ロードランの人々よ、君たちは選ばれた。

そして十字架に身を捧ぐ者たちよ、君たちもまた選ばれた。


キリスト者よ。君たちは選ばれた。君たちは、世界を救う使命を負った。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その日、六人の勇者たちは、遠く東の国の大悪魔討伐の帰り道、ガタゴトと馬車に揺られながら、ロードラン国の王都へ向かう帰り道を進んでいた。


「もうすぐですね」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


青く澄み渡る空に白く大きな入道雲が浮かぶある夏の日、空から天使が舞い降りた。

青く澄み渡る空に浮かぶ白く大きな入道雲が割れて、空から天使が舞い降りた。




青く澄み渡る夏至の日、


青く澄み渡る夏の空に、そよ吹く風が心地良いある日、空から天使が舞い降りた。 


空が青く澄み渡り白い雲がそよ風に吹かれているある夏の日、

そよ吹く潮風が心地良いある夏の日、


青く澄み渡る夏の空に白い大きな入道雲が浮かびそよ風が肌に心地いいある日、空を割り大きな大きな天使がこの地上に舞い降りた。

地上では、王城の庭園に、二万を超える人々が、王女の結婚式を祝うために集まっていた。

その天使は、見るに恐ろしい、巨大なひとつの瞳だった。その瞳を、六枚の巨大な羽が包み込み、羽ばたいている。天使が地上に近づくにつれ、人々はそのあまりの大きさに圧倒される。その瞳だけでも城よりも大きく、広げた羽は空よりも高くあった。

人々はこれを見て悟った……きっとこれは、ただびとに姿を見せることはない、位高き天使だろうと。



青く澄み渡る夏の空に白く大きな入道雲が浮かびそよ風に肌が心地いいある日、高い空の白い雲を割り大きな大きな大きな大きな大きな天使が舞い降りた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




青く澄み渡る夏の空に白く大きな雲が浮かび、心地いいそよ風が肌撫でる、そんな日の午後の出来事だった。その日、大きな城の庭園に、二万を越える人々が、ふたりの男女の結婚式を祝うため詰めかけていた。その二人とは、ロードラン国王女セレスティアと、騎士ローウェンのことだ。

緑の木漏れ日が降り注ぐ美しい庭園で、二人は誓いのキスを交わした。集まった国民は万雷の拍手を送り、父王も涙を浮かべ、娘の幸せを喜んでいた。






青く澄み渡る夏の空に白く大きな入道雲。そよ吹く潮風に肌が心地良い、そんなある日の出来事だった。二万人を超える人々が、大きな城の庭園に集まっていた。それは、二人の男女の結婚式を祝うためだ。その二人とは、ロードラン王女セレスティアと、騎士ローウェンだった。

木漏れ日が降り注ぐ緑の美しい庭園で、二人は誓いのキスを交わした。集まった国民は万雷の拍手を送り、父王も涙を浮かべ、娘の幸せを喜んでいた。



青く澄み渡る夏の空に白く大きな雲が浮かび、心地いいそよ風が肌撫でる、そんな日の午後の出来事だった。その日、大きな城の庭園に、二万を越える人々が、ふたりの男女の結婚式を祝うため詰めかけていた。その二人とは、ロードラン国王女セレスティアと、騎士ローウェンのことだ。

木漏れ日が降り注ぐ美しい緑の庭園で、二人は誓いのキスを交わした。集まった国民は万雷の拍手を送り、父王も涙を浮かべ、娘の幸せを喜んでいた。


ふと、セレスティアは何かの気配を感じ、空を見上げた。彼女がいつまでも空に目を凝らしているので、人々はどうしたことかと思い、一緒になって空を見上げた。

突如雲が割れ、まぶしい光が地上に降り注いだ。そしてそのまばゆい光のカーテンの中を、なにか巨大な、影のようなものが、ゆっくりと降りて来た。


(イラスト 011 01)


