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灰の街を越えて *AI執筆  作者: gramgram


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90/108

p81 完全日本語版

「もっと目立たない場所がいい」

ヴァルターは返事を待たず、斜面を駆け下りた。

乾いた土が靴の下で崩れ、遠くの砲声が山肌を震わせるたびに、胸の奥まで低い

振動が伝わってくる。

フリンツは、しぶしぶといった様に手綱を引き、後を追った。


二人は湾の縁を回り込むように進んだ。

風向きが変わるたび、どこかで上がった煙が薄く流れ込み、焦げた匂いが鼻の奥にまとわりつく。

馬が耳を伏せ、蹄の音が不規則になる。

そのたびに、遠くで何かが崩れるような音が反響した。


やがて、丘陵の切れ目から細い獣道が海側へ落ちているのが見えた。

ヴァルターは迷わずその道へ馬を向けた。

斜面の陰に入ると、潮の匂いが急に濃くなる。


岩場に囲まれた小さな入り江が現れ、その奥に船がひっそりと停泊していた。

甲板では数人の男たちが荷を扱っていたが、こちらに気づいて動きを止める。

短く飛び交う外国語らしき声の内容はわからない。

だが、歓迎されていないことだけは、すぐに理解できた。


「……厄介なのを見つけたな」

フリンツが馬上で低くつぶやく。


入り江の空気が、薄い刃のように張りつめた。





船は波を切り、荒れた海面をゆっくりと進んだ。

甲板に括りつけられた二頭の馬がは揺れに合わせて身を強張らせ、蹄がときおり

木板を叩く。

マストには、風にあおられたトルコ国旗がはためいている。

その赤が、灰色の空と海の中でやけに鮮やかに見えた。


船員たちは必要以上に口を開かず、ただ互いに目配せをするだけだった。

積み荷には、分厚い板材と金具で補強された、明らかに漁船には不釣り合いな木箱が混じっている。後ろ暗いものを運んでいるのは明らかだった。


「……中立国の船が、こんな海域で運び屋か」

つぶやくヴァルターにフリンツは肩をすくめる。

「中立国が、当事者双方に物資や情報を融通することはままある。

どちらにも敵視されず、どちらにも必要とされる。こんな場所だからこそ、な」



やがて浅瀬の色が明るくなり、陸風に湿った土の匂いが混じり始める頃、さびれた漁村が視界に現れた。

崩れかけた桟橋と、傾いた倉庫が数軒。

人影はまばらで、風に揺れる網だけがかすかな音を立てている。


船が横付けされると、岸から一人の男が歩み寄ってきた。

帳簿を抱え、周囲を気にするように視線を走らせている。

この村が“表の港”ではないことは、その落ち着かない仕草だけで十分に分かった。


男は口を開きかけ、ふと船長の背後に目をやった。

見慣れない二人の男。

恰好は他の乗組員と大差ないが、手に小銃を携えている。

男の表情がにわかに固まった。


フリンツが一歩前に出て、低く言った。

「中で話そう」

船主は短く息を呑み、周囲を見回したのち、近くの小屋を顎で示した。



小屋の中は薄暗く、潮と油の匂いが混ざっていた。

木の机と椅子が二つ。

壁には古い地図が貼られている。


船主は机の向こうに立ち、腕を組んだ。


「お前たちは何者だ?」


フリンツが片言のトルコ語でゆっくりと告げる。


「俺たちはただの旅行者だ。あんたらの商売に口を出すつもりはない。 ただ、もののついでにセヴァストポリまで乗せて欲しいだけだ。金はないが、馬が二頭ある」


船主は眉をひそめ、短く笑った。


「セヴァストポリだと? 正気か? 俺たちは自殺志願じゃない」


その嘲りが消える前に、フリンツがホルスターの革をわずかに押した。


船主の目が一瞬だけそこに止まり、表情が引き締まる。


「……こっちも命が懸かってる。行けるのはせいぜいケルチまでだ」


フリンツは短く頷いた。


「交渉成立だ」


→P.82

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