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灯台の少女

そこは小さな漁村。

リュカはその村に住む少年だった。

幼いころに母親を亡くし、今は漁師の父親と二人で暮らしていた。

その村には小高い丘があり、そこに灯台が一つあった。

その灯台は漁業を生業とするその村にとって、いわば命綱の様な物。

人の出入りは制限され、灯台守が一人いた。

しかし、押すなと言われれば押したくなるもの。

入るなと言われれば入りたくなるのも人の性である。

ある日、リュカは好奇心の名の下、灯台守の目を盗んで灯台の中に忍び込んだ。

「あれは何だろう?」

リュカは跳ね踊る心臓を押しつけ、灯台の階段を上がるとそこであるものを見つける。

「これは女の子?」

灯台の最上階で台座に寝かされていたのは少女。

少女は拘束具で台座にしばりつけられており、目をつむっている。

これはもしかして人形だろうかと、リュカは怪しんで少女に触れてみる。

そこには確かに血の通った温もりがあった。

大変なものを見つけてしまったのかもしれないとリュカは狼狽する。

あの灯台守がこの少女を監禁しているのだろうか?

誰かにこの事を教えなければいけない。

けど、誰に?

話した相手があの灯台守とグルだったら?

父親は漁に出たまま。

あと数日は帰ってこない。

父親が帰ってくるまで待たないといけないのだろうか。

でも、その間にこの子に何かあったなら。

そんな事をリュカが思案していると、遠くで夕刻を知らせる鐘が鳴った。

すると、物音をたてて台座が動き出した。

リュカが目を丸くしている前で、台座は直立する。

そして、緩やかに台座は回り出した。

辺りは光に包まれた。

その強い光にリュカは思わず「うっ」とうめきをあげる。

「これは一体どういう事?」

リュカは光源に対して問いかける。

しかし、返事は返っては来ない。

今まで閉ざされていた少女の瞳から放たれる光。

そうしてその日、リュカは灯台の秘密を知ることになったのだった。


それから数日後の事。

リュカはあの日から足しげく灯台に通っていた。

リュカは少女が起きている時、寝ている時に関わらず沢山話しかけたが、何も反応は無かった。

悪戯心に少女に触れてみた事もあったが、ただリュカが気恥ずかしくなるだけだった。

ただ人形のように前をじっと見て、いつも夜ぐるぐると回るのだ。

それでもリュカは灯台に通う事を止めようとはしなかった。

村に同じ年頃の子供がいなかったこともあるのだろう。

リュカにとって少女と一方的であれ、話ができる事は楽しみだったのだ。

そうしてリュカは思うようになる。

このまま少女をここに縛りつけていいものだろうか、と。

あれから父親に少女の事を相談できてはいない。

きっと大人には大人達の取り決めがあるのだろう。

この少女がここからいなくなれば灯台はただの塔になってしまう。

だから、この少女がここにいる事が大人達には必要なのだ。

リュカには分かっていた。

その少女の存在意義を。

けれどその日、少年は少女をさらう。

村は灯らない灯台に騒然となった。


彼女の瞳は青い。

そして、猫の目のように紡錘状になっていた。

昼の日の光があるうちは彼女の瞳もぼんやりとした明かりだけで、まぶしくは無い。

「おなか減っている?」

リュカはいつもの一人ぼっちでは無い食事に心躍らせていた。

少女はぼんやりと空を見つめるだけでいつも通り反応は無かったが、リュカは気にせず昨日の夕食だったクラムチャウダーを温め直す。

「少し熱いよ」

そう言って、皿に盛って少女の分と自分の分をテーブルに置いた。

少女は湯気をあげるその物体を不思議そうに見つめていた。

そう言えばこの子は食事とかどうしていたのだろう。

そんな事がリュカの頭をよぎる。

「こうやって・・・」

リュカはまるで赤子に教える様にスプーンですくって見せる。

「こうする」

そして、口に入れ、その熱さに身悶えした。

その様子を見ていた少女は真似る様にスプーンを持つ。

うまくすくえないようで、こぼしながら口に入れた。

「えっ?!熱くないの?」

何事も無いように咀嚼する少女にリュカは驚く。

そして、少女の口元が火傷したように赤くなっているのに気付き、慌てた。

「こういう時はこうやって、フーフーして・・・」

リュカは少女のスプーンを奪い、食べさせてやる。

口元からこぼれるクラムチャウダーを拭う。

そんな風に二人が食事していると戸を激しく叩く音がした。

慌てて少女をベッドに追いやって、シーツをかぶせた。

「大変だ!リュカ。お前の親父さんの船と連絡がつかなくなった」

現れたのは灯台守だった。

「全く、灯台が壊れているから漁は控えろって言ってあったのに。お前の親父さん言う事聞かねぇからな。まあ、とにかく心配すんなや。何とかなる。ただ少し時間かかるとは思うから何かあったら遠慮なく他の人頼れな」

リュカは灯台守のニカッとした笑顔を直視できずにいた。

言い淀むリュカをおかしく感じた灯台守は気がつく。

「何故食器が二つある?」

「それは・・・」

「失礼するぞ」

躊躇なく、部屋に侵入した灯台守はすぐに少女を見つけた。

「リュカ、何故とは問わん。ただこの子はすぐにでも連れていくぞ」

「ま、待ってよ。その子は何も悪い事はしてないじゃないか?なのに何であんなところに閉じ込めなくちゃいけないのさ。そんなひどい事なんでするのさ」

「じゃあ、お前は自分の父親がどうなってもいいと言うのか?」

何も言い返せなかった。

リュカにとって父親は唯一の肉親であり、大切な人だ。

それを少女と天秤に掛けようなんて事は出来なかった。

少女と父親の二人共を助けたかったが、リュカはどちらも助けるすべを持たなかった。

そして、

「ごめん、ごめん、ごめんなさい・・・」

そうしてリュカはまた台座に繋がれる少女に謝罪するのだった。


それから幾ばくかの時が流れる。

灯台はまだそこにあり、夜の闇を照らし続けている。

そして、少女もそこに・・・


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