それは、天使だった。その姿は、見るに恐ろしいひとつの巨大な瞳だった。瞳は、六枚の巨大な翼に包まれている。天使が地上に近づくにつれ、人々はその現実とも思えないあまりの巨大さに圧倒された。その瞳は城よりも大きく、広げた翼は雲よりも高くあった。


天使が地上を睥睨すると、人々は恐れおののき、地面にひれ伏した。静寂に沈む大地に、天使の声が響き渡った。


「人々よ、案ずることはない。我は天使ラファエルなり。いま我は、神の言葉を伝えるため、ここにいる」


天使は続けた。


「人々よ、聞け。つい先ほど、ここよりはるか東のある大地にて、かつて古の時代に滅ぼされたある大悪魔が復活を果たした。その大悪魔は、やがてこの世界を滅ぼすに足る力を持つ」


人々は驚き、顔を上げた。天使は続けた。


「その悪魔の力はあまりにも大きく、人々に払うことはできない。その悪魔を倒すのは、救い主の光によってしかない。我々はこの世界を救うため、まず救い主を復活させなければならない」


天使は続けた。


「セレスティアよ、聞け。汝は神の御子を宿した。そのからだに宿る子は、いずれ救い主をこの世界に復活させるものなり」


突然の託宣に、民衆のあいだにどよめきが広がった。王は椅子を蹴り、呆然と立ち尽くした。セレスティアは、おもわず自分の腹をさわった。そして指先に何かのぬくもりを感じ取ろうとした。天使は続けた。


「セレスティアよ、聞け。この世界の東の果て、ラザロと呼ばれる場所において、救い主はお眠りになられた。まことに救い主は、世界中に神の教えを伝え、人々を癒やした。そして、その旅の途上において、傷つき、ひとときのあいだお眠りになられたのだ。今や御方の傷は癒え、ふたたび世界に神の教えを広めんと、復活の時を待っている」



セレスティアは頷いた。今やこの突然の邂逅の驚きは過ぎ去り、彼女は自らの子に託される使命を、一つとして漏らすことなく脳裏に刻もうとした。


「セレスティアよ、これからそなたに四つの魔法を授ける。これらの魔法は、私に続き詠唱を繰り返すのだ。準備は良いか」


セレスティアは立ち上がり、頷いた。天使は、続けた。


「ひとつめの魔法は、清めの魔法である。人にかけられた呪いを解き、身中の毒を消し去る魔法だ―――


『躯を穿つ咎人の槍 鏑を伝う贖いの血 盲を開く晴れの光 洗礼の奇跡』」


セレスティアは凛として立ち上がり、その詠唱を繰り返した。その声は、静まり返った庭園に、高らかに響き渡った。


それを聞き届けると、天使は続けた。


「ふたつめの魔法は、闇を打ち払う魔法だ。闇をかき消し、悪魔の肉体を穿つ光の呪文だ―――


『荒野の夜の四十日 行方も知れぬ放浪の旅 風に聞こえた魔の誘い 堕天使が来た試練の日 

 打ち払われた偶像の石 夜霧に消えた幻想の国 はねつけられた星頂き 真実を語る神の口』」


みたび、セレスティアは詠唱を繰り返した。天使は続けた。


「みっつめの魔法は、誓いの騎士を立てる魔法だ。この魔法は、忠誠と引き換えに大いなる力を与える。忠実なるしもべを集め、旅の友とせよ―――


『肩を切り裂く鋼の誓い 神に捧げし清き肉 風にはためく十字架の旗 救いの主の殉教者

 嵐の夜を翔ける雷鳴 逆巻く海の青い奔流 大地を染める紅桜 戦場の果ての白い空』」


セレスティアは、その詠唱を繰り返した。天使は続けた。


「よかろう。では最後の魔法だ。この魔法は、復活の魔法である。十字架の光によりて、あらゆる身体の傷を塞ぎ、焼けただれた肌を癒やす。そしてこの魔法こそが、救い主をこの世界に目覚めさせる魔法でもあるのだ。―――


