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ヴァルターは目を逸らし、背を向けた。
呻き声は後に残った。
廃屋を離れ、戦闘の音が遠ざかる方角へ、建物の影を縫うように進む。
どこかに、まだ静かな場所があるはずだった。
舗装は砕け、道は判別しづらい。
壁の崩れた建物が連なり、視界は遮られている。
足音を立てぬよう、瓦礫を避けて歩いた。
風が吹き抜ける。
どこかで鉄が軋む音がした。
誰かがいるのか、ただの残響か、判別がつかない。
ヴァルターは一瞬立ち止まり、耳を澄ませた。
何も聞こえない。
だが、直感が警鐘を鳴らしていた。
次の角を曲がった瞬間、背後で声が上がった。
ロシア語。
短く、鋭い。
振り返らずに走った。
ただ、走った。
数歩。
銃声が、ひときわ大きく響いた。
体が前のめりに倒れ、動かなくなる。
あとは、何も感じなかった。
END




