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ゴミ山の少女

溢れかえるゴミの山。

あと一年でゴミの埋め立て地は使えなくなって、新しく埋め立て地候補を作らないとなった時、政府は大規模なエコロジー政策を執る。

差し迫った危機感に国民も協力的であった事も功を奏して、見る見るうちに寿命は延びていった。

という話である。

もちろんエコ活動だけでゴミ問題が解決できる訳は無く、これは建前。

実情は違った。


「よう、新人。初勤務がQ地区なんて、運がねぇな。腕とか足とか持ってかれないよう用心して行け」

「え?!Q地区って危ないところなんですか?」

コウは先輩に脅され、怖がっていた。

家が貧しく、片親であったコウは家計を助けるため中学を卒業すると就職した。

当然不安も多く、がちがちに固まっていた。

そんなコウを見かねて先輩が気を使ったのだろう。

冗談半分にからかってみせる。

「おい、あんまり新人脅かすなよ。これから仕事だって言うのによ」

「悪い悪い、こいつがあんまり緊張してるからさ」

と先輩達が笑い飛ばすのを見て、コウは安堵する。

「良かった。だったら言うほどQ地区は危険じゃないんですね?」

「ああ。確かに他の作業場とは少し違うが特別危険ってことは無いよ」

「言いかえれば重機が走りまわっている他の作業場と変わらないくらいには危険だってことだ」

「そ、そうですよね。確かにどんな作業場でも真剣にやらないと怪我しますもんね」

張り切るコウに自然先輩達は破顔する。

「で、Q地区ってどんなところなんですか?」

「そうだな。Q地区のQはクイーンのQで」

「クイーン?」

「そ。女王様のいる高貴なゴミ山さ」

行って見れば分かると先輩達は言って詳しくは語らない。

コウは顔に疑問符を付けるばかりだった。


そして、コウ達はQ地区にたどり着く。

「あれがクイーン?」

ゴミ山の中にポツリと小屋が一つ。

その中に薄汚い少女が一人。

もはや服とは言えないボロ切れをまとい、首に犬のように鎖でつながれていた。

目は白く淀み、手足は変形、というよりも退化したような形をしていた。

腹はまるで妊婦のように大きく膨れ上がっていた。

「そ。あれがクイーン」

「人間じゃないですか!何であんなところに・・・」

「あれが人間?違うよ。あれは人間なんかじゃない。すぐに分かる」

そう言って先輩はにんまり笑う。

「おーい。危ねぇぞー。そろそろそこどけよー」

重機に乗り込んだ先輩がゴミを少女の前に寄せると、少女はゴミを食べ始めた。

バリバリ、むしゃむしゃと。

そこに金属やビニールの分別は無く。

ただ少女の口の中に消えていく。

まるで大食い選手権でも見ている様だった。

どんどんと量を減らすゴミ。

コウには少女の口の奥がまるでブラックホールのように思えた。

「な?あんなの人間じゃねぇだろ?」

確かに人間の規格からは外れている様には思えたが。

「じゃあ、新人。これで散らかったゴミを女王様の前に集めてくれよ」

そう言って、先輩はコウに鉄製の熊手を渡す。

「なーに、大丈夫。近付き過ぎなきゃ喰われねぇよ」

「く、喰われる?!」

先輩はまた意地悪そうな笑顔を浮かべている。

またからかわれているのだとコウは思ったが、その日女王様に鉄製の熊手を三本献上するという名誉な経験からあながち嘘では無いかもとも思った。


そして、一月後。

またコウはQ地区の担当になった。

「おい、何であんなところにクイーンがいるんだ?」

「もしかして鎖が切れたのか?それとも自分で食いちぎったのか?」

車での移動中、そのゴミ山には本来いるはずの無いあの少女がいた。

バリゴリと何か固いものを咀嚼していた。

ゴミさえ食べていなければ、その姿に憐れみも浮かんでこようものだが、恥も外聞も無くただ貪る姿はおぞましく思えてならない。

「とりあえず事務所に連絡してみるわ」

先輩はその場で携帯を取り出し、事務所に連絡した。

その後、結局総出でクイーンを捕獲する羽目になるのだった。

「おーい」

クイーンをひきつれてQ地区に近づいた頃。

従業員の誰かが叫んだ。

「こっちにもクイーンいるぞー!」

従業員達の間で動揺が走った。

コウも他の従業員同様小屋の元に走り、急いだ。

そこには確かに先程まで鎖をつけて引っ張っていたクイーンと寸分も変わらぬ少女がいた。

瞳は白濁し、手足は退化したようで、首には首輪があり、鎖で繋がれている。

そう言えば先程まで引っ張ってきたクイーンには初め首輪が無かった。

やはり別の個体だったのだろう。

「腹が・・・」

コウは小屋の中のクイーンを見て気付く。

「腹がどうした?」

「一ヶ月前、僕が見た時にはそのクイーンの腹が大きかったのに、今は・・・」

しぼんで、くびれまで生んでいる。