『孤独に進む茨の道 背中に担ぐ神籬の木 石畳を擦る朱い裸足 丘の頂のどくろの地

 ともがらを結う鉄の鎖 同胞(はらから)を打つ罪過の楔 大地を覆う夜の帷 光が消えた十字架の死 

 視界を塞ぐ漆黒の闇 歩き疲れた迷える羊 わずかに晴れた薄暗がり 地平に見える朝の兆し

 開け放たれた岩の棺 解き放たれた稀人の火 世界を照らし映す光 復活の日』」


セレスティアは、詠唱を繰り返した。天使は続けた。


「よかろう。ではこれより先の未来に起こることを伝えよう。いまから十五年後、わたしは託宣を伝えるためふたたびこの地を訪れる。託宣ののち、お前たちは十字軍を率い、東の地へ向かいラザロを奪還するのだ」


天使は続けた。


「神は十字軍の導き手として、託宣の日に先立ちアダムを復活させる。アダムの魂は、ここよりほどなく東のヴァルハラードの遺跡に眠っている。この遺跡に決して悪魔を近づけさせぬようにせよ」


天使は続けた。


「神は、アダムの他に三人の使徒を地上に遣わすだろう。一人は、光の聖剣に選ばれし勇者。一人は、闇の魔剣に誘われし冥者。一人は、無限の叡智を得た賢者。汝の子は、彼らとともに、世界を旅する。そしていつの日か、救い主のもとへとたどりつき、この世界を魔の手から救い出すだろう」


天使はこう語ると、天上へと帰っていった。


この出来事は、世界中に伝えられた。人々には、救い主がどこに眠っているのかわからなかった。それでもなお、数多の冒険者たちが、救い主が眠るというラザロの地を探すため、東の海へと旅立っていった。



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世界で最初の光を見た聖者

世界でさいしょに生まれ落ちた聖者


神の手により生まれ落ちた聖者

大地から生まれた聖者


土より生まれし最初の人


ヤハウェが撫でた茶色の土。




世界に再びの



再びの託宣を伝える天使





天に選ばれし光の聖剣


冥府に誘われし闇の魔剣。


ヤハウェが撫でた最初の土。


無限の叡智を得た賢者。


再びの託宣を伝える天使


託宣を携えし伝道者




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未来の彼方から来た王者

未来の世界の時巡り

暦外れ










七十の騎士を従える魔法だ。



「ふたつ目の魔法は、道しるべの魔法だ。救い主の足跡を探し、それを追いかけるために使え。


―――――――大地を染める黄昏の日 嵐の海の灯台の火 砂漠の夜の地上の星 主の道しるべを照らす魔法」


空にきらめく 北極星

空に輝く真昼の月

東の空の真昼の月


セレスティアは、ふたたびその詠唱を繰り返した。天使は続けた。







天使は続けた。


いまより十六年の後、わたしは再びこの地を訪れる。そのとき、神の御子は東へと旅立つのだ。できる限りでいい、多くの人を救い、信仰の道へと導くのだ




「救い主の辿った足跡は、今も世界各地に残っている。しかしそれは、聖書の文字のように、悪魔に認識することはできぬ。お前たちは、神の御子に救い主の道を辿らせよ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

























私は今のようなやり方は好かないなhuhuuhu


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




それは、ある夏の日の出来事だった。ある王城の庭園に、二万を越える人々が集まり、ふたりの男女を見守っていた。その二人とは、ロードラン国王の娘セレスティアと、騎士ローウェンのことだ。今日、この場所で、ふたりの結婚式が執り行われていたのだ。


さんさんと木漏れ日が降り注ぐ緑の庭園で、二人は誓いのキスを交わした。集まった国民たちは万雷の拍手を送り、父王もまた涙を浮かべ、娘の幸せを喜んでいた。


ふと、セレスティアは何かの気配を感じ、空を見上げた。彼女がいつまでも空に目を凝らしているので、ローウェンはどうしたのと聞き、一緒になって空を見上げた。

突如、空が割れ、その裂け目から、まぶしい光が地上に向かって降り注いだ。そして、そのまばゆい光のカーテンの中を、なにか巨大な翼を持つ影が、ゆっくりと舞い降りて来た。


