病室の少女
不幸な少女がいた。
不運にも事故に遭い、植物状態になってしまったのだ。
「もう起きても大丈夫なのかい?アズサ」
「うん。大丈夫よ。もうだいぶ元気になったから」
少女は花束を持つ少年ににっこりと微笑む。
「いい香り。なんていう花なの?」
「さあ?僕は花には詳しくないから。ただお花屋さんにお見舞い用に見繕ってもらっただけだから」
「そう」
少年が花瓶に花を行けようとすると「ちょっと待って」と少女に止められた。
「こういう切り花はこう斜めにハサミを入れとくと、長持ちするのよ」
「へえ、詳しいんだね」
「別に。一般常識でしょ」
「悪かったね。一般常識なくて」
少し拗ねた風な少年を見て、また少女は笑む。
「でも、長持ちさせちゃいけないんじゃなかったっけ?病院に長くいるからってことになるから」
「さあ?それはどうだったかしら?」
少女は引き出しからハサミを取り出し、茎を切っていく。
そして、花瓶に生けた。
「きれいだね」
「私が?それとも花が?」
「どっちも」
「そう言う時は私がっていうんじゃないの?」
「僕は嘘がつけないから」
意地悪そうに少年は肩をすくめて見せる。
「ねえ、またお願いしていい?」
少女が取り出したのは真っ白な絵本。
「だめ?」
「だめじゃないけど」
「子供っぽい?」
「うん。確かに子供っぽいかな。でも、そんな所も含めてアズサが好きだよ」
「ばか」
そう言いながら、少女はベッドで佇まいを整え、目をつむるのであった。
少年はその様子を見ながら、真っ白な絵本に手をかける。
何も書かれていないそのページに少年が指を這わせると、文字が、絵が浮かび出てくる。
そして、言葉を紡ぐと、世界は広がった。
少女の目の前には海が、山が、空が、お城やいろんなお店が現れる。
そこでは野を駆けることもでき、ダンスを踊ったり、空をも飛べる。
広がる世界は自由だった。
「ねえ・・・」
少女は少年の名を呼ぼうとして、逡巡する。
(そう言えば、まだ名前を決めてなかった)
思案し、いつくかの候補が出た。
「リョウ?」
「ん、何?」
結局あてがった名は初恋の人の名だった。
その名を呼べば、淡い思い出がよみがえり、心の奥が落ち着きなくそわそわしている。
「好きだよ」
「うん。僕も」
そして、少年は少女の思い通り、とびきりの笑顔を見せるのであった。
その病室には花が飾られていた。
そして、少女はただ幻想の中で幸福な夢を見ている。
「アズサ」
声をかけても反応は無い。
ただ少年は少女の動かない手を握るのであった。
お疲れさまでした。
これでこのお話たちはおしまいです。
ここまで読んでくださった皆さまに感謝と謝罪を。
ありがとうございました。
すみませんでした。