「もしかしてあの引っ張ってきたクイーンって、こいつの子供か?」

それは当然浮かんでくる疑問であった。

そして、

「馬鹿な?!だってあいつとこいつじゃ全然変わらないじゃないか?例え一ヶ月前に生まれたとして、一ヶ月であんなになるものなのか?」

その疑問も当然出てくるものだった。

しかし、従業員達は気付く。

自分達が人間ではないと蔑みながらも人間の常識に少女を当てはめている事を。

「で、でもこれでゴミの処理速度も倍じゃないか」

「そうだな。そうだよ。いい事じゃないか」

「まあ、こいつらの餌のゴミなんて腐るほどあるんだし、一人や二人増えたってどうってことないよな」

「何なら他の地域のゴミもここで処理できるかもしれないぜ」

それらは従業員達の中で自然発生的に出てきた意見だった。

皆が皆、乾いた笑いの中で不可解な事から目をそらせ、自分を納得させようとしていた。

その中でコウだけが一人思い悩んでいた。

コウにはあった。

もしかしたらこのまま世界がこの少女達に食いつくされてしまうのではないだろうかという漠然とした不安感が。


夜陰。

あれから焼却施設の性能の向上という理由でまたそのゴミの埋め立て地の寿命は伸びた。

他の地域からのゴミの受け入れを本格的に考えるほどに、彼女達の食欲は旺盛だった。

人が生活していれば当然ゴミは出てくる。

それは時として他の生物の生命を奪うほどに、雑多に、大量に。

まるでその業を食らいつくすように少女達はゴミを食らう。

そして、また片方のクイーンの腹が大きくなった。

『あいつら単一生殖できるのか?』

『単一生殖?なんだそりゃ?』

『あいつの父親いないんじゃないかって話だ。だって、誰もあんな化け物を相手しようと考えないだろ?』

『違いねぇ。けど、もしいたら襲ってる内に食われて、もう命ないかもな』

『死人が出たって話は聞かないから、やっぱり・・・』

コウはそんな先輩達の世間話がひどく気になった。

しばらく胸の内にもやもやとした思いを抱えたままだったが、ようやくコウはその答えを手にする。

その手には鉄パイプが握られていた。

(孕んでない方のクイーンを処理しよう。もしあの腹の大きくなったのが孕んでいるのが理由で無いにしても、それは元の状態に戻るだけ。問題ない。もしまた子が生まれて二人になったら、腹が膨らんだ時にまた同じようにすればいい)

そして、Q地区へ。

もう彼女達の口元にゴミを集める者は無い。

眠っているのか分からないが、彼女達の瞼は閉じてしまっている。

「あれか」

コウの見つめる先には少女が一人。

コウには何かをいじめて楽しむ趣味など無い。

どちらかというとその感情は正義感に近かった。

世界の危機、と言うとまるでおままごとのようだが、コウにはそう感じてとれた。

もし実際に危機になるとしてもそれはずっと先の事であり、その時その問題を片づけるのはコウの役目ではない。

もしかしたらそんな大事にならないかもしれない。

それでもコウは。

手にしていた鉄パイプを出来るだけ長く持ち、出来るだけ近付かないでもよいようにした。

鎖の長さや、位置を確認して、コウは振りかぶる。

鈍い音がした。

少女は動かない。

だが、コウは近付いて少女の死亡を確認する訳にもいかず、何度か殴り続けた。

(人を殺すとこんな感じなのかな)

何となしにコウは思う。

コウはグチャグチャになった少女の口元に鉄パイプをあて、彼女が食事をするかを確認する。

動かなかった。

カラランと鉄パイプを投げ捨て、コウは一仕事終えた。

思いため息を吐き捨てて、その場を立ち去ろうとした時。

がりり。

鋭い痛みがコウの右足首を襲った。

コウの足元には少女が一人。

その瞳は白く淀み、手足は退化したように縮こまり、その首には首は無く、鎖にも繋がれてはいない。

コウは小屋に目をやる。

そこには腹の大きなクイーン。

こいつじゃない。

そして、コウが手を下したグチャグチャの少女。

こいつでもない。

(もしかして双子だったのか?!)

彼女達は動きが緩慢ですぐに逃げる事が出来る。

何処から現れたのかも分からない新しい少女をおいて、コウは逃げだす。

食いちぎられた足首からはだらだらと血が流れ、体を引きずりながらコウは逃げる。

頭がふらふらとする。

痛みが襲い、顔をしかめる。

そして、コウは倒れる。

薄れいく意識の中でコウは聞いた。

バリバリぐしゃぐしゃという咀嚼音。

それは一つでは無く、ゴミ山のいたるところから聞こえていた。

闇は深く、その正体を確認する事は出来ない。

コウの視界はだんだんと夜の闇ではない闇が覆い、あまり見えなくなる。

そして、最後に見る。

コウの目の前には少女が一人。


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