(イラスト 011 01)


ひとびとは、ひと目見て悟った。それは、ただびとに姿を見せることはない、位高き天使だった。その姿は見るに恐ろしい。その天使は、大きな体に六枚の翼を持っており、体の中心には、巨大な瞳が埋まっている。その体は城よりも大きく、広げた翼は雲よりも高くあった。


天使がその大きな瞳で地上を睥睨すると、人々は恐れおののき、地面にひれ伏した。静寂に沈む大地に、天使の声が響き渡った。


「セレスティアよ、案ずることはない。我は熾天使ラファエルなり。いま我は、神の言葉を伝えるため、ここにいる」


天使は続けた。


「人々よ、聞け。今宵、ここよりはるか東の大地にて、かつて古の世に滅ぼされたある悪魔が復活を果たした。その悪魔は、やがてこの世界を滅ぼすに足る力を持つ」


人々は驚き、顔を上げた。天使は続けた。


「その悪魔の纏う闇はあまりにも暗く、人々に払うことはできない。その闇を払うのは、救い主の光によってしかない。我々はこの世界を救うため、まず救い主を復活させなければならない」


天使は続けた。


「セレスティアよ、聞け。汝は神の御子を宿した。その胎内に宿る者は、救い主をこの世界に復活させるものなり」


突然の託宣に、民衆のあいだにどよめきが広がった。王は、椅子を蹴って立ち上がり、口を開けて呆然と立ち尽くした。セレスティアは、おもわず自分の腹をさわり、何かのぬくもりを感じ取ろうとした。

天使は続けた。


「ここから東にあるラザロという地において、救い主はお眠りになられた。まことに救い主は、世界中に神の教えを伝え、人々を癒やした。そして、その旅の途上において、傷つき、裏切られ、ひとときのあいだ、お眠りになられたのだ。今や御方の傷は癒え、ふたたび世界に神の教えを広めんと、復活の時を待っている」


天使は続けた。


いまより十六年の後、わたしは再びこの地を訪れる。そのとき、神の御子は東へと旅立つのだ。できる限りでいい、多くの人を救い、信仰の道へと導くのだ



天使は続けた。


「ではセレスティアよ、これからそなたと御子に四つの魔法を授けることとする。いまから私に従い詠唱を繰り返すのだ。準備はいいか」


セレスティアが頷くと、天使は、魔法の詠唱を諳んじた。


「ひとつ目の魔法は、清めの魔法である。人にかけられた呪いを解き、身中の毒を消し去る魔法だ。この魔法を使い、困っている人を癒せ。そして、多くの人を信仰へ導くのだ


―――――――躯を穿つ咎人の槍 鏑を伝う贖いの血 盲を開く晴れの光 洗礼の奇跡」


セレスティアは、その詠唱を繰り返した。それを聞き届けると、天使は続けた。




「みっつ目の魔法は、闇を打ち払う魔法だ。闇の魔法をかき消し、悪魔の肉体を穿つ光の呪文だ。


―――――――荒野の夜の四十日 行方も知れぬ放浪の旅 風に聞こえる魔の誘い 堕天使が来た試練の日


打ち払われた偶像の石 夜霧に消えた幻想の国 はねつけられた星頂き 真実を語る神の口」


みたび、セレスティアは詠唱を繰り返した。天使は続けた。



みっつめの魔法は、騎士を立てる魔法だ。

おのが下僕とせよ




―――――――七十の騎士




 

「よかろう。では最後の魔法を授ける。この魔法は、癒やしの魔法である。天から降る光により、あらゆる身体の傷を塞ぎ、焼けただれた肌を癒やす。そしてこの魔法こそが、救い主をこの世界に目覚めさせる魔法でもあるのだ。


―――――――孤独に進む茨の道 背中に担ぐ神籬の木 石畳を擦る朱い裸足 丘の頂のどくろの地


ともがらを結う鉄の鎖 同胞(はらから)を打つ罪過の楔 大地を覆う夜の帷 光が消えた十字架の死 


視界を塞ぐ漆黒の闇 歩き疲れた迷える羊 わずかに晴れた薄暗がり 地平に見えた朝の兆し


開け放たれた岩の棺 解き放たれた稀人の火 世界を照らし映す光 復活の日」


セレスティアは、詠唱を繰り返した。


「よかろう。これで、私はすべてを語った」


天使はそう言うと、天上へと去っていった。


この出来事は、やがて世界中に伝えられた。


こうして数多の冒険者が、救い主が眠るというラザロを探すため、東の地へと旅立っていった。






「神は、五人の使徒を地上に遣わすであろう。一人は、光の聖剣に選ばれし勇者。一人は、死の魔剣に誘われし冥者。一人は、消された歴史を生き抜いた覇者。一人は、無限の叡智を得た賢者。一人は、世界の終わりを見た預言者。汝の子は、彼らとともに、世界を旅する。そしていつの日か、救い主のもとへとたどりつき、この世界を悪魔の手から救い出すだろう」






七十の騎士を従える魔法だ。



「ふたつ目の魔法は、道しるべの魔法だ。救い主の足跡を探し、それを追いかけるために使え。


―――――――大地を染める黄昏の日 嵐の海の灯台の火 砂漠の夜の地上の星 主の道しるべを照らす魔法」


空にきらめく 北極星

空に輝く真昼の月

東の空の真昼の月


セレスティアは、ふたたびその詠唱を繰り返した。天使は続けた。









「救い主の辿った足跡は、今も世界各地に残っている。しかしそれは、聖書の文字のように、悪魔に認識することはできぬ。お前たちは、神の御子に救い主の道を辿らせよ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
































私は今のようなやり方は好かないな


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




それは、ある夏の日の出来事だった。ある王城の庭園に、二万を越える人々が集まり、ふたりの男女を見守っていた。その二人とは、ロードラン国王の娘セレスティアと、騎士ローウェンのことだ。今日、この場所で、ふたりの結婚式が執り行われていたのだ。


さんさんと木漏れ日が降り注ぐ緑の庭園で、二人は誓いのキスを交わした。集まった国民たちは万雷の拍手を送り、父王もまた涙を浮かべ、娘の幸せを喜んでいた。


ふと、セレスティアは何かの気配を感じ、空を見上げた。彼女がいつまでも空に目を凝らしているので、ローウェンはどうしたのと聞き、一緒になって空を見上げた。

突如、空が割れ、その裂け目から、まぶしい光が地上に向かって降り注いだ。そして、そのまばゆい光のカーテンの中を、なにか巨大な翼を持つ影が、ゆっくりと舞い降りて来た。


(イラスト 011 01)


ひとびとは、ひと目見て悟った。それは、ただびとに姿を見せることはない、位高き天使だった。その姿は見るに恐ろしい。その天使は、大きな体に六枚の翼を持っており、体の中心には、巨大な瞳が埋まっている。その体は城よりも大きく、広げた翼は雲よりも高くあった。


天使がその大きな瞳で地上を睥睨すると、人々は恐れおののき、地面にひれ伏した。静寂に沈む大地に、天使の声が響き渡った。


「セレスティアよ、案ずることはない。我は熾天使ラファエルなり。いま我は、神の言葉を伝えるため、ここにいる」


天使は続けた。


「人々よ、聞け。今宵、ここよりはるか北の大地にて、新たなる悪魔がこの世界に生まれ落ちた。その者は、やがてこの世界を滅ぼすに足る力を持つ」


人々は驚き、顔を上げた。天使は続けた。


「その悪魔の纏う闇はあまりにも暗く、人々が直視することはできない。その闇は、救い主の光によってしか払うことはできない。我々はこの世界を救うため、まず救い主を復活させなければならない」


天使は続けた。


「セレスティアよ、聞け。汝は神の御子を宿した。その胎内に宿る者は、救い主をこの世界に復活させるものなり」


突然の託宣に、民衆のあいだにどよめきが広がった。王は、椅子を蹴って立ち上がり、口を開けて呆然と立ち尽くした。セレスティアは、おもわず自分の腹をさわり、何かのぬくもりを感じ取ろうとした。

天使は続けた。


「ここから東にあるラザロという地において、救い主はお眠りになられた。まことに救い主は、世界中に神の教えを伝え、人々を癒やした。そして、その旅の途上において、傷つき、裏切られ、ひとときのあいだ、お眠りになられたのだ。今や御方の傷は癒え、ふたたび世界に神の教えを広めんと、復活の時を待っている」


天使は続けた。


「救い主の辿った足跡は、今も世界各地に残っている。しかしそれは、聖書の文字のように、悪魔に認識することはできぬ。お前たちは、神の御子に救い主の道を辿らせよ」


天使は続けた。


「神は、五人の使徒を地上に遣わすであろう。一人は、光の聖剣に選ばれし勇者。一人は、死の魔剣に誘われし冥者。一人は、消された歴史を生き抜いた覇者。一人は、無限の叡智を得た賢者。一人は、世界の終わりを見た預言者。汝の子は、彼らとともに、世界を旅する。そしていつの日か、救い主のもとへとたどりつき、この世界を悪魔の手から救い出すだろう」


天使は続けた。


「ではセレスティアよ、これからそなたに四つの魔法を授ける。これらの魔法は、託宣を受けた者にしか扱うことはできない。いまから私に従い詠唱を繰り返すのだ。準備はいいか」


セレスティアが頷くと、天使は、魔法の詠唱を諳んじた。


「ひとつ目の魔法は、清めの魔法である。人にかけられた呪いを解き、身中の毒を消し去る魔法だ。


―――――――躯を穿つ咎人の槍 鏑を伝う贖いの血 盲を開く晴れの光 洗礼の奇跡」


セレスティアは、その詠唱を繰り返した。それを聞き届けると、天使は続けた。


「ふたつ目の魔法は、道しるべの魔法だ。救い主の足跡を探し、それを追いかけるために使え。


―――――――大地を染める黄昏の日 嵐の海の灯台の火 砂漠の夜の地上の星 主の道しるべを照らす魔法」


空にきらめく 北極星

空に輝く真昼の月

東の空の真昼の月


セレスティアは、ふたたびその詠唱を繰り返した。天使は続けた。


「みっつ目の魔法は、闇を打ち払う魔法だ。闇の魔法をかき消し、悪魔の肉体を穿つ光の呪文だ。


―――――――荒野の夜の四十日 行方も知れぬ放浪の旅 風に聞こえる魔の誘い 堕天使が来た試練の日


打ち払われた偶像の石 夜霧に消えた幻想の国 はねつけられた星頂き 真実を語る神の口」


みたび、セレスティアは詠唱を繰り返した。天使は続けた。

 

「よかろう。では最後の魔法を授ける。この魔法は、癒やしの魔法である。天から降る光により、あらゆる身体の傷を塞ぎ、焼けただれた肌を癒やす。そしてこの魔法こそが、救い主をこの世界に目覚めさせる魔法でもあるのだ。


―――――――孤独に進む茨の道 背中に担ぐ神籬の木 石畳を擦る朱い裸足 丘の頂のどくろの地


ともがらを結う鉄の鎖 同胞(はらから)を打つ罪過の楔 大地を覆う夜の帷 光が消えた十字架の死 


視界を塞ぐ漆黒の闇 歩き疲れた迷える羊 わずかに晴れた薄暗がり 地平に見えた朝の兆し


開け放たれた岩の棺 解き放たれた稀人の火 世界を照らし映す光 復活の日」


セレスティアは、詠唱を繰り返した。


「よかろう。これで、私はすべてを語った」


天使はそう言うと、天上へと去っていった。


この出来事は、やがて世界中に伝えられた。


こうして数多の冒険者が、救い主が眠るというラザロを探すため、東の地へと旅立っていった。




七十の騎士を従える魔法だ。







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